目次
2016.2.6. 「2015年のマイ・ベスト」 2016.3.5. コミックス版『ドクター・フー』を買う 2016.4.2. The Fangirl's Guide to the Galaxy 2016.5.7. 『アイヒマン・ショー』/『シビル・ウォー』 2016.6.4. 2016年のタオル・デー 2016.7.2. ニール・ゲイマンのノンフィクション集 2016.9.3. ウィーンに行ってきた 2016.10.1. アントニオ・ガデス舞踊団 来日公演2016 2016.11.5. ダーク・ジェントリー祭 2016.12.3. 祭は続くよどこまでも
自分のホームページを初めて世界に向けて公開したのが2001年2月12日、それからほぼ毎週土曜日ごとに地道に更新を続けてきたけれど、その過程で実はひそかにストレスが溜まっていた。
表向き、私のホームページの内容は、ダグラス・アダムスとユーリ・ノルシュテインとアントニオ・ガデスの3人についての紹介で、そこには当然私の主観が色濃く反映されてはいるものの、一応ある程度の客観的な情報を記載するに留めている。その気になれば、誰でも調べられることではあるがそこまで調べようとは思わないだろうこと、たとえばアルメイダ劇場のこととか、または個別には知っていたとしても関連を意味づけようとはしないだろうこと、たとえばダグラス・アダムスとリチャード・ドーキンスの関係とか、そういう類の事柄だ。
だが、そうやって細々とした事どもを追いかけているうち、してやったりの体験や思いがけない幸運に出くわすことがある。だがそれらはあくまで私個人に属することなので、当然これまでホームページの中には一切盛り込まなかった。
たとえば、ロード・クリケット場。私は、ロード・クリケット場に入ったことがある。それも、一観客としてクリケットの試合を見たのではない。大体、私が訪れた日は試合をしてすらいなかった。では、会員でもなければ入れないはずのクリケット場に、どうしてクリケットのルールもロクに知らない私が試合のチケットもなしに入れてもらえたのかと言うと、その時私と一緒にロンドンを旅行していた友達の叔母さまがイギリス人と結婚してロンドンに住んでおられて、その結婚相手のイギリス人紳士がイギリス人紳士にふさわしくクリケットのファンで、ロード・クリケット場の会員だったのだ。そして、私の(かなり歪んだ理由でではあるが)ロード・クリケット場に対する思い入れを知ると、快く案内役を引き受けてくださった。
何年か前の3月。その年は常にない暖冬で、3月とは言えセーター一枚で汗ばむ程の陽気だった。叔母さまの自宅はリージェンツ・パークの東側で、そこからリージェンツ・パークを横切ってロード・クリケット場に歩いて行くことになった。私と友達とイギリス人の叔父さまの3人で、相当に怪しい英語で話しながら、柔らかい緑に染まった公園を散歩したこと、途中公園内にある休憩所で紅茶とお菓子をごちそうになったこと、友達はその時つましくスコーンを一つ手に取ったのに、私はやたらデカくて派手なフルーツタルトを食べたこと、いざクリケット場の前にたどりついて、施錠された門の前に立てただけでも感無量だったのに、叔父さまが中の人に話しかけて鍵を開けてくれるようお願いしてくださったこと、さすがにグラウンドの芝生の中には入れなかったがすぐそばまで行けたこと、私の全く知らないクリケットの名選手の写真が貼られたグラウンドの売店で、シンボルマーク入りのグッズやポスターを買えたこと、それらの記憶は褪せることなく今も鮮明に残っている。
おととしの初夏、叔父さまは早世された。さすがに私は行けなかったが、友達は直ちにイギリスに飛び、デヴォン州で行われた葬儀に間に合うことができた。その時、「クリケットに興味がある珍しい日本人」ということで、私の話も出たらしい。帰国した友達は、普段叔父さまが愛用されていたというロード・クリケット場のマグカップを、形見の品として私にくれた。マグカップには、ENGLAND V AUSTRALIA ASHES SERIES LORD'S 1993 という文字と、クリケットのバットを持った獅子(イギリス)とカンガルー(オーストラリア)のイラストが書かれている。
と、書き始めるときりがないが、それらはあくまで個人レベルの話である。故に、「ロード・クリケット場」の項目に載せるべきではないと考え、実際に書いたのは名称や最寄り駅や歴史についてのとびきり客観的な情報だけに絞った。絞ったものの、欲求不満は残った。
