The Long Dark Tea-Time of the Soul ストーリー紹介


 以下は、ダグラス・アダムスが1988年に発表した小説 The Long Dark Tea-Time of the Soul のストーリー紹介である。当然ながら多くのネタバレを含んでいるので、原著を未読の方はその点を覚悟の上、目を通していただきたい。なお、さらなる作品解説についてはこちらへ


〈主要登場人物〉

ケイト・シェクター(Kate Schechter) 主人公。
ダーク・ジェントリー(Dirk Gently) 「全体論」を標榜する探偵。
エレナ(Elena) ダークの自宅の掃除婦。
ジャニス・ピアース(Janice Pearce) ダークの元秘書。
ジェフリー・アンステイ(Geoffery Anstey) 謎の依頼人。ダークが約束に遅刻したために何者かによって殺害された。
ギルクス巡査(Sergeant Gilks) 前作 Dirk Gently's Holistic Detective Agency でゴードン殺人事件を担当した警官。今回はアンステイ殺人事件を担当することに。
オーディン(Odin) 北欧神話の神。
シスター・ベイリー(Sister Bailey) 病室でオーディンの世話をする看護師。
トゥー・ラッグ(Toe Rag) オーディンの個人秘書。
トール(Thor) 北欧神話の神で、オーディンの息子。
ノビー・パクストン(Nobby Paxton) ダークの知人。
サリー・ミルズ(Sally Mills) 看護師。
ハワード・ベル(Howard Bell) ベストセラー作家。
ラルフ・スタンディッシュ(Ralph Standish) 心理学者で、Woodshead Hospital の理事。
ニール(Neil) ケイトのフラットの階下に住む隣人。
クライヴ・ドライコット(Clive Draycott) 弁護士。
シンシア・ドライコット(Cynthia Draycott) クライヴの妻。広告代理店で働いている。


 

〈ストーリー〉

第1章

 ヒースロー空港。ケイト・シェクターは、ノルウェーに行こうとするたびにいつも何かしらトラブルが起こって行けなくなったが、今回もようやく空港まで辿り着いたものの、チェックイン・カウンターで自分の前に並んでいた大男が受付の女性と揉めていて飛行機に乗り遅れそうになる。男は、飛行機のチケットはおろかクレジットカードも持っていなかった。ケイトは自分のクレジットカードで男のチケット代を立て替えようとした(男に自宅の住所を渡して、あとで小切手を郵送してくれればいいと言った)が、男はパスポートすら持っていないことが判明。ケイトは搭乗手続きを済ませたものの、いざ搭乗という段になってオスロ行きを止めることにする。そのとき、空港で大爆発が起こった。
 
 
第2章

 爆発の原因は不明だが、奇跡的に数名の軽傷者が出ただけで済んだ。ケイトもその軽傷者のうちの一人。夜中の3時に病院で意識を取り戻し、トイレに行こうとして例の大男がベッドで寝ているのを発見する。そのそばには何故か壊れたコカコーラの自動販売機があり、さらに窓の向こうにはワシがいた。転倒して再び失神したケイトは、介護師によってベッドに戻される。その頃、医者のコートを着た小男が、大男とコーラの自販機を運び出そうとしていた。
 
第3章

 ダーク、自宅で朝遅くに目を覚まし、冷蔵庫が開けられた痕跡がないかチェックする。というのも、ダークが掃除婦のエレナに買ってきた食料品を冷蔵庫に入れるように頼んで出かけたところ、冷蔵庫の代わりにゴミ箱に入れられるという事件があったからだ。以来、ダークとエレナの間で「相手が先に開けるまで冷蔵庫は開けない」という緊張状態が続いており、冷蔵庫のドアにはダークが貼っておいた髪の毛が落ちていたが(エレナが開けた?)、同時にもう一本別の髪も落ちていた(エレナも仕掛けていた?)。しかし、探偵業が閑古鳥でエレナの給料も3週間未払いだからクビにすることもできず(秘書のミス・ビアーズは退職して空港関係の仕事に就き、スミスという名の男性と結婚していた)、ダークは、神がいるならどうか依頼人を連れて来てください、と祈ったところで、実は彼には依頼人が一人いたこと、今朝6時半に会う約束だったこと、なのに今は既に午前11時半であることを思い出す。
 
