コミックス版『ダーク・ジェントリー』 イントロダクション


 以下は、コミックス版『ダーク・ジェントリー』に付けられた、アルヴィンド・イーサン・デイヴィッドサミュエル・バーネット、フィオナ・ドゥーリフよるイントロダクションである。ただし、訳したのが素人の私なので、少なからぬ誤訳を含んでいる可能性が高い。そのため、この訳はあくまで参考程度にとどめて、全貌をきちんと知りたい方は、必ずオリジナルにあたってくださるようお願いする。


コミックス版『ダーク・ジェントリー』の第1作目、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Interconnectedness of All Kings の全1巻本(2016年1月26日発売)より

Introduction

 ダーク・ジェントリー。
 天才。狂人。超能力者。探偵。吸血鬼。蝙蝠。
 ダークに関しては、その他すべてのことが真実たりうる。
 実際、ダークの素晴らしい点は、彼についてどんなことを述べようと、絶対的な真実である可能性を残しておきながら、まったくのたわごとである可能性も、その逆の可能性もある、という点だ。
 悪意を持ってでっちあげたナンセンス。たいていの場合、それをやるのはダーク本人だったりする。
 私が初めてダークと出会ったのは、14歳の時、高校の図書室の書棚でのことだった。彼の最初のいかれた冒険譚を読んでいると、ページというページにダグラス・アダムスという独創的な天才が生み出したコメディがあった。それも、シチュエーション・プレイとかワード・プレイから来るコメディではなく(そういうのもふんだんにあったが)、それらよりもっと難易度の高い、「アイディア・プレイ」から来るものだった。
 ダグラスは、異なる原理原則を持つ複雑なアイディア同士をぶつけようとしていた。数学と音楽。哲学と物理。進化論とゲーム理論――創発特性のように、それまでジョークなんかなかったところに、新しいジョークを生み出そうとしていた。いや、ただのジョークじゃない。それまでアイディアなんかなかったところに、新しいアイディアを生み出そうとしていたのだ。
 僕は今でもあの時の感覚を憶えている。それは、ティーンエイジャーの背筋を駆け上がり、ホルモン過多の脳みそにたどり着いた。「くそっ、本にこんなことができるってことを今までどうして誰も教えてくれなかったんだ?」
 それはまるで、今までモデルTフォードしか運転したことのなかった人が、突然気づいてみたら炎の中を1000馬力のナスカー・インパラを高速で突っ走ってゴールラインを通り抜けたような、そんな感じだった。ダグラスの文章は燃料だが、それでいて実際に読んでいると、あたかも自分自身にそれだけのスピードを出す潜在能力があったかものようにも思えた。
 僕は、ダークをドライヴに連れ出してやらねばならないと考えた。そこで、僕と友人のジェイムズは、ティーンエイジャーにありがちな見当外れの楽観主義と共に、Dirk Gently's Holistic Detective Agency を学校劇として採用することにした。舞台を演出するのも、ダークを演じるのも、勿論この僕だ(みなさんにはどうして「勿論」なのかはイマイチはっきりしないだろうが)。それから数年後、僕らが大学でこの舞台を再演したところ、ダグラス・アダムス本人が観に来てくれた時の僕らの困惑と歓喜をご想像いただけるだろうか。その時は分かっていなかったけれど、あの夜から僕らのキャリアが始まった……。
 25年経った今なお、僕はダークの用心棒のような役割を務めているが、このコミックブックでは素晴らしい旅の仲間と出会うことができた。脳みそを熱が出るほど高速回転させ、ダグラス・アダムスをシミュレートするという不可能を実現にしたクリス・ライアル。トニー・エイキンスとイリアス・キリアジスの二人は、素晴らしい絵で線と陰影を組み合わせ、それまでダークがいなかったところにダークを生み出した。
 ダーク・ジェントリー初のコミック化という全体論的サーカスで団長の役目をやらせてもらえたのはユニークな特権だったが、一緒に仕事をした副編集者のジョン・バーバーは、コミックスがいかにして作られるものなのか、忍耐強く僕に教えてくれた。
 2016年は、さらなるコミックス、舞台劇、そして新しいテレビシリーズと、ダーク・ジェントリーにとって輝かしい1年となるだろう。幸運にも私はそれらすべてに関わることができたが、まだまだこの先何年もこの混乱と冒険が続き、ダークの復活を待ち望んでいたファンのもとにお届けするだけでなく、さらに新しい友人や容疑者やアシスタント(失礼、アソシエートでしたね)にも彼を紹介できるよう願ってやまない。

