2010年12月11日に放送されたパイロット版に続き、2012年3月5日午後9時から、BBC4でテレビ・ドラマ Dirk Gently の放送が始まった。計3話で、各話が60分。
Dirk Gently's Holistic Detective Agency のテレビ・ドラマ化とは言え、原作にあるゴースト・ストーリーやSFのテイストはカットされ、自由にアレンジされている。と言うか、ダーク・ジェントリーの「全体論的探偵」の基本設定以外、一から新しいストーリーが作り上げられていると言っていい。リチャード・マクダフやスーザン・ウェイといったキャラクターが登場するが、役回りは原作小説とは異なっている(ほとんど同じなのは、ダークの秘書ジャニス・ピアースくらいか)。
その一方で、細かいエピソードや台詞が、Dirk Gently's Holistic Detective Agency とその続編 Long, Dark Tea-Time of the Soul や未完に終わった The Salmon of Doubt からちょこちょこ借用されているため、「やっぱりダグラス・アダムス作品だな」と思わせてくれる。また、オープニングタイトルの映像には、小説には登場するけれどテレビ・ドラマには直接関係のない、エレクトリック・モンクを思わせるイラストやルービック・キューブが描かれている。ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所の住所も、原作と同じくイズリントンにある架空の通り、Peckender Street だ。
原作では「太っている」("He was rounder than the average undergraduate", p. 37、"Looking a little rounder about the middle, a little looser and redder about the eyes and neck", p. 115)と描写されるダーク役を務めるスティーヴン・マンガンは、どちらかと言えば痩せ型の俳優である。ただし、体型は違っていても、エキセントリックなキャラクターの本質を巧く演じているため、少なくとも私は「ダークのイメージと違う」という印象は受けなかった。
このテレビ・ドラマの最終話が放送された1週間後の2012年3月26日には、イギリスで早くもDVDが発売された。このDVDには、全3話に加え、2010年のパイロット版も収録されている。
試作、という意味の「パイロット版」だが、実際に観ていると、本編はこのパイロット版を基に一から作り直したというものではない。衣装やセットデザイン、音楽、キャラクター設定等は微調整されているものの、ストーリーに限って言えば、パイロット版の展開を踏まえた上で全3話が作られている。故に、パイロット版を観れば、どうしてテレビ・ドラマ版のリチャードがダークの助手として全体論的探偵事務所で働くことになったのか、その理由もはっきり分かる。また、このパイロット版のストーリーは、最初の作品だけのことはあって、原作小説の設定やネタがもっとも直接的かつ上手にひねりを利かせた形で取り込まれているので、そういう意味でも興味深い。
ストーリー紹介
〈パイロット版〉 第1回放送:2010年12月11日
ダーク・ジェントリーは老婦人から行方不明になった猫の捜索を依頼された。ダークが老婦人の家を出ると、隣の家から何やら不審な物音がする。家を荒らしていたのは、ダークの大学時代の友人リチャード・マクダフ。現在無職のリチャードは、その家の持ち主であるスーザンの恋人で、彼女の家に居候状態なのだが、彼女にけんか腰のEメールを送ったことを後悔し、彼女のラップトップをこっそり奪ってそのメールを読まれないよう細工しようとしていたのだ。ダークは、この出会いを単なる偶然と看做さず、猫を探し出す手がかりの一つと考える。二人は、いかにも猫が隠れていそうな、すぐ近くにあるさびれた倉庫に不法侵入するが、ダークがそこに置かれたPCに不用意に触ると、あらかじめ仕掛けられた時限爆弾が爆発し、倉庫は炎上してしまう。その倉庫を借りていたのは、IT長者のゴードン・ウェイ。彼もまた、ダークやリチャードの大学時代の知り合いであり、かつ、リチャードの恋人であるスーザンに横恋慕し、何度も求婚を繰り返していたのだった――リチャードはまったく知らなかったけれど。
〈第1話〉 第1回放送:2012年3月5日
