関連人物一覧 -E-


Eagleton, Terry テリー・イーグルトン
Ethan David, Arvind アルヴィンド・イーサン・デイヴィッド
Elton, Ben ベン・エルトン
Emerson, Sally サリー・エマソン
Enfield, Harry ハリー・エンフィールド


Eagleton, Terry  テリー・イーグルトン 1943.2.22-

 イギリスの文芸評論家・哲学者。マルクス主義の批評家として知られ、1983年に出版した文学理論の入門書『文学とは何か』は日本でも多くの読者を獲得した。近年ではマルクス主義と少し距離を置いた著作も発表しており、2007年にオックスフォード・ユニバーシティ・プレスの 'Very Short Introduction' シリーズ(日本で言うところの「新書」のようなものか?)の中の一冊として発表した The Meaning of Life では、『銀河ヒッチハイク・ガイド』が俎上に載せられている。

『銀河ヒッチハイク・ガイド』で、ダグラス・アダムスが見事に描いたディープ・ソートという名のコンピュータは、宇宙の究極の答えを計算するよう命じられ、750万年もかかった挙げ句、最終的に「42」という答えを出す。そこで、さらに巨大なコンピュータを作って、そもそも究極の問いとは何かを算出させる羽目になる。人によっては、アメリカの詩人ガートルード・スタインを思い出すかもしれない。噂によると、彼女は死の床で何度も何度も「答えは何?」と繰り返し、そして最後に「でも、問いは何?」と言ったという。問いには問いで返すという姿勢は、無と紙一重なところで宙づりになっているようなもので、現在の状況をうまく象徴しているとも言える。
(略)
究極の答えに対する答えが「42」だとすることのバカバカしさは、「太陽が動かなくなるのはいつだと思われる?」と訊かれて「ポテトチップス2袋と塩漬け卵1個」と答えるのと同じだと考えればいい。哲学者はこれをカテゴリー間違いと呼ぶが、トラックを止めるのにどのくらいの感情が必要ですかと問うようなもので、このズレが笑いにつながっている。が、さらにこのジョークをおもしろくしているのは、多くの人々が長年答えを求めてやまない問いに対し明快この上ない答えが出されているというのに、その答えがまったく何の役にも立たないことだ。「42」と言われても、何ともどうにも結びつかない。我々としては扱いあぐねるばかりだ。問いに対する正確で正統な答えのように見えて、実際には「答えはブロッコリーです」と言われたも同然である(p.42)。

 The Meaning of Life において、イーグルトンは人生の意味とは何かを語る前に、そもそも「人生」とは何か、「意味」とは何かについて、『モンティ・パイソン/人生狂騒曲(Monty Python's The Meaning of Life)』は言うにおよばず、ヴィトゲンシュタインやショウペンハウエルなどの哲学や、シェイクスピアやサミュエル・ベケットの文学など、さまざまな作品を引用しながら、哲学的、宗教的、言語学的といった、さまざまな側面から分析を重ねていく。その上で、結局のところ「人生の意味」とは、問題の解決ではなく、いかに生きるべきかということではないかと結論づける。故に「その答えは、「42」よりもう少し啓発的なものになる」(P. 95)。最終的にイーグルトンが出した「人生の意味」とは、多くのまっとうな人々が日頃特に考えもしないで行っていること、すなわち「愛」だった。
 イーグルトンは、アイルランド移民の子供としてイングランド北部のサルフォードに生まれた。ケンブリッジ大学で博士号を取得し、1992年にオックスフォード大学の教授に就任。現在はマンチェスター大学の教授を務めている。これまでに数多くの学術論文、著作を発表するかたわら、小説や戯曲も手掛け、また「ガーディアン」等にも政治的エッセイや文芸批評などを寄稿している。
 主な著作は以下の通り。

