小説 The Salmon of Doubt

 The Salmon of Doubt は、アダムスの死後1年を記念して出版された遺稿集 The Salmon of Doubt: Hitchhiking the Galaxy One Last Time に収録された、未完に終わったダーク・ジェントリー・シリーズの3作目である。アダムスのコンピュータに残された原稿をまとめたものだが、The Salmon of Doubt の編集を担当した Peter Guzzardi によると、元々のアダムスの原稿は3つのフォルダに分かれて入っていて、それぞれ 'The Old Salmon'、'The Salmon of Doubt'、'LA/Rhino/Ranting Manor' と名付けられていた。つまり、作品全体の構想がきちんと固まらないまま、何年かかけて書かれた文章だけが保管されていたということだろう。
 ここに収録された、第11章まである約80ページの文章は、Peter Guzzardi が3つのフォルダから原稿を取り出し、並べ直したものである。

 第1章 'The Old Salmon'
 第2章〜第7章 'The Salmon of Doubt'
 第8章〜第9章 'LA/Rhino/Ranting Manor'
 第10章 'The Salmon of Doubt'
 第11章 'LA/Rhino/Ranting Manor'

 第1章では、デイヴという男が「セント・クライヴ」という不動産の聖人を祭る聖堂がある丘に登り、彼が開発を手掛けた「デイヴランド」という土地を見下ろしている。そこは、人類が絶滅してから約120万年が過ぎた世界。デイヴは、自分でデザインした恐ろしく軽量のスカイダイビング装置で自宅である「デイヴプレイス」のプールめがけて丘の上から飛び降りるのだが――

 第2章からは、The Long Dark Tea-Time of the Soul の世界と地続きなダーク・ジェントリーが登場する。ダークの探偵事務所に若くて美しい女性の依頼人が現れ、'Gusty Winds' という名の飼い猫の下半身を取り戻して欲しいと言う。猫自身は、何の問題もないかのように普通に行動しているのだが、その下半身は何故か見ることも触ることもできない。ダークはその依頼をけんもほろろに断るが、(The Long Dark Tea-Time of the Soul に出て来た)ケイトに、断った理由を「相手が美女だといつもそういう態度に出る」と見透かされる。
 一方、仕事も金もないダークが久しぶりに銀行の口座額を確認したところ、何故か約3300ポンドが毎週彼の口座に振り込まれていることが分かる。振込金額はいつも微妙に違っているが、どうやら毎週5000ドルが振り込まれ、その時の相場で差が出ているらしい。とは言え、ダークにはこの金の出所についても理由についてもまったく心当たりがない。そこで彼は、謎の依頼主の依頼に応えるべく、たまたま目をつけたまったくの通りすがりの人を尾行することで、任務を果たすことにする。そして、その尾行の過程で、まったく別の依頼(忘れてしまった犬の名前を教えてほしい)の答え(キルケゴール)を見つけることに成功する。
 翌朝、その男はタクシーに乗ってヒースロー空港へと向かった。ダークも急いで別のタクシーに乗り、後を追う。そして、男の後に続いてシカゴ行きの飛行機のチケットを買い、搭乗した後になって、男が同機に乗っていないことに気付く。ダークは、尾行を巻かれたのだ。

 第8章は、一人称で書かれている。場面はLA。高級車に乗った美女が、ベル・エアー(LAの高級住宅地)をドライブしている。そして、ベル・エアーを出た辺りで、赤信号で停まっている時に男にハンドガンを押し付けられ、車から下ろされる。男は車を運転して去り、美女は歩道に取り残される。
 続く第9章は、Ranting Manor という屋敷が舞台となる。最初に建てられたのは13世紀、その後改築が重ねられ、LAに移築された今ではかなり見苦しい建物となっている。そこにはちょっとした動物園の施設もあるが、今ではヤギとかカピバラくらいしかいない。ただ、チャッツフィールド動物園の改装工事期間だけ、「デズモンド」が飼育係のロイ・ハリソンと共に Ranting Manor 移っていたのだが――

 第10章で、ダークは一人、シカゴのオハラ空港に降り立つ。すると彼の名前が放送で呼ばれ、インフォメーション・デスクに行ってみると、今後はニューメキシコ州アルバカーキー行きのチケットが用意されていた。
 アルバカーキーの空港には、ジョーと名乗る男が「D. JENTRY」と書かれた案内を持って待っていた。ジョーの運転する車に乗って、ダークはサンタフェに向かうが、その途中で 'Gusty Winds May Exists'と書かれた標識を見つける。

 第11章で、ジョーとダークの会話から「デズモンド」の正体がサイだと分かる。

 

Top に戻る