という次第で、「更新履歴・裏ヴァージョン」新設と相成った。こちらには、表の側には載せられない個人的な感想や思い出やその他もろもろについて、週間日記のような感覚で気の向くままに書いていくつもりでいる。
よろしければ、お付き合いください。
このホームページも、ついに15周年を迎えた。と言っても、特に大掛かりな刷新もせず、相変わらず地味に更新を続ける所存。我ながら芸がないとは思うけれど、よろしければ今年もどうかお付き合いくださいませ。
で、またしても例年通り、「My Profile」コーナーに追加した「2015年のマイ・ベスト」について。
今回は、小説も映画も迷いに迷った。小説に関しては、昨年は私の好きなレオ・ペルッツの作品が国書刊行会から2冊も出て、しかもどうやらこれでペルッツ作品の翻訳ラッシュは一段落らしいから、2015年のベストは彼の『スウェーデンの騎士』か『聖ペテロの雪』か二択で決まりだな、と思っていたけれど、年末に読んだピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』がびっくりするくらいおもしろくて、悩みに悩んだ末、こちらを選ぶことにする。ごめんね、レオ・ペルッツ。確かに『スウェーデンの騎士』と『聖ペテロの雪』の日本語訳が出たのは去年だけど、作品自体は1930年代に書かれたものなので、「2015年のマイ・ベスト」というからには私としてはなるべく現代の作品を選びたい。
レオ・ペルッツに関しては、2012年に日本語訳が出た『夜毎に石の橋の下で』を読んだ時も「これこそ今年のベスト小説で間違いなし!」と思ったのに、やはりその年の年末に読んだジュリアン・バーンズの『終わりの感覚』にその座を譲ることになったのだった。その時も「どうせなら現代の作品を優先しよう」と考えたんだっけ。
と思って、2013年2月2日付けの同コーナーを振り返ってみたところ、迷った理由は他にもあった。「ジュリアン・バーンズの場合、まだ日本語に翻訳されていない Arthur & George が日本で出版された暁には、こちらのほうこそ「ベスト本」に入れたくなるんじゃないか」――おお、私がそう書いてから約3年後の2016年1月、ついに本当に出たではないか、Arthur & George の日本語訳、『アーサーとジョージ』!
ああ嬉しい、ああ有難い。本の装丁については多少首をかしげたけれど、日本語訳で読ませていただけるからには文句を言っている場合じゃないわ。
ということで、現時点での「2016年のマイ・ベスト」の最有力候補は当然ジュリアン・バーンズの『アーサーとジョージ』だが、何と言っても2016年はまだ始まったばかり。『アーサーとジョージ』に匹敵あるいは凌駕するような凄い作品に出会って、また1年後に「迷いに迷った」と書きたいものだ。
一方、ベスト映画のほうは、おもしろい映画はたくさんあったけれど、『ミニオンズ』といい『スター・ウォース/フォースの覚醒』といい、続編映画があまりに多くて、これまたなるべくフレッシュな新作を選びたいと思う私の趣旨に反していた。どちらも大好きで、映画館で二回も観たけどね。でも、ここは斬新さを最優先で評価して、映画館では一度しか観なかった『インサイド・ヘッド』を1位に選ぶことにした。
2位の『パレードにようこそ』については、同じく実際の人物をモデルにした映画『イミテーション・ゲーム』とどちらにしようか迷った末の選択。
そして3位の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、確かにこれも続編ではあるけれど、前3作を観てなくても何の問題もない作りだし(実際私は前3作を観ていない)、何よりいわゆる「アクション大作」の暴力シーンにうんざりしている私を2時間釘付けにしたアクション映像はいくら褒めても褒め足りない。おまけに、この映画に登場する女性たちはみんな当たり前のように自分の足で立っていて、わざとらしい「強い女性」像が微塵もないときた日には、「続編だから」という理由で採り上げないのはあまりにもったいないと思わずにはいられなかった。
では、今年も大過なく平穏に月々の更新を重ねていくことを目標に、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの続きからスタート!
