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更新履歴・裏ヴァージョン(2019年)


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目次

2019.2.2. 今年もよろしくお願いします
2019.3.2. 祝・オリヴィア・コールマンのオスカー受賞!
2019.4.6. ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる
2019.5.4. 私も頑張らないと
2019.6.1. 『LUCIFER/ルシファー』
2019.7.6. 『グッド・オーメンズ』
2019.9.7. ブダペストに行ってきた
2019.10.5. すべては繋がっている
2019.11.2. 濃い本しかないっ!
2019.12.7. パキとジャップ


2019.2.2.  今年もよろしくお願いします

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 
 過去2年の年末年始がNetflixのテレビドラマ『私立探偵ダーク・ジェントリー』のシリーズ一挙公開で大騒ぎだったのに比べ、第3シリーズの製作が見送られた今回は平静な年越しだった。昨年10月からBBCでテレビドラマ『ドクター・フー』第11シリーズの放送が始まったりもしたが、製作総指揮がスティーヴン・モファットからクリス・チブナルに、主演がピーター・カパルディからジョディ・ウィテカーに変わったことで、ダグラス・アダムスや『銀河ヒッチハイク・ガイド』へのオマージュや目配せが消えたこともあって、作品の出来不出来と別の意味で私が色めき立つ機会もなかった――クリス・チブナルが最初に書いた『ドクター・フー』の脚本、第3シリーズ第7話が『銀河ヒッチハイク・ガイド』オマージュ作品で、その名もズバリ「42」だっただけに、ちょっと期待してたんだけどな。まあ仕方ない。
 そんなこんなで、何だかいろいろなことが一段落したのかなとしみじみしていた頃、久しぶりに「ご意見・ご感想はこちらまで」のページからメールが届いた。アントニオ・ガデス関連の調べ物をしていて私のホームページにたどり着き、もし分かったら教えてほしいとことがあるという。その数時間後、「自力で解決しました」とのメールが追加で届き、残念ながら(?)私の出番はなくなってしまったが、それでも私のホームページを何らかの形で参考にしていただけたのなら、それはそれで十分嬉しい。ここ数年、アントニオ・ガデス関連のページは放置気味になっていたけれど、これを機にまたちょっと振り返ってみようかな。
 そうそう、私のホームページを形成する3本柱の残る1本、ユーリ・ノルシュテイン関連についても、2019年1月21日にツイッター経由で新しいドキュメンタリー映画が公開されるとのビッグニュースが飛び込んで来た。映画のタイトルは『ユーリー・ノルシュテイン 《外套》をつくる』。3月下旬から東京/渋谷のシアター・イメージフォーラム他で公開される予定で、特別鑑賞券を劇場窓口で買うと「ノルシュテイン直筆オリジナルミニ手ぬぐい」が付いてくるそうな。普段の私はおまけ欲しさに映画の前売り券を買うことはないけれど、ハリネズミさんのオリジナルイラストが描かれているとなれば話が別だ。何が何でもシアター・イメージフォーラムで特別鑑賞券を買わねばならん!

 ……ということで、2019年もまだまだ地道に更新を続けたいと思います。今回の更新は、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の追加紹介。世界中の「濃い」ファンたちのさまざまな思い入れに、読んでいて感心するやら共感するやら、もうタイヘン。みんな、『銀河ヒッチハイク・ガイド』との出会いについて、出会った後の人生について、語りたいんだよね。その気持ち、よーーく分かりますとも。私も負けちゃいられないわ。

 それから「My Profile」欄に「2018年のマイ・ベスト」も書き足したので、こちらもよろしく。このコーナー、2001年の分から毎年発表してきたが、今回初めて日本映画が第1位になった。
 映画の第1位を選ぶのに迷いはなかったのに対し、小説を1作選ぶのにはえらく迷った。訳してくれてありがとうの意味をこめてダグラス・アダムスの『長く暗い魂のティータイム』にしようかなとも思ったけれど、それじゃあまりに芸がないし、ジョン・ウィリアムスの『ブッチャーズ・クロッシング』はすごく気に入ったけれど、2014年に同じ著者の『ストーナー』を選んじゃったし、日本の年末ミステリランキングで史上初の4冠前制覇に輝いたアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』もめちゃくちゃおもしろかったけれど、一度読めば気が済んじゃったし。ということで、悩んだ末に選んだのがリチャード・フラナガン著『奥のほそ道』。題材が題材だけに、正直、気軽に手に取れる本ではなかったけれど、さすがブッカー賞受賞作、格が違った。

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2019.3.2.  祝・オリヴィア・コールマンのオスカー受賞!