  
第4章

 ダークは、依頼人ジェフリー・アンステイの自宅まで歩いて行くことにする。途中のニューススタンドで店員を言いくるめて新聞とペンをせしめ、新聞の星占い欄のみをチェック。運勢は悪いと出ていたが、ダークは信じていないので気にしない(星占い師 Great Zaganza と個人的に知り合いだから読んだだけ)。 アンステイは、大釜を持った7フィートの巨人に殺されるという妄想を抱いていたが、ダークは本気にしておらず、ただ300ポンドの報酬が手に入ったら冷蔵庫を買い替えようと考えている。アンステイの自宅がある Lupton Road に着くと、パトカーと救急車が来ていた。
 
 
第5章

 警官、ダークを家に入れる。警察は彼が来ると分かっていたらしい。地下から音楽が、それもレコード針がひっかかっているかのように、一部分だけが何度も何度も繰り返し鳴っている。"Don't pick it up, pick it up..." と。ダークが地下に降りて行くとギルクス巡査が出て来て、どうしてダークの電話番号と300ポンドが置いてあるのかと訊く。依頼人が殺され、切り落とされた首が回転するレコードの上に乗せられていた。ギルクスの見解によれば、これは「自殺」だという。完璧な密室で、犯人の出入りは不可能だから、というのだ。そのギルクスに促されてダークは上階へ上がり、パティオに出る。強い罪悪感に苛まれながら、ダークは昨日の依頼人との会話を思い出そうとする――午前6時半に会う約束をしたのは、午前7時に「契約」があるからだった? その契約に「ポテト」が関係している? そんなダークに、隣人の女性が声をかける。レコードの音がうるさいから警察を呼んだのに、一体いつまで流し続けるのか、と。ダークは家から出ようとして、上の階からテレビの音が聞こえるのに気付く。
 
 
第6章

 2Fのバスルームの壁には、500万枚セールス記念のゴールドディスク、Pugilism and The Third Autistic Cuckoo という二人組バンドの 'Hot Potato' が飾られていた。そこには、バンドの二人と共にアンステイの名前もあり、ダークは依頼人が話していたポテトと契約の意味をやっと理解する(相手はダークが当然知っているものと思って話していたらしい)。トロフィーをいじっているうち、隠されていた封筒を発見してこっそり頂戴し、さらに屋根裏部屋に上がって行って、13,4歳くらいの少年を見つける。少年は、依頼人の息子らしい。が、少年はダークを見ても無関心でテレビを見ており、ダークが注意を引こうとテレビを消した途端、いきなり逆上してダークを殴る。テレビを付けるとまた平静に戻ったが、今度はダークがテレビに釘付けになる。空港爆発事故の唯一の行方不明者として、ダークの元秘書の顔写真が映っていたのだ(改姓後の名前ジャニス・スミスで報道されていたため、ダークは今まで気付かなかった)。ダークが家を出ると、空からワシが彼を見張っていた。その後、死体と観にテレビを渡された少年が運び出され、外には見張りの車が一台残る。にもかかわらず、家の中にはどこからともなく巨人が現れ、また消える。
 
 
第7章

 コッツウォルズ地方にある病院の優雅な個室で、片目の老人が眠っている。誰あろう、北欧神話の神オーディンその人だ。新聞でトールのニュースを読んで不機嫌になるが、ベテラン看護師シスター・ベイリーが清潔なアイリッシュ・リネンでベッドメイクをしてくれると気を取り直す。オーディンの個人秘書で小男のトゥー・ラッグがオーディンに呼ばれ、待合室から個室に入ってくる。
 
 
第8章

 ケイト、退院して自宅に戻る。バスルームには、ケイトが買い集めたバスグッズがものすごくたくさんある。が、寛ぐのも束の間、ケイトは病院の看護師から例の大男の転院先を聞き出したこと、転院先だという "Woodshead" が何なのかを思い出し、風呂から飛び出す。
 
 
第9章

 トール、意識が戻ると裸で床の上に張り付けになっている。近くには彼のハンマー、そしてコーラの自販機があり、自販機の正面には父オーディンからのメッセージが貼ってある。「何もするな。さもないと、またウェールズ行きだぞ」。トールはどうにか身体の自由を取り戻し、メッセージを破り捨て、近づいてきたトゥー・ラッグにハンマーを投げつける(オーディンの命令でトールを張り付けにしたのは彼だった)。トールはラッグにオーディンと会いたいと言う。それも、いつもの病室でではなく、神として、アスガルドで。
 