2016年2月某日、私は10数年ぶりに秋葉原駅で降り立った。
目当ては、秋葉原駅近くにあるアメコミ専門店、ブリスター・コミックス。昨年11月に予約したコミックス版『ドクター・フー』が届いたとの連絡を受けて足を運んだのだが、私はもともといわゆるアメコミ的な絵柄はちっとも好きじゃないし、コミックス版まで揃えたいほど熱心な『ドクター・フー』のファンになった憶えもない。でも、今回ばかりは予約してでも買わねばならなかった。いや、予約すれば確実に買えるとは何てありがたい、と言ったほうが正確かもしれない。
何故か。
数ヶ月待って手に入れた、コミックス2冊の表紙を見ていただきたい。
ポップでクールなデザインに加え、思いっきりカタカナで「ドクター・フー」と描かれていることからもお分かりの通り、この表紙のデザインを手掛けたアーティストのQUESTION No. 6さんは日本人。『ドクター・フー』への愛が高じて半年間イギリスに滞在し、その間に『ドクター・フー』のコミックスを出版している Titan Comics と交渉して、ついに「ヴァリアント・カバー」という特別表紙企画に採用されたとのこと。すごい快挙でしょ? 私はQUESTION No. 6さんとは一面識もないけれど、QUESTION No. 6さんがイギリスに行かれる前からご本人のツイッター・アカウントをフォローしていただけに、他人事ながらとても他人事とは思えず、ブリスター・コミックスで予約できることをツイッター経由で知るや否や速攻で申し込みをしたのだった。
QUESTION No. 6さんの作品がコミックス版『ドクター・フー』の表紙に選ばれるまでの詳細についてはこちらのブログ記事をお読みいただきたいのだが、この記事によるとQUESTION No. 6さんが『ドクター・フー』のファンになるきっかけは、他でもない『銀河ヒッチハイク・ガイド』だったとのこと。中でも特にフォード・プリーフェクトが好きで、「フォードについてモリモリと調べていく中で、大手ファンサイトにフォードはドクター・フーの影響を受けて作られたキャラクターという文字を発見」されたのだとか。
へええ、日本にもそういう経緯で『ドクター・フー』のファンになる方がいらっしゃるんだなあ。というか、QUESTION No. 6さんが『ドクター・フー』だけでなく『銀河ヒッチハイク・ガイド』もお好きとは嬉しいなあ、と、ちょっと思い切ってその旨をQUESTION No. 6さんのツイートにリプライしてみた。すると、QUESTION No. 6さんからリプライのリプライが届き、あのブログ記事に書かれていた「大手ファンサイト」というのが他でもない私のこのサイトのことだというではないか!
……たとえ私のサイトが存在しなかったとしても、『銀河ヒッチハイク・ガイド』が好きな人ならいつか何らかのきっかけで『ドクター・フー』にたどり着くだろう、と言われれば、その通りだと私も思う。でも、そんなパラレルワールドの出来事はさておき、現実のこの世界においては、QUESTION No. 6さんが私のサイトで『ドクター・フー』に興味を持ち、そして日本人として初めて公式の『ドクター・フー』コミックスの表紙を担当されたということは、もはや誰にも変えられない歴史的事実。ふふふふふ、誰が何と言おうと私は残りの人生でずっと自慢させてもらうぞ!
ということで、QUESTION No. 6さんの今後のさらなる活躍を期待しつつ(できれば表紙と言わず中のマンガのほうも手掛けてほしい。私としては、アメコミ的な絵柄よりQUESTION No. 6さんのイラストのほうがはるかに好ましいんだもの)、今回の更新もまだまだ映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの続き。
それから、アントニオ・ガデス舞踊団が7年ぶりに来日決定とのことで、久しぶりにこちらの最新ニュースも更新。勿論、私もチケットは手配済みですとも。
2016.4.2. The Fangirl's Guide to the Galaxy
前回の同コーナーで書いた通り、コミックス版『ドクター・フー』を秋葉原のアメコミ専門店、ブリスター・コミックスにメールで予約して購入したところ、その後ブリスター・コミックスから毎月「PREVIEWS」というタイトルの最新アメコミカタログと申し込み用の小冊子が届くようになった。
カタログ本体はアメリカで作成されているもののようで、フルカラー、500ページ強もある。基本的にバックナンバーではなく最新号しか載せていないにもかかわらず、だ(フィギュアの類のページはあるけど)。これまでアメコミというジャンルにほとんど接点のなかった私には、毎月こんなにもたくさんのアメコミが発売されているという事実そのものに、まず単純に驚いた。
軽い好奇心からカタログをぱらぱらと眺めてみると、確かに私はアメコミは読まないけれど、昨今立て続けに製作されているアメコミを原作としたハリウッド大作映画はそれなりに観ているため、映画で私にも馴染みがあるキャラクターや作品がたくさん載っている。ま、それは当然だが、私がさらに驚いたのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような有名なハリウッド映画が(今さら)コミックス化されて出版されていることだった。その結果、「PREVIEWS」というカタログを見ていると、アメコミが先か映画が先か、だんだん分からなくなってくる。