The New Left Church (1966)
Shakespeare and Society (1967)
Exiles And Emigres: Studies in Modern Literature (1970)
The Body as Language : outline of a new left theology (1970)
Criticism & Ideology (1976) 『文芸批評とイデオロギー』
Marxism and Literary Criticism (1976) 『マルクス主義と文芸批評』
Myths of Power: A Marxist Study of the Brontës (1976) 『テリー・イーグルトンのブロンテ姉妹』
Walter Benjamin, or Towards a Revolutionary Criticism (1981) 『ワルター・ベンヤミン――革命的批評に向けて』
The Rape of Clarissa: Writing, Sexuality, and Class Struggle in Samuel Richardson (1982) 『クラリッサの陵辱――エクリチュール、セクシュアリティー、階級闘争』
Literary Theory: An Introduction (1983) 『文学とは何か』
The Function of Criticism (1984) 『批評の機能――ポストモダンの地平』
Against the Grain: Essays, 1975-1985 (1986) 『批評の政治学――マルクス主義とポストモダン』
William Shakespeare (1986) 『ウィリアム・シェイクスピア――言語・欲望・貨幣』
Saints and Scholars (1987) 『聖人と学者の国』
The Significance of Theory (1989) 『理論の意味作用』
The Ideology of the Aesthetic (1990) 『美のイデオロギー』
Saint Oscar (1990) オスカー・ワイルドについての戯曲
Nationalism, Colonialism, and Literature (1990) 『民族主義・植民地主義と文学』
Ideology: An Introduction (1991) 『イデオロギーとは何か』
Wittgenstein: The Terry Eagleton Script, The Derek Jarman Film (1993) デレク・ジャーマン監督の映画『ヴィトゲンシュタイン』のために書かれた脚本
Heathcliff and the Great Hunger (1995) 『表象のアイルランド』
The Illusions of Postmodernism (1996) 『ポストモダニズムの幻想』
Marx and Freedom (1997)
Crazy John and the Bishop and Other Essays on Irish Culture (1998)
Marx (1999)
The Idea of Culture (2000) 『文化とは何か』
The Gatekeeper: A Memoir (2001) 『ゲートキーパー――イーグルトン半生を語る』
The Truth about the Irish (2001) 『とびきり可笑しなアイルランド百科』
Sweet Violence: The Idea of the Tragic (2002) 『甘美なる暴力――悲劇の思想』
After Theory (2003) 『アフター・セオリー――ポストモダニズムを越えて』
The English Novel: An Introduction (2004)
Holy Terror (2005) 『テロリズム 聖なる恐怖』
The Meaning of Life (2007) 『人生の意味とは何か』
How to Read a Poem (2007) 『詩をどう読むか』
Trouble with Strangers: A Study of Ethics (2008)
Reason, Faith, and Revolution: Reflections on the God Debate (2009) 『宗教とは何か』
On Evil (2010) 『悪とはなにか』
Why Marx Was Right (2011) 『なぜマルクスは正しかったのか』
The Event of Literature (2012) 『文学という出来事』
Across the Pond; An Englishman's View of America (2013) 『アメリカ的、イギリス的』/『アメリカ人はどうしてああなのか』
How to Read Literature (2013)
Culture and the Death of God (2014)
Hope without Optimism (2015)
Culture (2016)
Materialism (2017)


Ethan David, Arvind  アルヴィンド・イーサン・デイヴィッド 1975.2.21-

 映画プロデューサー。マレーシア生まれのイギリス育ちで、オックスフォード大学在学中に、ジェイムズ・ゴスと共に舞台Dirkを手がけたのが縁で、その後もコミックス版や、Netflix版テレビドラマの製作に関わっている。アメリカのロサンジェルス在住。
 2016年3月に出版されたコミックス版ダーク・ジェントリーの最初のシリーズ、The Interconnectedness of All Kings の全1巻本に彼が寄せたイントロダクションは、こちら。
 2021年3月11日に開催された第15回ダグラス・アダムス記念講演では、メイン講演者スーザン・グリーンフィールドの前に、約15分ほどの講演を行っている。演題は「On the Advisability of Writing Fan Mail」。詳しくはこちらへ。
 また、2023年8月23日に発売された 42: The Wildly Improbable Ideas of Douglas Adams に、デイヴィッドが寄せた文章はこちら