 私の大好きなイギリスの女優オリヴィア・コールマンが、映画『女王陛下のお気に入り』でアン女王を演じてアカデミー主演女優賞を受賞した。
 いやあ、実にめでたい。『女王陛下のお気に入り』だけでなく、近年彼女が主演したイギリスのテレビドラマ『ブロードチャーチ』や『ナイトマネジャー』も大好きだし、先月までBBCで放送されていたテレビドラマ版『レ・ミゼラブル』も彼女のマダム・テナルディエだけを目当てに観ていたくらいだ。アカデミー賞授賞式のスピーチもとびきりチャーミングで、なるほどコールマンの数々の素晴らしい芝居の背後には、技術や知性だけでなく、こういう素敵なお人柄もあったのだなと思わずにはいられなかった。
 が、このコーナーでわざわざオリヴィア・コールマンの話を持ち出したのは、勿論、彼女が他でもない「ダグラス・アダムス関連人物」リストの一人だからである。オリヴィア・コールマンは、2007年から2008年にかけて、ラジオドラマ版『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』とその続編『長く暗い魂のティータイム』で、怒れる秘書ジャニスを演じていたのだ。
 今から10年以上前でも、オリヴィア・コールマンはテレビのコメディ番組『ピープ・ショー ボクたち妄想族』(2003年〜2015年)でイギリス国内では十分知名度のある女優だったかもしれないが、でも10年後に彼女がオスカーを獲得するほどのビッグネームになると予想した人はほとんどいなかったと思う。ダーク・マッグス、あのタイミングでよくぞ彼女をジャニス役に起用してくれました。ラジオドラマ『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』『長く暗い魂のティータイム』、今ならAudible.comでダウンロード視聴できるので、聴いてくれる人が一人でも増えるといいな。というか、私も久しぶりに聴き直してみようっと。
 しかし、これまで「ダグラス・アダムス関連人物」に名前を挙げた大勢の役者の中で、アカデミー賞を受賞したのはオリヴィア・コールマンが初めて、と思っていたけれど、忘れてた、昨年のアカデミー賞で映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』でゼイフォードを演じたサム・ロックウェルが『スリー・ビルボード』で助演男優賞を受賞していたっけ。彼の名前は「ダグラス・アダムス関連人物」ではなく映画キャスト一覧で紹介しているとは言え、サム・ロックウェルの受賞をスルーするとは誠に申し訳ない。私はこれまで映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』の最大の欠点は冒頭のキャストクレジットで主演のマーティン・フリーマンを差し置いて一番最初にサム・ロックウェルの名前を流したことだと常々思っていたが、一応アカデミー賞俳優になったことだし許してやるか……と一瞬思ったけど、いや、やっぱり許してやらん(笑)。
 
 そして今回の更新は、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 を引き続き紹介。イマドキの若い人にはピンとこないだろうけど、ネット検索なるものが存在しなかった時代ならではの発見の驚きや喜び、私も痛いくらい分かりますとも! 

 それから、前回の同コーナーでも紹介したドキュメンタリー映画『ユーリー・ノルシュテイン 《外套》をつくる』。私も早々に「ノルシュテイン直筆オリジナルミニ手ぬぐい」付き特別鑑賞券を買いに東京/渋谷のシアター・イメージフォーラムに足を運んだところ、早く行き過ぎて「ノルシュテイン直筆オリジナルミニ手ぬぐい」がまだ納品されておらず、代わりに映画上映当日に受け取るための引換券を貰うことに。ま、それはそれで構わないけれど、でも映画の上映開始日が3月になった今なお公式サイトで「3月下旬」としか書かれていないのが気がかりで、そっちのスケジュールだけでもそろそろ決まってくれないかなあ。

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2019.4.6.  『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』