アルヴィンド・イーサン・デイヴィッド

 


テレビドラマ「私立探偵ダークダーク・ジェントリー」の製作を機に発売された、第1作目、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Interconnectedness of All KingsDirk Gently's Holistic Detective Agency: A Spoon Too Short を合わせた全1巻本(2016年10月発売)より

DIRK GENTLY: A BIG HOLISTIC INTRODUCTION サム・バーネット

 初めてダーク・ジェントリーが出会ったのがいつだったかは覚えていないけれど、テレビ番組へのオーディションの話が来た時にこの名前を知っていたことだけははっきりしている。多分、『銀河ヒッチハイク・ガイド』同様、集合的無意識の中に存在しているものの一つなのだろう。が、この番組のオーディションを受けているところなんだと言うと、僕は話しかけた人のほぼ全員からこの小説に対する愛をまくし立てられる羽目になった。僕の妹は学校で読んでいたし、僕の友人たちも読了済みだった。僕の知人はほとんどみんな、で読むかBBCのテレビドラマを観ているかしていて、僕だけ蚊帳の外にいるみたいだった。
 公平に言って、僕のダークは小説のダークとは全然違う。コミックス版のダークとも全然違うし、それに……ともあれ思い切ってやってみようということになった。とは言え、どんなヴァージョンだろうと、ダークの本質は変わらない。ダークにはある特定の性格や考え方があり、彼が活躍する世界は、すべてのものはつながっているという信念や、超能力の類への全面的な否定といった、ダーク本人の人となりをうまく映し出していることが肝要となる。そりゃまあ、ダークの仕事ぶりを説明するにあたっては、ダグラス・アダムスが書いた文章以上のものはこれまでのどのメディアにも見つからないし、実際のところ、これまでのダークはどのメディアでもその箇所を一字一句再利用していたりもする。
 外見は、どのダークもまるで別物だ。ダークのオーディションが決定したと知り、僕は初めて小説に目を通してみたが、「どうして僕がこの役にふさわしいと思われたんだろう、40代半ばで背が低くて太ってておまけにちょっと気難しいとまで書かれているのに」だった。コミックス版のダークはどちらかというとハンサムで威勢がよくて元気いっぱいに思えたが、中でもファンタスティックな髪型と着ている服が印象的だった。一方、僕のダークは、若くて痩せていて原色の皮のライダージャケットを偏愛している。が、全員に共通しているのは、世界に対する子供っぽいくらいの畏敬の念や、多くの人が大人になると失ってしまう心の広さや好奇心、それからすべてのものはつながっていて無駄なものなど何もなく、究極的にはすべてのものが一つの場所へと導いてくれるという信念である。
 失敗さえしなければ……ダークは一つのキャラクターとしてちゃんと成立するはずだ。だって、原作小説ではすごくうまくいっているのだから。
 僕は子供の頃はコミックスを読むのが大好きで、ダークのコミックスを読んでいるうちに子供の時の思い入れがよみがえってきた。僕は何年も「The Beano」と「The Dandy」を集めて熱心に読んでいたけど、今もダークで同じことをやっている。コミックスを読むのがこんなに楽しかったなんて、すっかり忘れていた。ちょっと独特な媒体だ。本とも違うし映画とも違う、その中間かな。ダークを読んでいると、少しの絵と言葉でこんなにも多くの情報やキャラクターやプロットや感情を伝えることができるってすごい、と改めて思った。コミックスは独特のやり方で読者/鑑賞者の想像力を刺激する。それこそが鍵だと僕は思う。活字を読むことと絵を見ることの両方を同時にこなし、想像力が両者のギャップを埋めていく。自分のほうから積極的に参加することが求められるんだ。映画を観ている時のように、ただ座って映像を流し込んでもらうのとは違う。本を読んでいる時のように、何もかも言葉で説明されている気がするのとも違う。コミックスを読むとは、自分自身がストーリーを語るプロセスの一部となることだ。だからこそ、僕はコミックスを愛している。
 で、髪型の問題である。コミックスでダークの髪型を見た途端、「僕も、テレビでこの髪型にしてもらえたらいいな」と思った。が、残念ながら結果はノー。自前の髪をちょっと暗く染めただけで、コミックス版のダークのような高くそびえる髪には程遠く、とっても遺憾だ。コミックス版に僕のダークが出演しているのを見せてもらったけど、ものすごーーーくクールだった。自分自身がコミックスに出ているのってすごく奇妙な感じがした。描かれているのは僕本人じゃなくて、あくまでダークの髪型でダークの服装をしたダークなんだけど、それでも僕であることに変わりはない。ヘン。でも、最高にいかしている。
 マックス(・ランディス)アルヴィンド(・イーサン・デイヴィッド)との仕事は素晴らしい体験だった。マックスはダーク・ジェントリーの2冊の小説について知り尽くしていて、知りたいことがあれば何でも質問できた。そしてアルヴィンドは、少年時代から今日までずっとダーク・ジェントリーの世界で作品を生み出してきたような人だから、あらゆる意味でダークに関する大御所だ。そんな二人に見守られ、僕は不安と無縁でいられた。

