コミックス版『ダーク・ジェントリー』


 2015年、アメリカのカリフォルニア州サンディエゴにあるIDW Publishing より、アメリカン・コミックス版の『ダーク・ジェントリー』が出版された。タイトルは、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Interconnectedness of All Kings。2015年5月から計5冊の分冊スタイルで出版され、最終的にアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドイントロダクションが付いた全1巻のコミックスにまとめられた(私が購入したのはこの1巻本)。

 アダムスが書いた小説ダーク・ジェントリー・シリーズは2作だが、テレビドラマ版やラジオドラマ版など、いくつかのバリエーションが存在していて、ややこしいことに作品によって登場人物や設定が微妙に異なる。IDWのコミックス版は、アダムスの小説の直接的なコミカライズではなく、アダムスが生み出したキャラクターや設定を利用した、新しいオリジナルストーリーとなっている。

 第1巻

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 古代エジプト。若者二人が自分たちも王に殉葬されられるのではないかと不安がっていると、白い口ひげを生やした謎の老人が不死をもちかけてくる。

 サンディエゴ空港。飛行機の貨物室でダークが自分の荷物を探しているが、間違えて別人のバッグを持っていってしまう。そのバッグの本来の持ち主は、夫婦で行動するコピーキャットの連続殺人魔。ダークが彼らのバッグを持っていることに気付くと、ダークの乗ったタクシーの後を別のタクシーで追いかける。

 サンディエゴの自然史博物館。開催予定の古代エジプト展の荷物の中から一体のミイラが出て来て職員たちを襲い、もう一体のミイラを甦らせる。

 一方、ダークは彼のいつものメソッドにより、自分が乗り込んだタクシーの運転手に前を走る車を適当に選んで尾けさせただけだが、そうやってたどり着いた場所は探偵小説をイメージして作られた紅茶の店だった。ダークはこの店のオーナーたちに自分のアシスタントになってくれるよう依頼するも、探偵小説の大ファンであるトーニャの返事は「アシスタント(助手)じゃなくてアソシエイト(同僚)ね」。そこにトーニャたちの知り合いのホームレスが飛び込んで来て、仲間が殺されたから助けてほしいと言う。ダークが飛行機から持ち出したバッグを開けると、殺し屋の道具一式が入っていた。

第2巻

 バルボア公園を散歩中のダークとトーニャは、その服装からツアーガイドと思われて、彼らの後ろから観光客がぞろぞろとついて歩いている。ダークが間違えて持ち出したバッグには殺人予定者リストが書かれた紙も入っていたが、ダークは警察はアテにならないと主張。紙が風に飛ばされた先がサンディエゴ自然史博物館で、ダークは紙を拾ってくれた若者二人(実は元ミイラ)と出会う。ダークの後をついて歩いていた全員も含めてパーティをすることになり、ダークが宿泊予定のホテル・デル・コロナドに向かった。

 サンディエゴ自然史博物館では、ミイラ化した職員たちが発見される。博物館側が事件を内密で処理しようと警察相手に画策しているところに、CIAのケイト・シェクターが乗り込んでくる。

 パーティー会場では、元ミイラの若者二人がダークの目をかすめて人々から生気を奪い続けている。連続殺人魔のカップルのうちの女性のほうもホテル・デル・コロナドへと向かう。

第3巻

 連続殺人魔の女性が、かつてホテル・デル・コロナドで起こった事件を模倣して人を殺そうとしているのをダークが阻止する。逆襲してきた彼女から、復活した元ミイラのうちの一人、王を気取る男が生気を吸い取り、廃人にする。ヴァイオリンの音には不調を感じるが、その他は意気軒昂。王気取りではない、「クレイグ」と名乗る元ミイラのほうは、ダークに協力的。ダークは警察が来る前にトーニャやクレイグを逃がす。警察とケイトが到着。別室で、久しぶりに再会したダークとケイトが話をする。ケイトはドローンを使ってダークを監視していた。ケイトはダークに博物館の壁に描かれていた謎のヒエログリフの写しを描いたメモを見せるが、ダークはその絵には意味がないと言ってヒエログリフの紙を無造作に投げ捨て、残りのメモ帳だけを貰う。

 トーニャたちの店にて、ダーク、クレイグ、友人を殺されたホームレス、トーニャたちが集まっている。ダークはメモ帳の1枚目を鉛筆でこすってヒエログリフの写しを取り戻す。ホームレスが殺された友人から貰ったという黄金の太陽光発電機能付きスマートフォンを使ってインターネット検索し、「再生」の意味だと分かる。クレイグ、古代エジプトで白ヒゲをはやした「ミスター・バード」と出会った時のことを話す。ミスター・バードに従えば未来の新しい肉体に魂を移行することができる、とのこと。未来への旅の途中、ミスター・バードとクレイグは、一人用ソファに座ったケンブリッジ大学の教授レッジと出会い、携帯電話を貰ったとのこと。そこへケイトから電話が入り、店の外に連続殺人魔の男性のほうが立っているとダークに知らせる。