さらにおもしろかったのは、そういったアメコミの合間に、日本のコミックスの英語版がちょくちょく混ざっていること。英語版と言っても、すべてが英語に訳されているものもあれば、部分的に敢えて日本語のロゴを残したりローマ字表記を使ったりしているものもある。日本のマンガやアニメを愛好する英語ネイティヴたちは、きっとこのカタログを見て、「日本語が分かる人っていいなあ、自分も日本語ネイティヴに生まれたかったなあ」と溜息をついているにちがいない――ごめんね、恵まれた日本語ネイティヴの身でありながら、このカタログに出ている日本のコミックスをほとんど読んだことがなくて。
などとくだらないことを考えながらカタログのページをめくるうち、ある一般書籍の宣伝ページに出くわした。その本のタイトルとは、The Fangirl's Guide to the Galaxy: a handbook for Girl Geeks。
こんなタイトルの本を見つけてしまったら、私の場合、買って読むしかないよねえ。
ということで、Amazon.co.jpで取り寄せてみたところ、The Fangirl's Guide to the Galaxy は、「私はオタクにしてフェミニスト。'fangirl' という言葉をこよなく愛す(超訳)」という宣言文から始まる、(主に)アメリカでオタク女子として楽しく生きていくための具体的な指南書だった。オタク趣味に男子も女子もあるものかね、と思わないでもなかったが、アメリカでは女性がアメコミ専門店に行くと店員から「女のくせに」とか「初心者の素人が」という冷たい扱いを受けることもあるのだそうな。そういう二重差別に屈することなく、女性も好きな作品を好きなように愛好しよう、どんなに内気な女性でもネットやコミコンで友達を増やすことができるよ、そのハウツーを伝授するね、というノリで書かれた文章は、明るくてポジティヴで好感が持てる。インターネットの上手な利用法や、コミコン参加時のちょっとしたコツ、といった情報に加え、「後悔しないタトゥーの入れ方」の説明なんてのもある。「PREVIEWS」を眺めて私が想像した通り、日本のアニメやマンガのコアなファンの間では日本語が分からないと肩身の狭い思いをすることがある(けど気にするな)、とか、いわゆる二次創作はアメリカでもたくさん発表されていてそのジャンル分けには 'Yaoi' とか 'Yuri' といった言葉も使われている、といった、海外の日本語事情もおもしろい。そういう意味では、買って読んで損はないと思う。
が、しかし。
The Fangirl's Guide to the Galaxy というタイトルを付けておきながら、『銀河ヒッチハイク・ガイド』について一言の言及もないというのはどうなのよ!
……気を取り直して、今回の更新もまた映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの続き。まだ終わりません。
2016.5.7. 『アイヒマン・ショー』/『シビル・ウォー』
今、映画版『銀河ヒッチハイク・ガイド』のアーサー・デントことマーティン・フリーマンが出演している新作映画が2本、日本で公開されている。『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』と『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。毛色の全く異なる2本だが、私は勿論、どちらの映画も尻尾を振って観に行ってきた。
『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』は、1961年にイスラエルで行われたナチの戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判をテレビ放送しようとした、テレビマンたちの物語。マーティン・フリーマンは、番組のプロデューサー、ミルトン・フルックマンを演じている。
この映画を観て私が一番驚いたのは、第二次世界大戦から5年以上経った1960年代に入っても、アウシュビッツの全容が世間にほとんど知られていなかったということだった。戦後イスラエルに移り住んだホロコーストの生き残りたちが自分たちの体験を語っても、イスラエル国内においてすら話を信じてもらえず、被害者でありながらまるで自らの恥であるかのように口をつぐむようになっていったという。それだけに、当時の関係者の証言とアイヒマン本人の証言を録画して放送したのは、とてつもなく重要だった。