 3月23日から上映が始まったドキュメンタリー映画『ユーリー・ノルシュテイン《外套》をつくる』を観に、東京/渋谷のシアター・イメージフォーラムまで行ってきた。
 2019年2月2日付の同コーナーに書いた通り、前売券を買った時に受け取った引換券で「ノルシュテイン直筆オリジナルミニ手ぬぐい」も無事ゲット。早速、切りっぱなしの縁の部分をまつり縫いして部屋に飾っている。普通に「手ぬぐい」として使うなんて、そんなもったいないことできませんって。
 それはさておき肝心の映画のほうは、才谷遼監督がモスクワにあるノルシュテインのスタジオに行ってインタビューする、というもの。映画が始まるや否や、字幕で説明されるまでもなく、あ、通訳の児島宏子さんだ、あ、ノルシュテインの助手のターニャ・ウスヴァイスカヤさんだ、と、分かってしまう自分がストーカーじみててちょっと怖い。ロシア語が全然わからないにしては、ノルシュテインの語り口に馴染みがありすぎるのも怖い。考えてみれば、ファン歴30年以上だもんな。我ながらしみじみしつこい性格だよ。
 当然、ファン歴=《外套》の完成を首を長くして待っている歴、ということになるが、30年もの年月も過ぎてしまえばあっという間だった。故に、ノルシュテインの 《外套》が一向に完成しないことについても、私に言わせれば「30年もの年月も過ぎてしまえばあっという間だよね」としか思わない。そりゃ1秒でも長く作ってほしいのは山々だけど、結局のところ、作るも作らないもノルシュテインの自由だし。
 が、『ユーリー・ノルシュテイン 《外套》をつくる』の才谷遼監督に言わせれば、そういう問題ではないらしい。インタビューの中で、ノルシュテインに対し「作品の完成をみんなが待っていることを、あなたはちゃんと理解していない」と責めるような口調で繰り返していて、スクリーンのこちら側にいる私としては黙って観ているしかないのが歯がゆかった。芸術家としての責務がある、世間の期待に応えなくてはいけない、というのは一見立派な考え方のようだけれど、この種の義理でがんじがらめになって自分で自分の首を絞めるのが日本人の一番よくないところじゃないの? 挙げ句、「いつになったら完成するのか」なんて、そんなこと真顔で訊かれてもノルシュテイン本人にだって答えられないに決まってるじゃないか……。
 勿論、インタビューというのは相手が答えに窮する様を捉えることにも意義がある。そこが馴れ合いの内輪トークとは違うところだ。ひょっとすると、才谷監督の狙いもそこにあったのかもしれない。でも30年来のファンとしては、インタビューのたびに「《外套》がいつになったら完成しますか」と同じ質問をされてうんざりしているノルシュテインの姿を見るより、「ノルシュテインと行くサンクトペテルブルク文学散歩」のシーンのほうがはるかに興味深いしありがたい。何なら、ノルシュテインと児島宏子さんがサンクトペテルブルクを歩き回り、ゴーゴリやドストエフスキーゆかりの場所を訪れては解説する、というだけの映画を作ってくれてもいいのよ?
 さらにワガママを言えば、サンクトペテルブルクに土地勘のない(私のような)人間にも街の位置関係や距離感がつかみやすいよう工夫してもらえたなら、もっとありがたかったんだけどな。ノルシュテイン本人が手がけた訳でもないゴーゴリの「鼻」のアニメーションを、わざわざ新規に作って挿入したりしなくていいから。
 
 気を取り直して今回の更新もまた、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の続き。今回採り上げたエッセイ3本はどれもダグラス・アダムスと『ドクター・フー』について書かれたものだが、それぞれに愛憎入り乱れていておもしろい。


2019.5.4.  私も頑張らないと

 在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の紹介を始めてはや半年、なのに今回の更新で追加した分を含めても、まだ全体の三分の一程度である。先は長い。
 私自身、かなりしつこいアダムス・ファンの一人だと思う。が、それでもこの本に寄稿されている方々の熱意や情報量や思い入れのすごさには頭が下がる。と同時に、おのれの詰めの甘さを不甲斐なくも思う。
 ケンブリッジ大学図書館に所蔵されているアダムス個人の書類に直接アクセスすることを許された、公式伝記本の作者ジェム・ロバーツや、『ドクター・フー』のノベライズ作家ジェイムズ・ゴスらが書いたものに「新発見」があるのは、ある意味、当然のことだ。だが、You and 42 の書き手たちはあくまで市井の人たちである。それも、書き手はみんながみんなイギリス人という訳でもない。そりゃ同じ英語圏だから、英語すらが外国語である私よりは情報を得やすいだろうし話も早いだろうが、特別なコネクションも持たない外国人でありながら私が全然知らなかったことを当たり前のように把握されている様を目の当たりにすると――やっぱり自分のダメさ加減に凹む。ううううう。
 と、いつになく私を落ち込ませることになったのが、今回追加した "All Snuggled Up But Ready to Run: Doctor Snuggles" というタイトルのエッセイ。1979年にアダムスとジョン・ロイドが「Doctor Snuggles」という全13話のアニメーション番組の脚本に参加していたこと自体は、ジェム・ロバーツが書いたアダムスの伝記本にも書かれている。でも、そのうち調べてようと思ったきり、このエッセイを読むまでは自分が放置していることすらもはやすっかり忘れ果てていたじゃないの!
 ……っていうか。考えてみればジェム・ロバーツの公式伝記本すら随分前にメモもとらずにざっと一読したきり、このホームページにきちんと反映させることすらしていなかった。今となってはこの伝記本の詳しいことは全然思い出せないので、内容を反映させるなら、今度こそきっちりメモを取りながら読み直さなくてはならない……。
 正直、考えるのも恐ろしいが、私がこのホームページを立ち上げたのは2001年2月12日。うかうかしていると、20周年はもう目の前だ。ダグラス・アダムス以外のことにも少しは関わっているとはいえ、それでもこんなに長くやっているにもかかわらず、この遺漏の多さたるや。そりゃネタ枯れするよりは幸せかもしれないけれど、さすがにちょっと気合いを入れ直さないといけないなあ。
 
追伸/アダムスが『これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』の中で採り上げていた、ニュージーランドの飛べないオウムことカカポのヒナが、この4月、何と70羽以上も孵化したとのこと。現在確認されている成鳥が147羽だそうで、たったそれだけしかいないのに70羽も新たに誕生したとはまさに驚異的である。成鳥になれずに死んでしまうヒナも多いだろうけど、明るいニュースにはちがいない。どうかこのまま順調に個体数を増やして、絶滅危惧から脱しますように!