 
第10章

 ダーク、小型の電子計算機 I Ching を衝動買いする。東南アジア製の粗悪品だが、ダークはこの手の商品に関する知識がない。イズリントン・カフェに入り、I Ching や元秘書、依頼人のことについて考えをまとめようとする。そして、まずは冷蔵庫を知人のノビー・パクストンを介して購入することに決め、カフェの公衆電話から連絡したところ、新品の配送時に古い冷蔵庫の下取りまでやってもらえることに。席に戻ると、隣席にいた女性がダークの席に座っており、看護師のサリー・ミルズと自己紹介する。少年に殴られて曲がったままだったダークの鼻をひっぱってまっすぐにし、お礼にダークはカフェでのコーヒー代をおごると言うが、実はミルズは夜勤明けの時差ぼけ解消のためにコーヒーをがぶ飲みしていたところだった。ダークが支払いに行っている間に、彼女はまた別の男性客と話し込んでいたが、部屋にコーラの自販機とハンマーを置いている昏睡状態の男性の話らしい。ダークが戻ると、彼女の読みかけの本、ハワード・ベル著 Run Like The Devil が置いたままになっていて、ダークは余分に払ったコーヒー代の分として本を拝借、カフェを出る。
 
 
第11章

 ケイト、コッツウォルズ地方の病院、Woodshead Hospital に行く。ケイトは、取材と称してチーフ・コンサルタント心理学者のラルフ・スタンディッシュに近づく。彼のことは、あらかじめケイト自身のセラピスト、アラン・フランクリンから話をきいていた。スタンディッシュいわく、この病院は研究をかねた精神病院で、高額だが希望すれば生涯ここで快適に過ごすこともできる、とのこと。ケイトは3人の患者に紹介され、一日前の株価を唱え続けたり(そんな情報は誰も与えていないのに)、ダスティン・ホフマンが言うことを繰り返していたり(本人の言葉が聞こえるはずもないのに)、昏睡状態のままモーツァルトやアインシュタインの譜面や論文を筆記し続けるなど、普通では説明のつかない現象を目の当たりにする。窓の外で、グレイのヴァンが走り去るのも目撃する。が、ケイトが知りたかったトールのことについてはなかなか聞き出せず、それでもどうやら彼がこの病院に再入院という形で連れてこられたことだけは分かる。その時、オーディンを乗せた移動ベッドが運ばれてきて、スタンディッシュがケイトを紹介しようとすると、オーディンは「必要ない、知っている」と話す。ケイトはその場でミスター・ラッグにも会うが、一目で彼のことが嫌いになる。
 
第12章

 ケイト、車に乗って病院を後にする。ロンドンに戻る途中、後ろを走っていた古いジャガーに追突される。
 
 
第13章

 ケイトの車にぶつかったのはダーク。イズリントン・カフェで出会った看護師からWoodshead Hospital のことを聞き出し、そちらに向かうつもりが途中で道が分からなくなったので、適当な車の後をつけていれば何とかなるだろう考えていたらしい(行き先は真逆だったが)。ダークはケイトの顔を知っていたが、それはケイトが昏睡状態だった時にテレビで顔と名前が報道されていたからだった。
 
 
第14章

 ケイトの車の修理が済むまで、ケイトとダークは近くのパブで時間を潰すことにする。ケイト、ダークの車の中にハワード・ベルの本があるのに気付く。ニューヨークで編集者として働いているケイトの兄デイヴィッドいわく、本の中身より作者の名前で本が売れるタイプで(買っても誰も読んでいない、だからまた次回作が売れるという仕組み)、著者の正体は誰も知らない、ホテルのスイート・ルームを転々としており、生きたニワトリを届けされるという噂もあるとのこと。ダークは煙草を出そうとして一緒にアンステイの家から無断拝借してきた封筒も取り出す。その封筒の宛先には、ハワード・ベルの名前もあった。他に書かれていた名前も、ダークはケイトに指摘されるまで知らなかったが、大手レコード会社の経営者など、超有名人ばかりだった(結局、ほとんど無名なのはアンステイ一人)。ダークはケイトの身に危険が迫っていると考え、危険を回避すべくケイトを自宅に招こうとするが、ナンパと誤解したケイトは断り、修理が済んだ車で去る。後をつけようとダークも自分の車に乗り込むが、ダークの車のほうが動かなくなっていた。
 