とは言えミルトン・フルックマンには、テレビのプロデューサーとしてホロコーストの真実を世界に知らしめるべしという社会的道義心もあっただろうが、同時に、一躍世界に自分の名前を知らしめたいという個人的欲望もあっただろう。だから、良い番組を作るために赤狩りにあって仕事を干されているドキュメンタリー監督のレオ・フルヴィッツを敢えてイスラエルに呼び寄せつつも、フルヴィッツがアイヒマンの内面を捉えることにこだわるあまり視聴率そっちのけになる姿勢に怒りもする。単純に図式化された人物にならない辺りが素晴らしい。
おまけに、有能なビジネスパーソンとしてテキパキ動き回っている時は至ってスマートなのに、家族と一緒のプライベートな時間には、不思議にふんわりと丸みを帯びて見える。自宅に暴漢がやってきたと勘違いし、バスローブ姿で野球のバットを持って立っているシーンでは、約10年前に彼が演じたアーサー・デントをうっすらと垣間見れたようでちょっと楽しかった。
もう一本の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、言わずと知れたアメコミ映画。マーベル・シネマティック・ユニバースと呼ばれる一連のマーベル映画に、あのマーティン・フリーマンがついに参加、と知った時は、『アイアンマン』やら『キャプテン・アメリカ』のシリーズをそんなに深い関心もないまま新作が公開されるたびにとりあえずミーハー心で観ておいて本当に良かったと思った。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のためにそれらを一から観なくちゃならないとしたら、大変だったもの。
『アイヒマン・ショー/歴史を映した男たち』と違い、残念ながら『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でのマーティン・フリーマンの出番はそんなに多くない。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』のパンフレットには、マーティン・フリーマンのマの字もない有様だ。が、私はアメコミの原作を知らないので断言はできないものの、今回の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』におけるマーティン・フリーマン演じるエヴェレット・ロスはあくまで前フリであって、本格的な活躍は次回以降のマーベル作品のどれかになるんじゃないかと思う――どうか私の勝手な妄想で終わりませんように!
言うまでもなく今回の更新も、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの続き。でも、さすがにそろそろ終わりが見えてきたかな。
『銀河ヒッチハイク・ガイド』のファンたちは、毎年5月25日を「タオル・デー」と称し、ダグラス・アダムスへの追悼を込めてタオルを持って過ごす。
私がこういう草の根ファン活動を知ったのは2006年5月だったから、私にとって今年は10回目のタオル・デーになった。と言っても、ちょっと大きめのタオルハンカチを携帯する、とか、ツイッターで "Happy #Towelday" とつぶやく、とか、せいぜいその程度のことしかしていない。ああ、10年経っても相変わらず甲斐性なしな私。
が、この10年で世間の「タオル・デー」の認知度は随分と上がったような気がする。かつてはネット記事にタオル・デーの話題が採り上げられても、それは「ディープなファンたちがこんなことをやっています」といった扱いだったが、今ではイギリスの大手メディアの公式ツイッターアカウントまでもが、"Happy #Towelday" とつぶやいていてくれる。
私が見かけた限りでも、ウェブ版ガーディアンはタオル・デーにちなんで『銀河ヒッチハイク・ガイド』クイズを載せていたし(私は余裕で満点)、UK版グーグルの公式ツイッターアカウントはグーグルサイトで'the answer to life the universe and everything'で検索した時の映像をツイートしていた。BBC Oneの公式ツイッターアカウントに至っては、テレビドラマ「And There Were None(そして誰もいなくなった)」の中でイギリスの人気俳優エイダン・ターナーがバスタオル1枚で登場するシーンの映像を添えて、"We heard it was #TowelDay..."とつぶやく始末。ツイッターというSNSの特性もあるのだろうが、まったく何という気安さだろう。素晴らしい。
そうそう、ちょうど今アメリカで撮影中のテレビドラマ版 Dirk Gently の公式ツイッターアカウントも"Happy #Towelday" とつぶやいていて、そうだ、忘れかけてたけどこの秋にはこのドラマも放送される予定だったな、と思い出す。薄情で申し訳ない。でも、テレビドラマ版 Dirk Gently と言えば、BBC 4で2012年にスティーヴン・マンガンとダレン・ボイドの主演で放送されたヴァージョンがまだ記憶に新しすぎ/おもしろすぎて、それとは全く異なるヴァージョンの新作テレビドラマと言われても、正直ピンとこないのだ。