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2019.6.1.  『LUCIFER/ルシファー』

 前回の同コーナーで「気合いを入れ直さないと」と書いたものの、5月上旬はいつも以上に全然頑張らない日々が続いていた。
 というのも、4月末から発症したブドウ糖球菌による外耳炎がちっとも治らなかったから。私は昔から鼻や喉や耳の粘膜が弱く、近所の耳鼻咽喉科にしょっちゅうお世話になっていて、外耳炎も年に一度くらいの割合でかかっている。が、いつもなら1週間ほどでさくっと治るのに、今回ばかりは点耳薬と抗生剤を処方されても一向に完治しない。症状は改善しているので治療の方向性は間違っていないのだが、ただ回復速度があまりに遅く、とうとう長年の担当医から「イライラするとブドウ糖球菌が増えやすくなるので、なるべく心穏やかに過ごすことを心がけてみましょうか」と苦笑いで言われてしまった。
 ううむ。医者の指示とあっては仕方がない。あれをしなきゃこれもしなきゃ、ああ結局全然片付かない、とか考えるのは止めて、何もかも全部うっちゃらかしたままダラダラすることにしよう。そしてその手のダラダラには、Netflixでテレビドラマシリーズでも観るのが一番。それも、気の滅入るような人間関係とか社会問題が出てこない、ひたすらお気楽そうな内容で、かつ、このホームページの更新内容には全然関係がないものがいい。
 そこで選んだのが、アメリカのテレビドラマ『LUCIFER/ルシファー』。たまたまこのドラマの新シリーズが配信開始直後だったため、Netflixのドラマ一覧の画面で一番最初に紹介されていて、「悪魔がロサンゼルスでナイトクラブを経営している」云々と、実にお気楽そうな感じだったからである。試しに第1話を観てみたら、主人公の悪魔は基本的にいつもご陽気で、地上での生活をご機嫌で楽しんでいる。期待違わず実にお気楽。おお、これはいい、と、ストレスフリーで楽しくダラダラと観続けていたら――第2シリーズ第17話、悪魔ルシファーの口から突然ダグラス・アダムスの名前が出て来て飛び上がった。
 マジかーーー!
 
 という訳で今回の更新は、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の紹介の続きと共に、Topicsコーナー『LUCIFER/ルシファー』を追加した。
 で、追加するにあたって調べてみたら、何のことはない、『LUCIFER/ルシファー』の主人公の造形の元ネタは、ニール・ゲイマン原作のグラフィック・ノベル『サンドマン』だった。何だよ何だよ、このホームページに関係がないどころかほとんど地続きじゃん(苦笑)。
 自分ではランダムに選んでいるつもりでも、好感や興味が向く作品には何か共通する匂いのようなものがあって、無意識の内に私はそれらを嗅ぎ分けているのだろうか。我ながら、恐るべき嗅覚である。
 
 そうそう、ニール・ゲイマンの悪魔と言えば、ニール・ゲイマンテリー・プラチェットの共著『グッド・オーメンズ』のテレビドラマもアマゾンプライムビデオとして第1話の配信が始まった。このドラマで主役の悪魔クロウリーを演じるデイヴィッド・テナントは、他でもない、パジャマとガウン姿の自分を「アーサー・デントみたい」と揶揄したことで私の心を引っ掴んだ、『ドクター・フー』の10代目ドクターである。当然、このドラマも猛烈に観たいが、目下の私はアマゾンプライムには未加入であり、全6話の配信が済んでから加入を検討するつもり。全く時間がいくらあっても足りないが、だからってついイライラすると、嗚呼、また耳の中のブドウ糖球菌が増える……。