第4巻

 連続殺人魔が店の中に入ってきてダークを撃ち、パートナーの女性が今もホテルにいるらしいことをクレイグらから聞き出すと、ダークが間違えて持ち去った彼の荷物を手にして出て行く。クレイグは、太陽光発電機能付きスマートフォンを借り、自身の生命エネルギーをダークに注ぎ込んで生き返らせる(死にかけているダークは、夢の中でダグラス・アダムスとおぼしき人影を見ている)。

 一同、サンディエゴ自然史博物館の古代エジプト展のオープニング・ガラに向かう。

第5巻

 オープニング・ガラのパーティにて。王を名乗る元ミイラは次々に人間たちを襲い、どんどん巨大化していく。復讐しようとした連続殺人魔のカップルも、あっさり返り討ちにする。ダーク、トーニャにバッハの曲を可能な限り早く激しくヴァイオリンを弾くように指示。音楽のヴァイブレーションが、異なる時代にいる者を弱らせる、というダークの推理通り、王を名乗る元ミイラが動けなくなったところに、ミスター・バードがタキシード姿で登場する。彼は時間の中を旅する不死者で、一緒に旅するはずだったのに。この時代に迷い込んでしまったクレイグを迎えにきたのだった。クレイグの希望で、彼は元の古代エジプトに戻ることに。もう一人の暴れる元ミイラは、黄金のスマートフォンに吸い込まれてホームレスの手に戻る。

 サンディエゴに、新しいダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所が誕生する。

 2016年には、同じく計5冊で完結の新作コミックス、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: A Spoon Too Short が発売された。カバーデザインは複数あるが、私は Subscription Cover と呼ばれるタイプの表紙で揃えた。

 このコミックスは、小説 Long Dark Tea-Time of the Soul の後だが、以前に出版されたコミックス版 The Interconnectedness of All Kings よりも前、という設定になっている。

 それぞれの巻は、ダークが見た子供時代の夢や少年期の回想シーンで始まっている。

第1巻

 ツリーハウスの上で、一人で遊んでいる子供時代のダーク。そこにいじめっ子たちがやってきて、ツリーハウスをぶちこわす。

 ダークは、サリー・ミルズからの電話で悪夢から目を覚ます。サリーは、ウッドヘッズ病院という、変わった症例の患者を多く収容する病院に務める看護師で、ダークに突然言葉を失った患者たちの謎を解くよう依頼する。

 ダークは病院から出ると、「すべてはつながっている」という全体論式メソッドで、たまたま目についた一人の女性を尾行する。すると、その女性は他でもないダークの事務所を訪ねるところだった。その女性、タマシャは、ダークとの共通の友人であるリチャードとスーザンのマクダフ夫妻にダーク・ジェントリー探偵事務所を紹介されたのだという。彼女は人類学の助教で、突然言葉を失った部族の謎を解くために一緒にケニアに行ってほしいとダークに依頼する。

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第2巻

 30年前、トランシルヴァニアの古城でコウモリに囲まれている子供時代のダーク。

 ダークは、ケニア行きの飛行機の中で夢から目覚める。機内食のヨーグルトを食べようとして、付いていた紙のスプーンが短すぎて底に残ったヨーグルトが食べられない。キャビンアテンダントをウェイトレスと呼び、文句を言うが、ウェイトレス呼ばわりされたキャビンアテンダントの怒りを買っただけに終わる。

 ケニアに着くと、タマシャの案内で、野生動物の密猟を阻止する仕事をしているマドラックと会う。ダークはマドラックから一目で嫌われるが、サイの密猟も人々が言葉をなくす謎も必ずどこかでつながっているとの持論から、マドラックと行動を共にする。そして、サイの密猟の様子を目撃したであろうゾウの群れと出会うや、タマシャやマドラックの制止を無視してゾウに駆け寄り、ゾウの鼻にペンを持たせて紙に何かを描かせた。

 一方、イギリスでは、サリーが音楽と患者たちの様子に因果関係があることに気付く。

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第3巻

 15年前、子供の頃のダークは、アメリカの軍事施設に囚われ人体実験の対象となっている。ダークの持つ特殊能力を発揮させたいらしいが……。

 ゾウが描いた殴り書きは意味不明のまま。ロンドンのサリーは、スーザンを病院に連れて来て言葉を失くした患者たちの前でチェロを演奏させる。すると、患者たちが歌い出す。

 サリーから電話を貰ったダークも、ケニアで同じことを試みて成功する。

 マドラックが、サイの密猟と人口保育の問題について説明する。人工保育したサイを、狩猟の対象として金持ちに高値で売ることで自然保護活動の資金を得る仕組みについて。ケニアではこのビジネスは許されていないが、密猟した野生のサイを人工保育のサイだと偽って金儲けする、悪質な詐欺が横行している。