おまけに今、私の頭を占めている Dirk Gently は、テレビドラマ版というより、アメリカからの到着を待っているコミックス版だったりもする。このコミックス版については、この秋以降にまとめて紹介するつもりでいるが、その頃には私の頭の中がコミックス版と新作テレビドラマ、二つの Dirk Gently で大いに盛り上がっているといいな。
で、今回の更新も映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの続きだが、秋が来る前には終わっているはず――というか、本当は今回の更新をもって完成させる予定だったのだが、途中で時間切れとなってしまった……。
5月31日、作家ニール・ゲイマンがこれまでに発表した小説以外の記事やスピーチ等をまとめた本 The View from the Cheap Seats が発売された。
ゲイマンのノンフィクション集、ときたら、これはもう絶対ダグラス・アダムスについて書いた文章も収録されているはず、と、一秒の逡巡もなくAmazonで予約購入した。そして、先月中旬に配達された本を開いていそいそと確認してみたら――確かにアダムスに関するエッセイは2作も収録されていたけれど、M・J・シンプソンの非公式伝記に寄せた序文と、30周年記念で新装版で発売されたペーパーバック So Long, And Thanks for All the Fish に寄せた序文、どちらも私が既に持っているものだった。残念。
まあね、ゲイマンがアダムスについて書いた文章で私が見逃しているものがあったとしたら、それはそれでおのれの不覚を恥じ入らなくちゃならないけどさ。
それに、当たり前だが、アダムスや『銀河ヒッチハイク・ガイド』のことについて書いていなくても、ゲイマンのエッセイは十分以上におもしろいし興味深い。まだ全部に目を通した訳ではなくて、フィクションを読む楽しさや大切さ、子供の頃の読書体験など、主に本に関する内容のものだけ拾い読みした程度だが、論理的なのに高圧的じゃない、ゲイマンのお人柄がしのばれるような文章ばかり。そういう意味でも、買って損はない一冊だったと思う。
悲しいかな、ニール・ゲイマンは未だに日本ではブレイクし損ねている。だから、彼のノンフィクション・エッセイ集が日本語に訳されて出版される可能性は低いと言わざるを得ない。最近は、彼のフィクションでさえ、さっぱり新訳が出ていないしな……と思いながら、念のためAmazon.co.jpをチェックしてみたところ、何とゲイマンの愛妻、アマンダ・パーマーの著書の日本語訳が出ていた。
『お願いの女王 人はなぜ彼女の頼みを聞き入れたくなるのか』――Amazon.co.jpに載っている紹介文によると、「クラウドファンディングで集めた120万ドルでアルバムを制作して話題になり、TEDカンファレンスで講演を行なって大反響を呼んだインディーズミュージシャン」のアマンダ・パーマーが、「そのありのままを自らの言葉で綴った」本だそうな。むむむ、夫であり作家であるニール・ゲイマンのノンフィクションの日本語訳は向こう当分出そうもないのに!
と、私が悔しがるのもおかしな話だが、ともあれアマンダ・パーマーの『お願いの女王』も、機会があったら読んでみようっと。
気を取り直して今回の更新は、ついに映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングの完結。いやーーー、予想以上に長引いた。そしてまた例年通り、2ヶ月の夏休みに入ります。次回の更新は9月3日。月日の流れが早すぎて、もたもたしていたらあっという間に夏が終わってしまいそうだから、映画のメイキングの次に何を採り上げるか、早めに考えておいたほうが良さそう。
夏休みを利用して、ウィーンに行ってきた。
ウィーンに行くのは、私は今回が初めて。このサイトとの関係で言えば、ウィーンは、学生時代のアダムスが父親の運転する車に乗って、作曲家ジェルジ・リゲディの講義を聴きに行った場所、ということになる。が、今回のウィーン行きはそういうこととは関係のない、ごく普通の観光旅行だった。
海外旅行自体も8年ぶりなら、ロンドン以外の場所に行くのはもっと久しぶり。20代の頃は年に一度くらいのペースであちこち出かけていたけれど、2005年と2008年のロンドン旅行と年末年始の実家への帰省を除けば、ここ15年くらい国内外を問わず全く旅行していない。そんな私が、土地勘ゼロのドイツ語圏に漠然とした観光目的で行って楽しめるかしら、と、正直かなり心配だったけれど、現地に着いてみれば楽しいの何の!
そうだ、海外旅行って、普段の日常から解放された感じとか、現場でなければ体験できない空気感とか、ちょっぴり無頓着な金遣いとか、そういったものが気持ちを高揚させてくれるものだった。ううむ、この感じ、すっかり忘れていたなあ、てな調子で浮かれながら、6泊8日の滞在で特に怖い目にも危ない目にも遭わず、8月初旬に無事に帰国した。
が、そうは言っても私は私、ウィーンで一カ所だけ、ダグラス・アダムスのマニアらしい行動に出た。それが、ウィーン自然史博物館。
ここなら絶対にいる、絶対に会える――と思ったら、やっぱりいた。コモドオオトカゲに、
アマゾンマナティーに、
カカポに、
ドードー!