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2019.7.6.  『グッド・オーメンズ』

 前回の同コーナーで紹介した、アマゾンプライムドラマで配信中のテレビドラマ『グッド・オーメンズ』を観た。
 配信が始まると同時に、私のツイッターのTL上には、いちはやくこのドラマを観た人たちからの「『銀河ヒッチハイク・ガイド』みたい」というつぶやきが流れてきた。『グッド・オーメンズ』はニール・ゲイマンが初めて書いた小説だからアダムスの影響が色濃く出ていても不思議はないが、期待に胸を膨らませて自分でも観てみたところ――ほんとだ、冒頭からしてすごく『銀河ヒッチハイク・ガイド』っぽい。それも、テレビドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』のテイストにやたら似ているじゃないか。
 ただし、『グッド・オーメンズ』は「人類の文化文明に感化しすぎた天使と悪魔が、ひそかに手を組んでハルマゲドンの到来を阻止して自分たちの快適ライフを死守する」というお話なので、いったんストーリーが進行し始めると、『銀河ヒッチハイク・ガイド』っぽさはほとんど消える。代わりに出てくるのは、『モンティ・パイソン』っぽさだ。映画『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』とか『モンティ・パイソン ライフ・オブ・ブライアン』とか、ある程度は意図的にやってるんだろうけれど、それ以上に何だか似ていると感じられるのは、CGにあまり予算がかけられていないせいかもしれない。ところどころでCGだけ妙に安普請になることがあって、つい1970年代のモンティ・パイソン映画やテレビドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』を彷彿としてしまう。
 ……というと何だかひどく期待はずれだったみたいだけど、とんでもない、ところどころの安普請も含め、テレビドラマ『グッド・オーメンズ』はすごくおもしろかった。とりわけ、マーティン・シーン扮する天使アズラフェルとデイヴィッド・テナント扮する悪魔クロウリーの二人が出ているシーンの楽しさときたら、楽しすぎて他のシーンがどうでもよくなるレベル。ネットで検索してみても、「主役二人がすごく魅力的なのがこのドラマの長所だが、その分、主役二人が出てこないと途端につまらなくなるのが短所」とか何とか書かれた批評文があちこちで見つかって、わはははは、みんな思うことは同じだなあ。
 ともあれ、テレビドラマ『グッド・オーメンズ』全6話が一挙配信されたおかげで、アマゾンプライムビデオ30日間の無料トライアルで観られたのはありがたかった。てっきり、週に1話のペースで追加されるのかと思ってたので「30日間」じゃ間に合わないと思ってたんだけど、あとは忘れず「30日間」以内に契約を解除しなくちゃな。
 
 話は変わって、先日、私のホームページ経由でセガの家庭用テレビゲーム機「メガドライブミニ」に関する情報をいただいた。ヘタすぎてテレビゲームを一切やらない私は全く知らなかったが、1988年に発売されたセガの「メガドライブ」というゲーム機の30周年を記念して、かつての名作ゲームをイマドキの高性能でコンパクトな本体にまとめて詰め込んだ「メガドライブミニ」なるものが今年9月に売り出されるらしいのだが、この「メガドライブミニ」に収録されたゲームソフトの数が「42作」なのは『銀河ヒッチハイク・ガイド』へのオマージュらしいのだ。その根拠が、セガで実際に復刻版ゲームの仕事に携わっていらっしゃる奥成洋輔氏の、2019年6月4日付のツイート。「全42本となりました、すべての収録タイトルを発表致しました。生命、宇宙、万物についての究極の疑問の答えが、このセガハードに込められていると言っても過言ではありません」。
 2019年の今、日本のゲーム業界でも『銀河ヒッチハイク・ガイド』は浸透しているんだなあ、ありがたいなあ(感泣)。
 
 と、感激したところで、今年も今回の更新を最後に2ヶ月の夏休みに入ります。次回の更新は9月7日。どうぞよろしく。

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2019.9.7.  ブダペストに行ってきた

 夏休みを利用して、ウィーンとブダペストに行ってきた。
 
 昨年の夏休みはウィーンとプラハに行って、思いがけずチェコ語訳の『銀河ヒッチハイク・ガイド』を手に入れることができた。となれば、この夏のブダペストでもハンガリー語訳『銀河ヒッチハイク・ガイド』が欲しくなる。ましてや、今回は事前にハンガリー語訳が出ていることをチェック済みときたらなおさらだ。
 が、しかし。残念ながらブダペストの書店でハンガリー語訳『銀河ヒッチハイク・ガイド』を見つけることはできなかった。無念。滞在していたホテルから歩いて行ける距離にかなり大きな書店があって、ここなら絶対にあると慢心したのがいけなかったのだろうか。その書店はSFコーナーもそれなりに充実していて、ニール・ゲイマンテリー・プラチェットの共著『グッド・オーメンズ』なんざ、カバージャケットにアマゾン・プライムのテレビドラマのポスターをあしらったハンガリー語訳が平積みされていたというに。
 ダメ元で入ったもう少し小さい書店では、私が店内をきょろきょろしていると、お店の人が「何をお探しですか?」と英語で声をかけてきた。私が「サイエンス・フィクション」だと言うと、この店ではそういう括りで本を並べていないとのこと。が、フィクションならその辺りの棚だ、と言われた辺りを眺めていたら
 「サイエンス・フィクションの何をお探しですか? ギブソン?」
 「いいえ、ダグラス・アダムスです」
 「ああ、それなら確かにその辺りにあるはずですよ」
と、私と一緒に探してくれたけれど……やっぱりなかった。なかったけど、でもブダペストでも「ダグラス・アダムス」と言っただけで一発で話が通じたのはすごく嬉しい。
 にしても、この私を見て、この私がいかにも好きそうなサイエンス・フィクションとしてウィリアム・ギブソンの名前を挙げる辺り、私を日本人だと見切った結果なのか、あるいは私を相当コアなSFファンだと看做した結果なのか、悩めるところだ。ちなみに、その本屋の棚にはウィリアム・ギブソンの本もなかったんだけどね。
 
