関連人物一覧 -V-

Vernon, Richard リチャード・ヴァーノン
Victor, Ed エド・ヴィクター
Vogel, David E. デイヴィッド・E・ヴォーゲル
Vonnegut Jr., Kurt カート・ヴォネガット・ジュニア


Vernon, Richard  リチャード・ヴァーノン 1925.3.7-1997.12.4

 イギリスの俳優。ラジオ・ドラマ版及びテレビ・ドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』でスラーティバートファーストを演じた。
 数多くのテレビ・映画で活躍したが、残念ながら日本未公開作が多い。


Victor, Ed エド・ヴィクター 1939.9.9-2017.6.7

 アダムスのエージェント。1980年頃に契約を開始、2001年にアダムスが死去した後も、アダムス作品の出版管理をめぐる仕事を続けていたが、2017年に慢性リンパ球性白血病を患った末の心臓発作で死去。享年77歳だった。
 ニューヨークのブロンクスで、ロシア系ユダヤ人移民二世として生まれ、ニューハンプシャーのダートマス・カレッジ卒業後、奨学金を得てケンブリッジ大学に進学する。ロンドンやニューヨークの出版業界で働いた後、1974年から出版エージェントとしての仕事を始め、2年後には独立してロンドンで自身の会社を立ち上げた。
 当時はまだ出版エージェントの仕事は広く認知されていなかったようだが、人脈を広げベストセラーの実績を出すことで頭角を現し、2011年9月23日付のウェブ版ガーディアンで、ガーディアンが選ぶイギリス出版界で影響力を持つ人トップ100が発表された時、ヴィクターは23位に入っていた(このリストで彼より上位にランクインしている文芸エージェントは、マーティン・エイミスやサルマン・ラシュディを抱えるアンドリュー・ワイリーのみ)。この記事に書かれていた彼の経歴を読むと、アダムス以外にヴィクターが担当している有名人には、料理研究家のナイジェラ・ローソンや作家のフレデリック・フォーサイスらがいるとのこと。後年は病いと戦いながらも、最後まで現役で仕事をすることに熱意を燃やしていたらしい。Neflixのテレビドラマ『私立探偵ダーク・ジェントリー』第2シリーズ第1話のラストでは、献辞を捧げられている。


Vogel, David E. デイヴィッド・E・ヴォーゲル

 ハリウッドのプロデューサー。彼がディズニーの責任者1997年に、アダムスは『銀河ヒッチハイク・ガイド』の映画化契約を結ぶ。が、アダムスの書き上げた脚本に最終的なゴーサインを出す前に、ヴォーゲルはディズニーを去ってしまった。