 ダーク、密猟者を捕まえる方法を思い付いたと言って部屋を出て行く。

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第4巻

 学校の寮で、これから行われる試験問題を寝言で予言するダーク。超能力などないことはダーク本人は分かっているが、トラブルの種は尽きない。留置所に入れられたダークを、軍人が訪ねてくる。

 居眠りから覚めたダークは、タマシャとマドラックに(催淫効果がある)オイスターとロブスターを食べさせる。夜、タマシャのロッジで二人が欲情したタイミングを見計らって、ダークは子供たちにロッジを囲ませ、音楽を演奏させる。

 一部の人が言葉を失くしたのは、四次元体のエイリアンのしわざだった。音楽は、彼らとの間に薄い壁を作ってくれる。だから、音楽で囲めばエイリアンを捕まえられる。

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第5巻

 子供の頃のダークが、弓矢の的にされている。

 捉えられたエイリアンたちは、人間の言葉を催淫剤として味わっていた。ただし、小さすぎるスプーンではヨーグルトを底まで全部食べられないように、彼らも人間の言語中枢を平らげることはできなかった。故に、音楽を聞いただけで失った言葉を取り戻せる程度の損傷で済んだ。二度と人間を「密猟」しないと約束したエイリアンをダークが解放してやると、彼らはサイの鼻の穴の中に消えた。

 ロンドンに戻ったダークは、サリーとロンドン動物園に行き、病院で言葉を失くしていたがすっかり元気になった一家と再会する。そして、サイのコーナーでサイの鼻の穴を覗き込もうとするが――

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 全1巻

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 テレビドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」の製作を機に、コミックス Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Interconnectedness of All KingsDirk Gently's Holistic Detective Agency: A Spoon Too Short の前2作を全1巻にまとめて2016年10月に発売された。主演サミュエル・バーネットによるイントロダクションに加え、巻末にはテレビドラマの製作現場の様子を映した写真も掲載されている。

 

 2016年10月からシリーズ第3作 Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Salmon of Doubt が順次刊行され、2017年6月と10月に全2巻本が発売された(私が購入したのはこの2巻本)。ストーリーの時系列としては第2作目の続きだが、第3作は表紙だけでなく内容的にもテレビドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」に乗り入れしている。
 The Salmon of Doubt と言えば、ダーク・ジェントリー・シリーズの3作目として執筆されるはずだったが結局未完に終わった小説であり、残された断片が他のエッセイ等と共に The Salmon of Doubt: Hitchhiking the Galaxy One Last Time に収録されているが、コミックスの内容とは直接関係がない(むしろ、ケンブリッジ大学の恩師レジが登場するなど、第1作目『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』との親和性が高い)。ただし、ダークがサリーに向かって、故郷の場所をきちんと憶えていて常になすべきことを確信している鮭たちに対し、自分はすべての繋がりを見通す才能はあるのに常に疑念に苛まれていると吐露する場面がある。

 第1巻

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ダークは、サリーと共にケンブリッジ大学での恩師レジを訪ねる。レジの浴室はタイムマシンで、そうとは知らずに入ったサリーは水を媒体として異次元へと転送される。そこにはさまざまな世界が映し出されたスクリーンがあり、そのスクリーンはさらなる異次元空間――テレビドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」の世界へと繋がる入り口でもあった。急に姿を消したサリーを追って、ダーク自身もその世界へと向かう。巻頭には、テレビドラマ版でバートを演じたフィオナ・ドゥーリフによるイントロダクションが付いている。

 第2巻

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 テレビドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」のさまざまな登場人物がコミックスのキャラクターとして登場し(サミュエル・バーネットのダークはともかく、イライジャ・ウッドのトッドはまるで似ていないと個人的には思う)、まるでテレビドラマ第1シリーズの裏話のような体裁を取りつつ、最終的にはコミックスのダークとテレビドラマのダーク、二人のダークが顔を合わせることになる。

 


『ダーク・ジェントリー』関連ページ

ダーク・ジェントリー・シリーズ

Dirk Gently's Holistic Detective Agency ストーリー紹介
Dirk Gently's Holistic Detective Agency 作品解説
Dirk Gently's Holistic Detective Agency 関連地図

The Long Dark Tea-Time of the Soul ストーリー紹介
The Long Dark Tea-Time of the Soul 作品解説
The Long Dark Tea-Time of the Soul 関連地図

ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』第1シリーズ
ラジオ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』CD

テレビ・ドラマ版『ダーク・ジェントリー』

舞台版『ダーク・ジェントリー』

 

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