 


第3作目 Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Salmon of Doubt 全2巻本の1巻目より

BECOMING BART フィオナ・ドゥーリフ

 19歳の時、『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んで、ダグラス・アダムスの名前を初めて知った。私はすっかりハマった――読み終えなければ家から出られなかっただろう。以来、あれほどまでに本に没頭したことはない。アダムスには、他の誰も持ち合わせていない奇妙さがあって、独特で深遠な資質が読者を彼の作品世界へと誘うのだ。
 それから数年後、私が彼の作品世界のキャラクターを演じることになるなんて! おまけに、バートのようなキャラクターは滅多に出会えるものじゃない。説明書きには、「ジャック・スパロウとかビートルジュース級のキャラクター」とある! 言わせてもらえば、私がこれまでハリウッドで演じていたのは、「機転の効く警官」とか「黄金の心を持った看護師」ばっかりだった。それだけに、私はバートの役を務めることに本気の本気でワクワクした。
 が、マックス(・ランディス)アルヴィンド(・イーサン・デイヴィッド)は、ただ単にバート役を「務める」以上に、もっと強烈なものを求めてきた。衝動に身を委ね、やばいくらいのリスクを冒してみるよう言われたのだ。一つのキャラクターを作り上げるのに、こんなにも楽しかったことはなかった。普段の私は、役作りのために、このキャラクターはどこからやってきて、何故こういうことをやっているのかを念入りに考える――いわゆるキャラクターの動機づけ、だ。自分の頭の中に世界全体を組み立てて、自分のやっていることに(少なくとも自分にとっての)道理を与える。こう言ったことを考える過程が私は大好きだが、バートの場合、他の人とは世界観が違いすぎるため、理解するのは大変だった。本気の本気で想像力を膨らませなければならず、同時にそれはものすごく楽しいことでもあった。私はすっかり夢中になった。
 ファンの反応も興味深かった。私にとって、バートは無垢な子供である。彼女を愛しているし守ってやりたいとも思うのに、他の登場人物たちは彼女を「悪役」とみなす。このコミックス版を読んでいる時も、私は本に向かって「バートが悪いじゃない! 彼女は絶対にやらなきゃいけないことをやっているだけ!」と叫んでしまった。つまり、それだけのめり込んで読んだってことだけど。言わずもがなではあるが、私は夥しい数のファンアートを受け取り、中には(私を格別満足させた)泥まみれのバービー人形や、アクション場面をすごく緻密に描いた絵もあった。他の人も、私と同じくらいバートを好きになってくれるなんて、最高! チャッキーのファンも相当な入れ込み具合だと思うが、私がバートに寄せる気持ちも負けていない。何たって、私は彼女というキャラクターを作り上げる一助を担ったんだし。
 願わくば、この本を手に取った人がテレビドラマも見てくれますように。というのも……すごくよく出来ているから! こんなに好きになった番組はないし、実際、テレビでこんなにも独創的なキャラクターたちが出てくる番組なんてないと思う。第2シリーズは、さらにとんでもない展開になる予定。バートに関して言えば、彼女は自分を女の子だと思ったことがない、というか、2つの性差の間で世界の見方が異なるということ自体、あまりピンときていない。そういうひねりを効かせて、私は彼女の世界をぐいぐい膨らませていきたいと思っている(あえてそうしようと思っていると言ったほうがいいかも?)。多分、そうなるだろう。他とは似ても似つかないワイルドでマジカルな世界の話なんだし、そもそもの火付け役は、誰あろう、あのダグラス・アダムスなのだから。

 


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