 
第15章

 ケイト、帰宅する。が、すぐに自分のフラットのある建物には入らず、近所の店で牛乳やゴミ袋などを買い、公園で一息ついてから戻ろうとすると、ケイトが歩いて通り過ぎた途端に街灯はおろか家の明かりすら消えていくことに気付く。最後に1本だけ残った街灯の下に男が一人立っていて、ケイトが誰何すると、「背中から床板をはずせるような道具はないか?」と答える。
 
 
第16章

 街灯が次々に消えたのはトールの仕業だった。ケイトが空港で彼に渡した住所を頼りにやって来たのだ。街灯の上で見張っていたワシが襲いかかってきて、トールは格闘の末にワシを追い払う。ワシの翼に描かれた丸い模様にケイトは気付くが、前にどこでその模様を見たかは思い出せない。ケイト、怪我をしたトールを連れてフラットに戻り、玄関ホールで同じ建物に住むニールと会う。ニールは、ホールに置かれていたコーラの自販機を見ている。ケイトの友人を名乗る者が、そこに置いていったらしい。
 
 
第17章

 ダーク、グレイのヴァンを探しつつ、自宅に向かって運転しながら考えをめぐらせている。「神の仕業(Act of God)」という決まり文句が、実は事件の真相なのではないか、と。もし、神が不死ならば今もこの地上にいるはずで、でもパスポートも申請できない身の上ではイギリスからノルウェーに行くこともできない。いや、神なら飛行機などに乗らなくても自力で飛んで行けそうなものだ。が、かつてクジラは大洋を自由に泳ぎ回り、歌を通じてクジラ同士で情報交換していたのに対し、現在は船のモーター音などのせいで歌を伝えることができなくなった(魚の群れの場所についてやり取りできない)ように、神のメッセージも日常のノイズに埋もれて聞こえなくなっているのかもしれない――。
 
 
第18章

 グレイのヴァンに乗ったオーディン、アスガルドに到着する。
 
第19章

 ダークの車が、死亡した依頼人の家の前を通り過ぎる。家のほうをちらっと見たすきに、ダークブルーのBMWの後ろに追突する。運転していたのは弁護士で、車のナンバーも控えられてしまったため、ダークのハッタリも偽名も通用しない。が、弁護士とBMWに同乗していた女性は、依頼人の家でダークに話しかけてきた女性だった。弁護士はその女性に「シンシア、片付いたよ」と声をかけ、ダークに「クライヴ・ドライコット」と書かれた自分の名刺を渡す。ダークが再び自分の車に乗って家に着くと、玄関口にワシが止まっていた。
 

第20章

 ケイトがトールの傷口を消毒液で消毒しようとすると、トールは抵抗する。昔ながらのハーブを使った治療しか受け付けないらしい。幸い、ケイトはハーブの成分の入った入浴剤の類を山のように持っていた。
 

第21章

 ダーク、ワシに怯えつつもどうにか家の中に入る。玄関に飾ってあった日本の絵とかイスがなぜかない。台所からもフードプロセッサーやラジカセが消えていたが、ノビー・パクストンが届けてくれたらしい新しい冷蔵庫は置かれていた。ワシは台所のテーブルにまで入り込んできてダークを威嚇、ダークは慌てて隣室に逃げる。ケイトに電話するも、相手は留守電だった。玄関には、ロンドンの行きつけの書店から配送された 'Hot Potato' の楽譜があった。ダーク、ようやく問題の封筒を開ける。
 
 
第22章

 ちょうど電話が鳴ったタイミングで、トールがバスルームから出てくる。ケイトは百科事典でトールについて調べている。トールいわく、オーディンから「ウェールズにあるすべての石の数を数えろ」という罰を受けた、とのこと。神々は人間が望んだから不死となったのに、人間のほうで神々のことを忘れてしまった、今でも神々は地上かあるいはアスガルドを歩き回っているが、ほとんどの人間の目には映らないのだという。トールは、今夜アスガルドでオーディンと対峙することになっており、ケイトも一緒に連れて行こうとする。
 
