テレビ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』(Netflix版)


 2016年10月22日からBBC Americaで放送が始まったテレビドラマ『私立探偵ダーク・ジェントリー』は、同じくダグラス・アダムスの原作小説を基にしていても、2010年/2012年に製作/放送されたBBCのテレビドラマ版とは全くの別の、新しいドラマになっている。全8話で、第1話が53分、第2話が45分だが、残りは41分の長さで構成され、既に第2シリーズの製作も決定した。BBC Americaでの放送が終了した翌日の2016年12月11日から、日本を含む世界各国のNetflixでの公開が始まっている。

 このドラマの舞台はシアトル。ダーク・ジェントリーは、シアトルの大富豪パトリック・スプリングに、まもなく起こるはずのパトリック自身の死の真相を探ってほしいという謎めいた仕事を依頼されてシアトルにやってきた、という設定になっている。このため、「全体論的探偵」というアイディア以外、ダグラス・アダムスの原作小説の内容とはほとんど何の関係もないし、登場人物も一新されている。

 物語は、主にイライジャ・ウッド扮するのトッド(原作のリチャード・マクダフのような、巻き込まれ役にしてダークのパートナー役)の目線で語られる。トッドは、ベルボーイとして働いているホテルの最上階ペントハウスで起こった殺人現場を目撃し、理不尽にもクビを言い渡され、失意のうちに自宅のアパートに戻ってみれば、黄色のジャケットを着たヘンテコな若い男が窓から入り込もうとしていた。謎の男は探偵のダーク・ジェントリーだと名乗り、一緒に事件の調査をしよう、友達になろう、と、執拗にトッドに絡む。

 このドラマでダークを演じるサミュエル・ベネットは、太った中年男として描かれる原作のダークとは違い、まだ若くて細っこい。妙に目立つ黄色のジャケットに加え、話し方と所作がひどくヘンテコなため、奇妙というか異様というか、とにかく「普通ではない」という気配を強く漂わせている。BBCのテレビドラマでダークを演じたスティーヴン・マンガンも、どちらかというと痩せ型の俳優で決して原作の描写通りではなかったが、中年特有の図々しさや厚かましさを(視聴者が不愉快にならない程度に)持ち合わせていたのに対し、サミュエル・ベネットのダークは、友達がいないだろうと指摘されて涙目になるくらいに繊細だ。

 その一方、ドラマ全体としてはひどく暴力的で血なまぐさい。このドラマには、トッドやダークの他に、殺された大富豪の娘を誘拐している連中や、誘拐犯を追っている警察官や、ダークを監視しているCIAや、さらに謎の暴走族ロッカー集団や、手当たり次第殺戮を繰り返す謎の女性まで登場する。こういった全く何の関係もなさそうな人々も、最終的には一つに収斂していく辺り、ダークの探偵論である「すべてのものは繋がっている("fundamental interconnectedness of all things”)」を見事に体現してはいたが、それにしてもあまりに死屍累々で、私個人としては、正直なところ、ダーク・ジェントリーの物語をここまで血みどろに描く必要があるのだろうかと何度となく首をひねった。

 ただ、原作小説そのものではなく、ここ数年立て続けに出版されているアメリカン・コミックス版のダーク・ジェントリーのほうを思い起こせば、この種の血なまぐささはそう意外ではないかもしれない。また、今回のテレビドラマでは、ダークが子供の頃にCIAか何かの組織に監禁され実験動物のような扱いを受けていたらしいことをほのめかしているが、これも原作小説ではなくコミックス版にのみ登場する描写である。さらに言うと、サミュエル・ベネット扮するダークが黄色いジャケットを着ていたのも、コミックス版のダークが黄色いコートを着ていたことにインスパイアされたらしい。コミックス版のストーリー監修をしているアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドがこのテレビドラマにもエグゼクティブ・プロデューサーとして参加していることを思えば、コミックス版と親和性が高いのはむしろ当然か。

 原作小説のファンとしては面食らうところも多々あったとは言え、巻き込まれ役を演じるイライジャ・ウッドは申し分ないし、最初のうちはひたすら胡散臭かったダークも、回が進むにつれて彼がそのように振る舞う理由がわかってくると、少しずついじらしく見えてくる。また、原作から遠く離れて新たに書き起こされた物語とは言え、中には原作を踏まえたネタも出てくるから目が離せない。