 さて、今や中欧一帯でも広く知られている(?)ダグラス・アダムスの代表作『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、またしてもテレビドラマ化されることになったらしい。『ダーク・ジェントリー全体論的探偵所』が Netflixでテレビドラマ化されたのに対し、『銀河ヒッチハイク・ガイド』はアメリカのテレビ局ABCが製作してHuluが配信するとのこと。同じ配信サービスでも、Netflixは 割とすぐに全世界同時配信してくれるのに比べ、Hulu は割と待たされる印象があって不安だが、さすがに『銀河ヒッチハイク・ガイド』は日本のHuluでも配信してくれるよね……?
 ただ、配信の有無以上に不安なのが Hulu版『銀河ヒッチハイク・ガイド』の製作陣。Deadlineというウェブサイトの記事によると、アダムスの原作に忠実というより「現在仕様にアップデートする("a mordern updating of the classic story")」んだそうで、そのこと自体はいいとしても、実際に脚本を担当するカールトン・キューズとジェイソン・フックスの二人の経歴をチェックすると、正直何だかちょっとビミョー。ま、まあね、何事もフタを開けてみないと出来の良し悪しなんて分からないから、このテレビドラマ化を機に『銀河ヒッチハイク・ガイド』の知名度がさらに全世界レベルで上がることを期待して、心静かに完成を待とう。
 
 気を取り直して今回の更新は、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の続きと、カールトン・キューズジェイソン・フックスの二人を「ダグラス・アダムス関連人物」として追加。お二人さん、ほんと、頼むよ〜〜〜。

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2019.10.5.  すべては繋がっている

 今回の更新も例によって在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の続きだが、でも今回追加したアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドの長文エッセイだけは、他のエッセイのように内容をかいつまんで紹介するのではなく、全文をきちんと訳出することにした。
 内容が濃すぎて、とてもじゃないが「かいつまむ」なんてできそうになかったからだ。
 アルヴィンド・イーサン・デイヴィッド。学生時代にジェイムズ・ゴスと一緒に小説『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』を舞台化して成功し、アダムス本人のお墨付きまでもらった人。大学卒業後はメディア関係の仕事をしていて、Netflixでテレビドラマ化された『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』にも深く関わり、関連したコミックス版も出した人。私にとって彼は「そういう人」であり、「ダグラス・アダムス関連人物」として注視に値する人だったが、今回訳出した "Me and 42… Or how Douglas Adams Taught Me that the Meaning of Life can be Found in the Fundamental Interconnectedness of All Things" を初めて一読した時は、彼とダグラス・アダムスとの因縁の深さにびっくりした。
 このエッセイでもたびたび引用されている通り、まさしく「すべてのものは繋がっている」。縁は奇なりというけれど、こんなふうに絡み合う人間関係の網の目も、あるところにはあるんだねえ。
 さらに驚いたのが、オックスフォードで舞台版『ダーク・ジェントリー』が再演された時、タイトル・ロールのダーク役を演じたのが今をときめく実力派俳優のローリー・キニアだったことだ。ローリー・キニアなら私も随分前から好きだし、「007」シリーズからナショナル・シアター・ライブのシェイクスピア劇まで、彼が出演しているというだけで作品を観る喜びは倍増したし、最近ならラッセル・T・デイヴィスが脚本を書いたBBCのテレビドラマ Years and Years での演技も最高だったが、まさかそんな彼もまた「ダグラス・アダムス関連人物」の一人だったとは!
 この私としたことが、今の今まで気付かなかったとは不覚も不覚――と思い、急いでネット検索してみたが、英語版ウィキペディアのローリー・キニアの項目にすら「ダーク・ジェントリー」は出てこない。どうしてよ、成功した舞台だったんじゃないの? 
 が、ウィキペディアがアテにならなくても、「Dirk Gently's Holistic Page」と名付けられたfacebookのアカウントには、若かりし日のローリー・キニアがダークを演じている舞台の貴重な映像の一部がアップされていた。ああ、何てありがたい。
 ダーク・ジェントリー役なら、BBCのテレビドラマではスティーヴン・マンガンが、Netflixのテレビドラマではサミュエル・バーネットが、それぞれにそれぞれのダークを好演していた。が、そのどちらも、原作から逸脱した脚本に基づく、原作から逸脱したダーク像だったことは否めない。それに比べ、原作にかなり忠実な脚本で作られた舞台版で演じるローリー・キニアは、断片的な映像を観ただけでこういうことを言うのもなんだけど、アダムスの原作で描かれているダークのイメージに一番近かった。さすがローリー・キニア、アマチュア時代から既に何て上手なの。
 おまけにこの映像には、若かりし日のジェイムズ・ゴスアルヴィンド・イーサン・デイヴィッド、そしてダグラス・アダムスの姿まで映っていた。こんなにもレアな映像を、今日まで大事に保存しておいてくれた誰かさんに、大いなる感謝を。
  