 
第23章

 手紙をテーブルに広げたものの、ルーン文字(?)で書かれていることもあってダークには意味が分からない。ただ、この手紙に書かれている名前はいずれもメディア界の大物なのに、アンステイだけがほとんど無名なのは何故だろう、とダークは考える。'hot potato' が自分の手元に回ってきたら拾ってはいけないのに、彼はうっかり拾ってしまったのだろうか。ダークは考えをまとめるために煙草を買いに窓から外に出る(寝室にあるのは分かっているが、ワシが怖くて辿り着けない)。車の鍵を忘れてことに気付き、そっと玄関から入ろうとドアの覗き穴から様子を伺うと、ワシはそこにいた。その翼には、同心円状の模様がある(ひょっとして、ワシはダークにこの模様を見せたがっていた?)。ダーク、物乞いに小銭と煙草をねだられ、混乱と理由不明な罪悪感から男に1ポンドを渡す。そして20フィートほど歩いた先で、前の古い冷蔵庫を発見する。
 
 
第24章

 ケイトとトール、家を出て公園に行く。トールが言っていた通り、通行人は誰もトールの存在に気付かない。閉園している公園に侵入し、丘の上に立つと、トールがハンマーを投げる。ハンマーはトールの手元に戻ってくる。トールがリンゴをもぐような仕草をすると、別世界が開け、ケイトとトールはアスガルドにいた。トール、右手でケイトの腰を抱え、再びハンマーを投げる。ただし、今度は左手で柄の部分を握ったままだった。
 
 
第25章

 ダーク、煙草を求めてキングス・クロス駅へ。でも時刻は午前1時、駅の売店は閉まっていた。駅には、ダーク以外にも他に行き場のない人々がいて、そのうちの一人がダークに煙草をくれる。やがて、彼らは駅の出口のほうへと向かっていく。ダークもつられてベンチから立ち上がり、ベンチに置き忘れてあった煙草の箱を頂戴し、セント・パンクラス駅の方へと移動する。セント・パンクラス駅の予約ホールと、今は閉鎖されたミッドランド・グランド・ホテルの入り口との間には、グレイのヴァンが止まっていて、ダークはそれがコッツウォルズで見かけたあの車だと分かる。駅の中には100人以上の人々がいたが、何故かその数がどんどん減っていくように見える。人々は、影の中に入るとそれきり出てこない。ダークがコンコースの中央に駆け寄った時には、もう誰もいなかった。
 
 
第26章

 ケイト、トールに抱えられた状態で空を飛んでいる。空気がひどくて息をするのも辛く、意識を失いかけた時にようやく着地する。トールとしては、今の世の中では自分の飛行方法ではイギリスからノルウェーまで行けないということをケイトに知ってもらいたかった。Tsuliwaënsisという名前の老婦人がトールを出迎え、彼女の掘っ建て小屋に案内される。老婦人いわく、ケイトたちの世界と神々の世界は互いに影響を与え合っているが、悪くなる一方でり、また昔ながらの神々は不死なのでいなくなることはない(忘れられた神はやがて大地に寝たままになり、頭から木が生えて土に還る)ものの、新しく生まれてくるのは小物ばかり、とのこと。ケイトとトールは老婦人の家を出る。
 
 
第27章

 ダークが煙草を取り出したとき、カフェで支払った時の請求書も一緒に出てくる。左側に名称が、右側に金額が書かれているのを見て、ルーン文字で書かれたあの手紙も同じような書き方になっていたことに気付く。あれは契約書というより請求書だったのか? その時、二人の人間が近づいてくる足音がする。彼らのほうからダークの姿は見えなかったが、ダークは例のBMWに乗っていたあのドライコット夫妻だと気付く。その二人も、やはり同じ場所で姿を消す。ダーク、ケイトに電話をして、留守番電話に「ヴァルハラに行ってくる」というメッセージを残し、それから半信半疑でその場所に立ってみて、移動に成功する。
 
 
第28章

 ダーク、ヴァルハラの宴会場のテーブルの下に隠れて様子を伺う。宴会場はちょうどセント・パンクラス駅くらいの広さで、大きな汗臭い連中が盛んに飲み食いしたり喧嘩したりしている。ダークは、駅で煙草をくれた老人を見つける。老人いわく、今日はトールのために開かれた宴とのこと。バルコニーからオーディンが現れ、「トールはどこだ、挑戦しておきながら姿を見せないとはけしからん」と言う。ダーク、老人に食い下がって質問し、トールが反対するオーディンの契約とは何かを聞き出す――それは、法律家と広告屋のドライコット夫妻に、不死の魂を売り渡す契約だった。
 
