第15回ダグラス・アダムス記念講演

 2021年3月11日午後7時から、6年ぶりとなるダグラス・アダムス記念講演が開催された。新型コロナウイルス感染下の状況をふまえての、初のオンライン開催となる。リアルタイム配信の後、1週間ほどの期間でオンデマンド配信される予定だったが、実際の講演の模様は技術的なトラブルで録画されていなかったことが判明する。が、出演者の好意により改めて録画し直されたヴァージョンが、3月27日から5月14日まで、当初の予定よりも長く配信されることとなった。以下は、その再録版の簡単な紹介である。


 司会役はロンドン在住のコメディアン、レイチェル・ウィーレイ(Rachel Wheeley)。自宅からビデオ通話という形で登場する。

 サイとその保護活動に関する短い動画で始まり、続いてかつてダグラス・アダムス自身が関わったサイの保護活動について簡単な説明があり、現在ナミビアで活動している人たちが紹介される。
 次に、「Socially Distanced Dirk」と題した、テレビドラマ「私立探偵ダーク・ジェントリー」の新作動画(約4分)。イギリスに帰国したままアメリカに戻れなくなり一人で退屈しているダークの元に、LAのアマンダからビデオ通話が入る、という設定で、ダーク役のサミュエル・バーネットとアマンダ役のハンナ・マークスの二人芝居になっている(そして私たちが観ているこの通話の動画は実は監視組織のものだった、というオチがつく)。

 Rhino International の共同創立者デイヴィッド・スターリングからの挨拶の後、アルヴィンド・イーサン・デイヴィッドによるオンライン講演「On the Advisability of Writing Fan Mail」(約15分)。ファンメールのすすめ、ということで、まずは13歳のアダムスが書いて採用された雑誌「Eagle」宛のファンレターが朗読される。続いて、今度はアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドがアダムスに送った、小説『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』の舞台化の許可を求めるファンレターに対する、アダムスのエージェント、エド・ヴィクターからの返事の文面が紹介される。

"Douglas Adams does not believe that his novel Dirk Gently's Holistic Detective Agency can be adapted for the stage or any other medium.
However, he will not stop you from trying."

(ダグラス・アダムスは彼の小説『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』は舞台だろうと他のメディアだろうと脚色するのは無理だと考えています。ですが、あなたが挑戦なさるのを止めるつもりもありません。)

 かくして舞台化された「Dirk Gently」はなかなかの評判となり(主演のローリー・キニアが写ったポスターも紹介される)、アダムス本人も観にやってきた。後に、アダムスが心から舞台化された自作を楽しんだわけではなかったことを知ってがっかりもしたが、この舞台を観たことにより、アダムスは「舞台化なんて無理、と思っていたが、映像化できるかもしれないと思えてきた」とのこと。アダムスの心変わりを促せただけでも、誇りにできる成果ではないだろうか……?

 最後に、スーザン・グリーンフィールドによる記念講演「The Creative Mind: Insights from Neuroscience」(約40分)。
 クリエイティヴになるには、と問う前に、まずは個々人のユニークさについて考えてみよう。たとえ一卵性の双子やクローンであったとしてもそれぞれに独自の個性を持つのは、脳そのものは似たり寄ったりだとしても、脳細胞のニューロンの繋がり方のパターンがひとぞれぞれだからである。また、脳には可塑性があって、夥しい量の暗記を強いられるロンドンのタクシー運転手を調べてみると、脳の特定の部位が平均より大きかったりする。同じようなことは音楽家や運動選手にも見られ、脳そのものも使い方次第で後天的に変化することがわかる。
 ニューロンの繋がりをいかに強めていくか、そのためには「過去」「現在」「未来」の物語を知ることが重要となる。ニューロンが未発達な子供は、「現在」のことしか考えられない。成長するにつれてニューロンの繋がりを強固にする――脳の中の前頭前野にあたる部分だが、逆にこの部分が未発達のままだと我慢ができず刹那的、つまり「子供っぽい」。
 ニューロンの結合を阻害する要因の一つが、過剰なドーパミン。ドーパミンは神経伝達物質で、まさにニューロンの結合を阻害することにより「忘我」を生み出す。それ故、ジャンクフード、アルコール、ドラッグ、セックス、危険を伴う過激なスポーツなどにより、脳内でドーパミンが過剰に放出され続ける生活を送っていると、集中力や共感性に欠ける大人になりかねない。ただし、文脈の意味を考えることができない分、大量の情報を処理することは得意だったりする。このことは、一見、現在の情報化社会に適しているように思えるかもしれないが、背後に宿る意味を探ったり抽象的な概念を理解したりできなくなるのは大問題だ。逆に、そうならないためには、「過去」「現在」「未来」の物語を知る、つまり小説を読むことをおすすめする(映画やドラマはおすすめできない。読むことのほうが考えることに繋がる)。楽器の演奏、料理、ガーデニング等もいい。こういった行動は、過去と現在と未来の時間の流れを把握できるからだ。
 講演の最後に紹介された方程式が、こちら。

stories = life stories = identity = individual mind = sense of uniqueness = creativity

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