 ということで、以下、今回のテレビドラマが原作その他から引用していると思える箇所を列挙してみた。 


原作小説からの引用箇所

1-1 Holizons 新たな地平 第1回放送:2016年10月22日

・ダークは車内でピザを食べているが、原作のダークも大のピザ好きだった。ただし、テレビドラマのダークはこのシーン以外では特にピザに執心していない。

・ダークはトッドの妹に、探偵は探偵らしく見えない服装をしていることが肝心と語る。これは原作通り。

・過去に解決した事件についてトッドに質問されたダークが、「ソファや雷神関連」と語る。ソファは原作の第1作目、雷神は第2作目に出てくる事件。

・事件の鍵を握っていると思われる黒い仔猫。ネコは、原作の大事なモチーフである。何しろ、原作のダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所は、いなくなったネコ探しも得意分野として看板に謳っていたくらいだから。ただし、このテレビドラマのダークには、これまで特にネコ探しを掲げて集客を狙っていた様子はない。

 

1-2 Lost & Found 迷いの中で 第1回放送:2016年10月29日

・ダークが催眠術師を使った仮説を語る。催眠術と言えば、原作ではダークはリチャードに催眠術をかけていた。

 

1-3 Rogue Wall Enthusiasts 壁マニア 第1回放送:2016年11月5日

・大富豪パトリック・スプリングの屋敷にはサイの小屋がある。かつてパトリックはサイを飼っていたという設定になっていたが、サイを言えば、もちろん、生前のアダムスがその保護活動に熱心だった動物であり、ダーク・ジェントリー第3作目となる予定だった未完の The Salmon of Doubt の遺稿にもサイが出てくる。

 

1-4 Watkin 地下迷路 第1回放送:2016年11月12日

・秘密の地下通路に出てくる、サイのツノと頭部のオブジェ。アダムスのサイに対する思い入れの深さは前述の通り。

 

1-5 Very Erectus もっと強引に 第1回放送:2016年11月19日

・警察官二人がシアトル動物園にやってきて、大富豪の娘の誘拐に関わっているとされるゴードン・リマーの同僚に話を訊く。この時、同僚の女性はキツネザルを抱いている。キツネザルからマダガスカル、マダガスカルから『これが見納め』を連想できる。

 

1-6 Fix Everything 全てを元通りに 第1回放送:2016年11月26日

・こんがらがった事件の裏に、タイムマシンが関係していた——というのは、原作小説の通りだが、このドラマのダーク・ジェントリーは、原作に出てくるあの事件とは関わっていない、という設定なのだろうか。イギリスでソファの一件を解決したなら、シアトルに来る前の時点で既にタイムマシンには馴染みがあるはずなのだが。

 

1-7 Weaponized Soul 武器となる魂 第1回放送:2016年12月3日

 

1-8 Two Sane Guys Doing Normal Things ただの男が2人いただけ 第1回放送:2016年12月10日

・事件が解決し、救い出されたリディアがボディガードのファラに謝礼として400万ドルを渡す。ファラは、ダークとトッドに、このお金を元手にして「ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所」を作ろうと提案する。原作では、ダークはろくな予算もないままロンドン・イズリントンで事務所を自力で開設していたが、このドラマのダークは「探偵」と名乗っていてもまだ事務所は作っていなかったらしい。


主要キャスト

DIRK GENTLY Samuel Barnett
TODD BROTZMAN Elijah Wood
AMANDA BROTZMAN Hannah Marks
FARAH BLACK Jade Eshete
BART CURLISH Fiona Dourif
MARTIN Michael Eklund
SGT. HUGO FRIEDKIN Dustin Milligan
ESTEVEZ Neil Brown Jr.
GORDON RIMMER Aaron Douglas

スタッフ一覧
Creator Max Landis
Executive Producer/Writer Max Landis
Andrew Black
Robert C. Cooper
Executive Producer Ted Adams
David Alpert
Arvind Ethan David
Rick Jacobs
David Ozer
Zainir Aminullah