Vonnegut Jr., Kurt カート・ヴォネガット・ジュニア 1922.11.11-2007.4.11


 『銀河ヒッチハイク・ガイド』を語る上で、もっとも頻繁に引き合いに出される作家の一人。アメリカで小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』を出版しているハーモニー社のブルース・ハリスは、アダムスにはヴォネガットと同じ、宇宙人や宇宙船を人間の感情や行動のメタファーとして巧く用いるセンスがあると言う(Crichton, p. 47)。実際、アダムスが小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』の第1章を初めて書き上げた時には、ジョン・ロイドからまるでヴォネガットの小説みたいだと指摘され、一から書き直したこともあった(Gaiman, p. 47)。
 ヴォネガットは、ドイツ移民の四世としてインディアナ州インディアナポリスに生まれた。コーネル大学で生化学を学ぶも、第二次世界大戦勃発のため陸軍に招集され、バルジの戦いでドイツ軍の捕虜となる。1945年2月、捕虜として連行されたドレスデンで、連合軍による無差別空襲に遭う(この時の体験が、後に『スローターハウス5』等の小説を生むこととなった)。終戦に伴いアメリカに戻ってからは、シカゴ大学大学院で人類学を学んだ。卒業後、ジェネラル・エレクトリック社勤務を始め、車のセールスマンや英語教師などの職を転々としながら、フリーランスの作家として、「バーンズハウス効果に関する報告書」(1950年)を皮切りに、SF風味の短編小説を雑誌に発表する。1952年には初の長編小説『プレイヤー・ピアノ』を出版するも、売れ行きは芳しくなく、作家として名前を広く知られるようになるのは長編四作目『猫のゆりかご』からだった。以降、破天荒な構成と強い反戦志向で、とりわけ当時のアメリカの大学生たちの熱狂的な支持を集める一方、保守層から「有害図書」扱いされたこともある。なお、1973年の『チャンピオンたちの朝食』からは、名前から「ジュニア」を取って「カート・ヴォネガット」名義で出版するようになった。
 ヴォネガットの作品は、主人公が時空を超えてさまよったり宇宙人が登場したりと、SF的要素が強い。しかし、ヴォネガット自身は、自分が「SF作家」のレッテルを貼られることに強く抵抗する。「わたしは“サイエンス・フィクション”と記されたファイルの引出しに、いやいやながら閉じこめられる身となった。わたしはそこから出たくてならなかった。(略)この引出しへ閉じこめられたければ、ことは簡単、テクノロジーに目を向ければよい。冷蔵庫の仕組みを理解できる人間が、同時にちゃんとした作家でありうるはずがないという考えが、いまなお根強く残っているらしい」(『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』解説、pp. 299-300)。こういった考え方も、SF作家である前にコメディ作家であると主張し続けた、ダグラス・アダムスととてもよく似ている(詳しくは『銀河ヒッチハイク・ガイド』考の第3章をご参照あれ)。
 さて、ヴォネガットが『銀河ヒッチハイク・ガイド』を読んだかどうかはさだかではないが、アダムスはヴォネガット作品を読んでいた。The Salmon of Doubt で、「好きな作家は?」と訊かれたアダムスは、チャールズ・ディケンズ、ジェーン・オースティン、P・G・ウッドハウス、ルース・レンデルの4人と共にヴォネガットの名前を挙げているし(p. 63)、また1983年11月のインタビューでは、これはいいと思うSFは何かと訊かれて、「ヴォネガットはいいと思うけれど、彼は「SF作家」じゃないよね」と答えている。
 さらに、『銀河ヒッチハイク・ガイド』が、ヴォネガットの『タイタンの妖女』と似ているところがあることを認めた(「時間等曲率漏斗、とか」同、p. 149)上で、それでも同列に扱われるのはヴォネガットに対してフェアじゃないと語った。ヴォネガット初期の傑作(アダムスは "those first three" という言い方をしているが、『プレイヤー・ピアノ』『タイタンの妖女』『母なる夜』 の3冊を差しているかどうかは不明)は内容的にとてもシリアスで、自分の作品はそこまでシリアスではないから、と(Gaiman, p. 149)。1987年3月27日のインタビューでは、ヴォネガットの世界観が、『スローターハウス5』に描かれているようなドレスデン空爆の実体験に基づいているのに対し、自分にはそんな体験はないこと、またヴォネガットが物事の本質を突くためにコメディの手法を利用するシリアスな作家だとしたら、自分はあくまでコメディ作家であり、時にはわざと物事の本質や視点をずらしてみせたりもする、と語っている。
 その一方で、ヴォネガットの後期の作品については、「よくまあタイプライターの前に座って書き続ける熱意を失わないでいられるものだ」と、かなり手厳しい(同、p. 149)。また、1985年にヴォネガットが『ガラパゴスの箱舟』を出版した時には、ある批評家が「まるでアダムスみたい」と批判するという、奇妙なねじれ現象が起こったこともある(Webb, pp. 149-150)。が、このような批判は、それこそヴォネガットに対して「フェアじゃない」と言うべきだろう。ちなみに、アダムスの公式伝記作家ニック・ウェブは、ヴォネガット作品の中での必読書として『スローターハウス5』『プレイヤー・ピアノ』『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』『チャンピオンたちの朝食』そして『ガラパゴスの箱舟』の5作を挙げている。
 ヴォネガットの主な著作は以下の通り(*は、カート・ヴォネガット・ジュニア名義)。

Player Piano (1952)* 『プレイヤー・ピアノ』 早川書房 1975年
The Sirens of Titan (1959)* 『タイタンの妖女』 早川書房 1972年
Mother Night (1962)* 『母なる夜』  白水社 1973年
Cat's Cradle (1963)* 『猫のゆりかご』 早川書房 1968年
God Bless You, Mr. Rosewater (1965)* 『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』 早川書房 1977年
Welcome to the Monkey House (1968)* 『モンキー・ハウスへようこそ』(短編集) 早川書房 1983年
Slaughterhouse-Five (1969)* 『スローターハウス5』 早川書房 1973年
Happy Birthday,Wanda June (1971)* 『さよならハッピー・バースディ』(戯曲) 晶文社 1986年
Breakfast of Champions (1973)* 『チャンピオンたちの朝食』 早川書房 1984年
Wampeters, Foma & Granfalloons (1974) 『ヴォネガット、大いに語る』(エッセイ集) 早川書房 1988年
Slapstick (1975) 『スラップスティック』 早川書房 1979年
Jailbird (1979) 『ジェイルバード』  早川書房 1981年
Palm Sunday (1981) 『パームサンデー ー自伝的コラージュー』(エッセイ集) 早川書房 1984年
Deadeye Dick (1982) 『デッドアイ・ディック』 早川書房 1984年
Galapagos (1985) 『ガラパゴスの箱舟』 早川書房 1986年
Bluebeard (1987) 『青ひげ』 早川書房 1989年
Hocus Pocus (1990) 『ホーカス・ポーカス』 早川書房 1992年
Fates worse Than Death: An Autobiographical Collage of the 1980s (1991) 『死よりも悪い運命 −1980年代の自伝的コラージュー』(エッセイ集) 早川書房 1993年
Timequake (1997) 『タイムクエイク』 早川書房 1998年
Bagombo Snuff Box (1999) 『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』(短編集) 早川書房 2000年
A Man Without a Country (2005) 『国のない男』(エッセイ集) NHK出版 2007年

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