 という訳で、本当はアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドエッセイに加えてローリー・キニアの項目も「ダグラス・アダムス関連人物」に追加したかったけれど、エッセイを訳すのに予想以上に手こずって、残念ながら時間切れ。でも勿論、次回の更新ではもれなく追加する予定だ。

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2019.11.2.  濃い本しかないっ!

 まずは大ニュース。10月末から始まった河出文庫のフェアで、『銀河ヒッチハイク・ガイド』が「河出文庫ベスト・オブ・ベスト」の5作品のうちの1作に選ばれ、特装カバー付きで発売された!
 「河出文庫ベスト・オブ・ベスト」の5作品を選んだのは、読書家としても知られている声優の斉藤壮馬さん。よくぞ『銀河ヒッチハイク・ガイド』を推してくださいました。失礼ながら、斉藤さんに限らずこれまで声優の名前を意識したことはほとんどなかったけれど、今後は重々注目させていただきたいと思います。
 斉藤さんに選ばれた栄えある5作品は、『銀河ヒッチハイク・ガイド』以外では、町屋良平『青が破れる』、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ・ビオイ=カサーレス『ボルヘス怪奇譚集』、稲垣足穂『ヰタ・マキニカリス』、リチャード・ブローディガン『西瓜糖の日々』。河出文庫の宣伝文句をそのまま借りて「濃い本しかないっ!」と叫ぶほかないラインナップだが、私が存じ上げなかっただけで、斉藤壮馬という方は読書エッセイや書評の連載も手掛けている有名な読書家なのだそうな。ますますおみそれしました。
 なお、「作品世界をイメージした写真を撮り下ろし」て作られた特装カバー付きには、5作品それぞれの本を手にした斉藤壮馬さんが映っている。さらに、この特装カバーつき5作品に加え、今回のベスト・オブ・ベストフェアの帯がついた計45作品の中から3冊買って応募すると、斉藤壮馬さんのカバー写真のポストカードセットがもれなく全員にもらえるという特典まで付いている。おまけにこのポストカードセット、4枚1組でAセットとBセットに分かれていて、8枚全部をゲットするならフェア対象の文庫本を最低でも6冊買うことになる。
 ふふふふふ。この企画、斉藤壮馬ファンなら絶対に素通りできないよねえ?
 「河出文庫ベスト・オブ・ベスト」の特設サイトによると、声優・斉藤壮馬の代表作は、「ヒプノシスマイク」「アイドリッシュセブン」「刀剣乱舞」とのこと。いずれも私には馴染みのない作品だが、逆に言うと「ヒプノシスマイク」「アイドリッシュセブン」「刀剣乱舞」のファンにとっても、『銀河ヒッチハイク・ガイド』は馴染みの薄い作品なんじゃないかと思う。つまり、『銀河ヒッチハイク・ガイド』のご新規さんを一挙に獲得する大いなるチャンス到来、ということだ。ああ、めでたい!
 かく言う私は、今回の特装カバーつき『銀河ヒッチハイク・ガイド』を近所の書店でとりいそぎ2冊購入した。本当は予備としてもう1冊くらい買っておきたかったのだが、私の近隣にお住まいの斉藤壮馬ファンのためにも、私が一人で買い占めるのが憚られたものでねえ。おいおい、別の書店で買わせてもらうことにするよ。
 
 そして今回の更新は、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の続きと、前回追加したアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドのエッセイに登場した、ロリー・キニアジョン・マッキンソンの二人を「ダグラス・アダムス関連人物」として追加した。