Elton, Ben  ベン・エルトン 1959.5.3-

 イギリスのスタンダップ・コメディアン・脚本家・小説家。アダムスと個人的な親交があり、イズリントンにあるアダムスの自宅で開かれたパーティに招かれたこともある。また、アダムスが自著の宣伝のためにオーストラリアのパースを訪れた時には(エルトンの妻ソフィはオーストラリアのサキソフォン演奏家)、エルトン夫妻と会ってディナーを共にしたのだとか(Webb, p.279)。
 ロンドン生まれ。マンチェスター大学で演劇を学び、1980年に卒業した後はスタンダップ・コメディアンとして頭角を現す一方、1982年にはBBCのコメディ・ドラマ、"The Young One" や「スピッティング・イメージ」に脚本家の一人として参加した。ジョン・ロイドが製作を務めた『ブラック・アダー』では、第2シリーズから第4シリーズまでの脚本をリチャード・カーティスと共同執筆し、また『シン・ブルー・ライン』シリーズでは、シリーズの脚本を単独で担当するのみならず、ジェフリー・パーキンスらと共に製作にも携わっている。
 1988年には第1作目の小説 Stark を発表、ベストセラーとなった。現在までに7作品を出版し、その多くがイギリスのベストセラーリスト1位に輝いているが、中でも1996年に書かれた小説『ポップコーン』に対してアダムスは、'One of the most brilliantly sutained and focused pieces of satire I've ever read' という賛辞を送っている。これらの小説のうちのいくつかはエルトン自らが脚色して舞台化されており、1996年の舞台版『ポップコーン』はベスト・コメディ部門でオリヴィエ賞を受賞した。
 さらに近年ではミュージカルにも進出し、2000年にはアンドリュー・ロイド=ウェバーの『ビューティフル・ゲーム』、2003年にはクイーンの楽曲を元にした『We Will Rock You』の脚本を手掛けた。2016年からは、シェイクスピアを主人公にしたBBCのコメディ『アップスタート・クロウ』の製作と脚本を担当している。


Emerson, Sally  サリー・エマソン 1954.12.16-

 イギリスの小説家。一時、アダムスと恋愛関係を持った。小説『宇宙クリケット大戦争』の献辞、'for Sally' のサリーとは、彼女のことである。
 アダムスがエマソンと初めて会ったのは、1980年11月、セント・アンドリュー大学での講演会に揃って招かれた時のことだった。当時のエマソンは、Second Sight という小説で作家デビューを果たしたばかり。アダムスもエマソンもお互いの本を読んでいなかったけれど、共通の知人も多くまたお互いの住まいが近いことも分かり、二人で夜通し話して盛り上がったという。エマソンいわく、この時まだ友人のフラットに間借りして暮らしていたアダムスにイズリントンのフラットを購入するよう勧めたり、また彼のエージェントをジル・フォスターからエド・ヴィクターに変えるようにも勧めたとか。
 翌1981年2月、Second Sight の宣伝のため訪れたニューヨークで、エマソンはアダムスと再会し、この時から二人の交際が始まったらしい。4月には、アダムスはエマソンに宛てて生涯を共に過ごしたい云々という内容の手紙を送っている。と言っても、エマソンはオックスフォード大学在学中からの友人でジャーナリストの Peter Stothard と既に結婚していたのだが、アダムスはあまり意に介していなかったようだ。そして、アダムスの家族もまた彼女のことを好意的に受け入れてくれた、と後にエマソンは語っている。
 同年9月、エマソンは夫との家を出てアダムスと同居を始める。ちょうどこの時期、アダムスは『宇宙クリケット大戦争』の執筆中で、エマソンはいっこうに仕事がはかどらないアダムスを見守る係となった。ささやかなアイディアを提供することもあったらしい。アダムスとしては、エマソンが夫と離婚して自分と再婚することを望んでいたが、結局エマソンはクリスマス前にアダムスの許を去って夫の元に戻っていった(Hitchhiker, pp. 175-180)。
 ちなみに、彼女の夫の Peter Stothard は『タイムズ』の編集者を経て、『タイムズ文芸付録』(Times Literary Supplement) の編集者を務め、2003年には準男爵の称号(Sir)を授けられた。また、1983年に二人の間に生まれた娘 Anna Stothard は、2003年4月に17歳の時に書いた小説Isabel and Rocco を出版し、同年秋からオックスフォード大学に進学している。
 アダムスは、"Sally Emerson writes like a dangerous angel." と評したというが、サリー・エマソンの主な著作は以下の通り。

Second Sight (1980)
Listners (1983)
Fire Child (1987)
Heat (1988)
Separation (1992)
Broken Bodies (2001)
In Loving Memory: A Collection for Memorial Services, Funerals and Just Getting By (2004)


Enfield, Harry  ハリー・エンフィールド 1961.5.30-

 イギリスのコメディアン。ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』では、主人公ダーク役を務めた。
 サセックス生まれ。『スピッティング・イメージ』を皮切りに、多くのイギリスのテレビ・コメディ番組に出演している。その中の一つ、「ハリー・エンフィールド・チャムス」から生まれたキャラクターを元に作った映画『イビサボーイズ GO DJ!』では、製作・脚本・主演を務めた。その他の出演映画には、『チャーチルズ・ウォー』(2004年)がある。2016年から始まったベン・エルトン製作のコメディ・シリーズ『アップスタート・クロウ』では、主人公シェイクスピアの父親役を演じている。

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