……コモドオオトカゲとアマゾンマナティーとカカポとドードーなら、2008年のロンドン旅行で訪れた自然史博物館でも会ってるんだけどね。でも、会える機会があれば逃す手はないでしょ。
ついでに言うと、ウィーンの自然史博物館でもロンドンの自然史博物館でも、絵ハガキになっているのはドードーの剥製だけだった。ま、残りの3種は今でもこの地球上で生息しているけど、ドードーだけは絶滅していないから当然か。そういう意味では、コモドオオトカゲとアマゾンマナティーとカカポが絵ハガキにならないことを祈るべきなのかもしれない。話は変わって今回の更新は、2016年5月から月に1冊のペースで刊行された全5巻のコミックス、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: Spoon Too Short を紹介。
コミックス版ダーク・ジェントリーは実はこれが2作目だが、この作品の前に発表された作品については、全1巻にまとまったものをAmazon.comで注文したものの、まだ届いていない。来月には紹介したいと思っているが、間に合うかしら。
2016.10.1. アントニオ・ガデス舞踊団 来日公演2016
先月、アントニオ・ガデス生誕80周年ということで来日した新生アントニオ・ガデス舞踊団の公演を観に、東京・渋谷のBunkamura オーチャードホールに行ってきた。
今回の公演は、『血の婚礼/フラメンコ組曲』と『カルメン』の2演目。東京ですらそれぞれ2回ずつしか上演されないとあって、『血の婚礼/フラメンコ組曲』は逃してしまったが(土曜出勤がある職場って悲しい)、『カルメン』だけは観ることができた。
これまで芸術監督兼カルメン役だったステラ・アラウソは役から退き、若手のダンサーがカルメン役に起用されていた。そのこともあって、何となくカンパニー全体が若手中心のような感じがする。実際、パンフレットに載っているダンサーたちの顔写真を見ても、メンバーは若い人ばかり。かつてのアントニオ・ガデス舞踊団は年齢層の広さが特徴的だったのに、最近はなかなかそうもいかないのかなあ。老いて禿げて太った人たちがカンパニーに混ざっていてこそ、ガデスが描こうとしたスペインの民衆を表現できると思うんだけど(若くて細くてきれいな人たちだけでやるのは、却って難しくないか?)。
あと、観ていて歌の部分がやけに弱いような気がした。というか、アントニオ・ガデス舞踊団の公演ではいつも女性の歌い手がいたはずなのに、今回はその人がいない……?
念のため過去の来日公演パンフレットで確認してみたけど、やはりこれまでは『カルメン』の配役表に女性の歌い手が入っている。合わせてガデス本人が出演している『カルメン』のCDを聞き直してみたところ、私の記憶違わず、女性の歌い手が圧巻の声で舞台を大いに盛り上げていた。
さらに言うと、前回までの公演では3人いたギタリストも、今回は2人になっている。むむむ、道理で私のような素人の耳にも歌が弱く感じられた訳だ。
……な、なんだか「昔は良かった」的な年寄りの繰り言ばっかりで申し訳ない。でも、言うまでもないことだが、ガデスの演出/振付を生の舞台で堪能するのは今回もすごく楽しかった。映像では、どうしても舞台全体の構成を体感できないのよね。ということで、次回の来日公演も楽しみにお待ちしていますので、どうかよろしく!
気を取り直して今回の更新は、先月下旬にようやく届いた2015年に発売されたダーク・ジェントリーのコミックス、Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Interconnectedness of All Kings の紹介(でも、正直言ってところどころよく分からなかった……)。
それから、ものすごく久しぶりにユーリ・ノルシュテイン関連の最新ニュースを追加した。生誕75周年を祝して、ノルシュテインの主要作品が映像と音声を修復したヴァージョンで上映されるとのこと。うわあ、これは今からすごく楽しみ!