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2019.12.7.  パキとジャップ

 先日、ブレイディみかこ著『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社)を読んだ。
 ブレイディみかこさんは、イギリス在住の保育士・ライター・コラムニスト。「地べた」から見た現在のイギリス社会のリアルなありようを伝えてくれるという点で、他のイギリス在住のライターやコラムニストとは一線を画している――などと今さら私が書くまでもなく、今の日本で人気/実力ともに高いライターの一人であり、実際、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は近所の書店の一番目立つ場所に平積みされていた。
 ブレイディみかこさんの書き手としてのスタートが音楽関連の文章だったこともあって、音楽に疎い私が彼女のファンになったのは割と遅かった。最初に読んだのは、『ザ・レフトーUK左翼列伝』(2014年)だったかな? 2017年にみすず書房から『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所』が出た時には、出版を記念して行われた鼎談に出かけていって、本にサインしてもらった。へへへへへ。
 そんな自慢話(?)はさておき、ここからが本題。
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には、20年くらい前、著者が日系新聞社のロンドン事務所で働いていて、イギリスの白人エリート男性の差別用語の解釈に違和感をおぼえたという話が出てくる。渡英してまだ日が浅い日本人の記者が、イギリス人のアシスタントで日本で暮らしたこともあるインテリ白人青年に、(中東出身者を総称した差別語である)「パキ」という言葉の意味やタブーの度合いを尋ねたところ、「必ずしもタブー語ではなく、親密な感情を込めて使うこともある」と答えたというのだ。そのやり取りを小耳にはさんだ著者が「それは違う」と口をはさむと、

「そんなことないよ。例えば、パキスタン人経営の雑貨屋が僕たちのフラットの前にあるんだけど、僕らは『パキ・ショップ』とそれを呼んでいる。別に差別的な気持ちじゃなくて、行きつけの、店員とも親しくなった馴染みの店、ぐらいの感覚でね」
 と言いながら爽やかな笑顔を浮かべた彼を見ていると、ああ、そうだ、彼はオックスブリッジ卒のエリートな仲間たちとフラット・シェアしていたと思い出した。こういう若者たちはほんとに何の悪気もなくワイングラスを傾けながら親愛の情をこめて「パキ」とか言ってんだろうなと、その姿がありありと目に浮かぶようだった。(p. 118)

  この文章を読んだ瞬間、私は1985年に出版されたラジオドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』の脚本のことを思い出した。この本には、各放送回ごとにアダムス本人よる親切な脚注がついていて、第2話に出てくる「無限不可能性駆動装置」の脚注で、アダムスは、このアイディアはたまたまテレビで柔道の試合を見て思い付いた、と書いていたのだが、

  番組の解説者が言うに、たとえば約250ポンドのパジャマ(柔道着のことか?)を着た日本人があなたをのしてしまおうとかかってきた、というような難題に直面した場合、それを解く手品があります。彼があなたを放り投げようとした時、その日本人をつまずかせるなり投げるなり向きをそらすなりしてみてください。そうすれば彼の250ポンドの体重はたちまちあなたにではなく彼にとって不利なものとなるのです。
 なるほど、と僕は考えた。僕の問題が「不可能」ということなら、その「不可能」そこが問題を解く鍵になる。(p. 51)

  日本語に訳すとこんな感じだけど、実際の英文では「日本人」の部分は 'Japanese' ではなく 'Jap' と書かれている。この文章を初めて目にしたとき、私は少なからず落ち込んだ。
 柔道の解説の中で使われている言葉だもの、日本人を差別したくてジャップ呼ばわりしているのではない、はず。なのに、それでも敢えて「ジャップ」という言葉を使うのは、何故なんだ?
 私の心にずっと巣食っていた謎が、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んでようやく氷解した。なるほどそうか、20世紀後半の、リベラルな自分に自信がありすぎるタイプの白人インテリエリートたちは、パキとかジャップという言葉を「必ずしもタブー語ではなく、親密な感情を込めて使うこともある」と正々堂々と言えてしまうほどに、無頓着というか無自覚というか厚顔だったんだ! (勿論、21世紀の今ではパキもジャップもコテコテの差別語なので、コテコテの人種差別主義者たらんと望む人以外は決して使ってはいけません)
 ……ただし、よく考えてみると、先に引用した文章の中で 'Jap' と言っているのは、アダムス本人ではなく番組の解説者である。また、この文章には続きがあって、そこには "If you can't see precisely how that connects to nineteen stone Japanese men in pyjyamas, then I have to confess that that's worrying me too at the moment."と書かれている。つまり、アダムスはあくまで解説者の言葉をそのまま引用して 'Jap' と書いたのであって、アダムス本人は日本人を 'Jap' と呼んではいない――ということだ。
 日本人のファンにとってはせめてもの救い、だよね? 多分。
 
 気を取り直して今回の更新は、例によって例のごとく、在野のダグラス・アダムス・ファンによるエッセイ集、You and 42 の続き。それでも2019年内にすべてを紹介できなかったので、続きは約2ヶ月後、冬休み明けの2020年2月1日に持ち越し。
 来年も、引き続きどうぞよろしくお願いします。

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