舞台版『ダーク・ジェントリー』


 1995年、オックスフォード大学で学生たちによる舞台 Dirk が上演された。評判は上々で、千秋楽にはアダムス本人も観に行き、大いに気に入ったと語っている。

 脚本を書いたのは、当時オックスフォードの学生だったジェイムズ・ゴスとアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドの二人。卒業後も、ジェイムズ・ゴスはダグラス・アダムスが脚本を書いた「ドクター・フー」のノベライズを執筆しているし、アルヴィンド・イーサン・デイヴィッドはコミックス版『ダーク・ジェントリー』に関わっている。

 2016年、この舞台の脚本が、携帯電話が当たり前となった現代に合わせて少しアレンジされた形で出版された。タイトルも、Dirk から Dirk Gently's Holistic Detective Agency に変更されている。イギリスの戯曲専門の出版社 Samuel French から出版されているが、表紙のイラストをコミックス版と同じイラストレーターが手がけていることからも、2015年から始まったコミックス版や2016年秋に放送が開始されるテレビドラマ版と連動した上での発売決定と考えていいのではないか。

 あの小説を舞台化するからには、テレビドラマ化と同様、相当に大胆なアレンジが必要なのではないかと思っていたが、2016年に発売されたこの脚本は、驚くほど原作小説に忠実な作りとなっていた。どちらかと言うとリチャードの目線で進行していた原作に対し、舞台版ではダークがストーリー全体の語り手として登場して、舞台に映像を映しながら客席に向かって直接語りかけ、「全体論的探偵事務所」とは何なのかを説明する。この構成のおかげで、話の進行は非常にスムーズかつ分かりやすいものとなった。

 ただし、この舞台版は最後の最後で原作小説とは異なる展開を見せる。原作小説では、コールリッジの執筆を邪魔しに行くのはダークだが、この舞台版ではクロノティス教授であり、邪魔する理由も違っていた。

 冒頭にはジェイムズ・ゴスとアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドによる序文が付き、巻末には上演にあたって必要となる小道具や特殊効果や映像などのリストが付いている。


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