私はペンタゴンに監視されている、殺されるかも、と主張するソフトウェア技術者のエドワーズ氏が、ダーク・ジェントリー全体論的探偵所に調査を依頼してきた。「ペンタゴンに監視されているなら、逆に命の心配はないんじゃないの?」と、ダークとダークの助手となったリチャードが気楽なノリで依頼人宅を訪れると、依頼人は死体となって倒れていた。犯人を探し出すべく、警察の調査が終わった頃合いを見計らって依頼人宅に侵入したところ、エドワーズ夫人とおぼしき女性と鉢合わせする。どうやら、亡くなったエドワード氏は、ある特殊なソフトウェアを開発していたらしい。犯人と失われたソフトウェアを見つける調査依頼の契約を交わし、ダークとリチャードが探偵所に戻るべく車に乗り込むと、何者かの車が彼らを尾行してくる。何事かと思いきや、実はその車を運転していた見ず知らずの女性は、夫の浮気調査を依頼すべくダーク・ジェントリー全体論的探偵所に向かっていただけだった。
ソフトウェア技術者の殺害と、夫の浮気調査。まったく別の事件であるにもかかわらず、ダークは前者の真相を完全に突き止めるためには後者の事件も把握する必要があると考える。要するにそういう考え方がダークの「全体論的」探偵術なのだが、浮気疑惑の夫レイノルズ氏を尾行しているうち、今度はその夫から仕事を依頼されることになる――どうして自分の星占いが100パーセントの的中率なのか教えてほしい、と。
〈第2話〉 第1回放送:2012年3月12日
大学時代の恩師、ジェリコ教授の依頼で、ダークはリチャードと共にケンブリッジに向かう。教授が開発中のロボットを盗まれないようにする、という仕事だったのだが、ダークの主たる関心は、人間の少女そっくりの薄気味悪いロボットより、その昔自分がケンブリッジ大学セント・セッズ・カレッジを強制退学させられた真の理由を探ることだった。が、案の定というべきか、ダークとリチャードが目を離しているすきに、教授は何者かに殺害され、ロボットは姿を消してしまう。ロボットと同じ部屋で開発されていた人工知能MAXは、果たしてこの事件に関係しているのだろうか?
一方、リチャードの恋人スーザンはケンブリッジで就職活動をしている。彼女は、この仕事が決まったら、リチャードにも一緒にもケンブリッジに引っ越してほしいと言う。リチャードとしては、今はロンドン・イズリントンにあるダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所を軌道に乗せることのほうを優先したいのだが、スーザンには、ダークはそんな友誼を尽くす値打ちのある人間とは思えない。
〈第3話〉 第1回放送:2012年3月19日
巧妙な手口による連続毒殺事件が発生した。被害者たちの唯一の共通点は、ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所の(数少ない)依頼人だったこと。ダークは容疑者として逮捕されるのを恐れて逃げ回っていたが、警察がダークを追いかけるのは彼を殺人犯と疑っているからではなく、ダークに恨みを持っていると思われる謎の殺人犯から彼の身を守ってやるためだった。
それほどまでに深くダークを恨んでいる人間について、ダークには心当たりがあった。確かに、その男が犯人だったとしてもおかしくはない。実際、その男は証拠を見つけたダークの首を絞めて殺そうとさえするのだけれど、もし本当に彼が犯人だとしたら、あまりに単純で直線的だ。それこそ、別の意味でダークの「全体論的探偵事務所」は廃業するしかないのでは?
一方、リチャードは、実際に次々と人が死んでいるというのにあくまで自分流の(まだるっこしい)探偵法に固執するダークに苛立ちを募らせていた。
主要キャスト
DIRK GENTLY/SVLAD CJELL/DIRK CJELLI | Stephen Mangan |
RICHARD MACDUFF | Darren Boyd |
JANICE PEARCE | Lisa Jackson |
DI GILKS | Jason Watkins |
SUSAN HARMISON | Helen Baxendale |
Producer | Chris Carey |
Executive Producer | Saurabh Kakkar |
Executive Producer/Writer | Howard Overman |
Executive Producer | Brian Minchin |
Music | Daniel Pemberton |
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