 
第29章

 怒ったトールが嵐を起こす。そしてケイトを置いてオーディンの許に行く。
 

第30章

 クライヴ・ドライコット、ダークに話しかける。ドライコットの仕事は、俗事に疎い神々に代わってさまざまな手配をすることだという。高価な医療機関で快適に過ごしたくても、オーディンやミスター・ラッグには具体的にどうすればいいのかが分からない。オーディンは、リネン代の支払いのためにテレビCMの「神様シリーズ」で本人の役をやりたいとさえ言い出す始末(これは広告業界で働くシンシアの役目だ)。かくしてクライヴは法律家として神を手玉にとって儲けていた。また、今朝起きた殺人事件は、ブードゥーの法律家ごっこをしたがったミスター・ラッグの悪ふざけ(あるいはクライヴに対する嫌がらせ)だという。クライヴは金でダークを抱き込もうとするが、ダークは断る。
 
 
第31章

 セント・パンクラス駅からダークブルーのBMWが走り去る。
 ダークもこちらの世界に戻ってくる。が、駅の構内ではなく閉鎖されたミッドランド・グランド・ホテルの中に出てしまい、出口を探すのに一苦労する。警備員がいる出口を見つけるが、そもそもどうやってホテルに入ったかについて警備員の納得するような説明ができない。ようやく警備員から開放され、地下道から出たところで、バイク便にはねられる。
 
 
第32章

 トール、ノルウェーで契約書を発見する。が、そのことを告げるためにトールがヴァルハラに着いた時には誰もいなかった。トール、ケイトと共に神の世界から人間の世界へと戻り、朽ちたホテルの移動ベッドの上にオーディンを見つける。オーディンいわく、人間に神々のパワーを売る契約をしようとしたこと、トールにバレると困るから彼がノルウェーに戻るのを妨害したことも認める。トール、一睨みで契約書を灰にする。これで、コカコーラの自販機に姿を変えられた受付嬢も、飛行中のトールを攻撃した戦闘機も元の姿に戻ったはずだという。病気で弱ったオーディンをこれからどう扱うべきかについて、ケイトはトールに提案する。
 
 
第33章

 トゥー・ラッグと緑の目の巨人は馬に乗って逃走する。が、道中に置かれていた白い箱に馬が怯えて進めなくなる。ラッグと巨人がその箱に近づくと、ドアが開き、中から新しい神が出てきた。ラッグと巨人は、恐怖でたじろぐ。
 
 
第34章

 翌日の午後、オーディンは病院に戻る。新聞記事によると、トールが空を飛ぶのを目撃した戦闘機が墜落、パイロットは無事に脱出したが、一台のBMWが墜落した戦闘機の下敷きになったらしい。ケイト、病院側がオーディンの全財産を寄与する代わりに死ぬまで看護してくれるよう手配する。オーディンの資産がどれほどのものかはともかく、高血圧、高血糖に心臓病まで抱えたオーディンは長生きすまいと病院側は踏んだのだ。かくしてオーディンは、高級リネンに包まれて心地よい眠りにつく。
 
 
第35章

 同じ頃、ダークも病院で目を覚ます。ダークは、トゥー・ラッグと巨人が冷蔵庫から出て来た「罪悪感の神(Guilt God)」に飲み込まれる夢を見ていた。看護師サリー・ミルズが入ってきてダークに話しかける。ハワード・ベルの本を盗ったのはダークだと分かっているけれどどうせ読まないから気にしていない、ベルと言えば、ホテルに生きたニワトリを届けさせるのは「謎めいた作家」として注目されるための単なるパフォーマンスで、実際は裏でこっそりニワトリを部屋から出しているという噂もあって、サリーとしては本当に悪魔と契約しているというよりもこっちの話のほうが信憑性が高いと思う、と。また、ダークは今日にも退院して新しい冷蔵庫が待つ自宅に帰れる見込みらしい。まだ家にいるはずのワシのことはあとで考えるとして、ダークは新聞の星占いコーナーをチェックし、それから一面記事に戻る。


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ダーク・ジェントリー・シリーズ

Dirk Gently's Holistic Detective Agency ストーリー解説
Dirk Gently's Holistic Detective Agency
作品解説
Dirk Gently's Holistic Detective Agency 関連地図

The Long Dark Tea-Time of the Soul 作品解説
The Long Dark Tea-Time of the Soul 関連地図

ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』
ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』第2シリーズ
ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』CD

テレビ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』

コミックス版『ダーク・ジェントリー』

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