先月の22日から、BBCアメリカでテレビドラマ版 Dirk Gently's Holistic Detective Agency の放送が始まった。全8話のうち、今のところ第2話まで放送されている。
サミュエル・バーネットがダーク・ジェントリー、イライジャ・ウッドが巻き込まれ役のトッド。イライジャ・ウッドの役名から推測する限り、2010年から2012年にかけて(イギリスの)BBCで放送されたヴァージョンのテレビドラマ Dirk Gently と同様、アダムスの「全体論的探偵」というアイディアとダーク・ジェントリーというキャラクターを活かしているものの、ストーリー全体は新たに書き起こされたと思われる。
「思われる」と書いたのは、残念ながら私がまだこのテレビドラマを観ていないから。ここ数年、TunnelBearというソフトを使って日本にいながら海外のテレビ番組を楽しんでいたが、よりにもよって Dirk Gently's Holistic Detective Agency のテレビドラマ新シリーズが始まる数週間前から突然接続できなくなったのだ。目下、他のソフトを試しているが、繋がったり繋がらなかったりとひどく不安定で、なかなかうまくいかない。ううう、一体何が悪いんだろう。
ともあれ、このテレビドラマの新シリーズといい、昨年と今年のコミックス版2シリーズの発売といい、ここにきてやけにダーク・ジェントリーが注目されている――と思ったら、今年の3月にはとうとうダーク・ジェントリーの戯曲まで出版されていた。それも、ジェイムズ・ゴスとアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドの2人がオックスフォードの学生だった時に上演した、20年前の舞台作品が、だ。
この舞台、とても評判が良かったらしい。アダムス本人も観て気に入ったのだとか。その話をアダムスの伝記本で読んで興味をそそられるだけそそられていただけに、ついに私にも読めるようになったのはとても嬉しい。
早速一読して、「うわ、これは確かによく出来ている!」と感嘆した。何がすごいって、新旧2種類のテレビドラマ版ですらさまざまなアレンジを加えることでようやく映像化できたというのに、この舞台版は驚くほど原作小説に忠実に作られてているということだ。何という離れ業。なるほど、これならアダムスも喜んだはずだわ。
ということで、今回の更新はこの舞台版 Dirk Gently's Holistic Detective Agency について書いた。合わせて、出版された戯曲に添えられていた序文も訳出したので良かったらご参照あれ。
そうそう、ジェイムズ・ゴスと言えば、アダムスが書いた「ドクター・フー」脚本のノベライズ、Doctor Who: The Pirate Planet が2017年1月5日に発売されることに決まったのだとか。こちらも楽しみだ。
BBCアメリカ製作のテレビドラマ版 Dirk Gently's Holistic Detective Agency、なかなか好評だったようで、最終回の放送を待たず第2シリーズの製作が決定したそうな。実にめでたいことである。
残念ながら、私は今なおこのドラマは観られずにいる。が、ツイッターのTLに流れてくるドラマの写真をちら見しながら歯噛みして悔しがっていたところ、BBCアメリカの公式Tumblrで、このドラマが今月にもNetflix経由で世界中で視聴できるようになるとの情報がアップされた。
えええええ!
世界中(internationally)ってことは、テレビドラマ版 Dirk Gently's Holistic Detective Agency をもうまもなく日本のNetflixでも観られるようになるってこと?! だとしたら、当然、日本語字幕も付くのよね? うわわわわ、これは大変、これまでWOWOWだけでも観るのが手一杯でNetflixの加入は見送ってきたけれど、もし本当の本当に Dirk Gently's Holistic Detective Agency が日本語字幕つきで観られるというのなら、今度の今度こそ何が何でも加入するぞーーー!……とは言え。日本はダグラス・アダムス関連の事柄に関しては甚だ後進国なだけに、「日本のNetflixは例外」扱いされる可能性はある。ぬか喜びに終わった時のための、心の準備もしておこう……。
そして今回の更新もまたダーク・ジェントリー関係。舞台版 Dirk Gently's Holistic Detective Agency をジェイムズ・ゴスと共に手掛けたアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドの紹介と、彼がコミックス版に寄せた序文の追加する。
テレビドラマ同様、コミックス版のダーク・ジェントリーも好評らしく、私が気付かぬうちにシリーズ第3弾も刊行されていた。そのサブタイトルは、何と"The Salmon of Doubt"。おお、ついにこの題材に手を出しましたか。
Dirk Gently's Holistic Detective Agency: The Salmon of Doubt の全1巻本は、2017年5月発売予定とのこと。Amazon.co.jp の商品紹介によると、どうやらテレビドラマ版と相互乗り入れしているようだ。これまた凄いムチャをやるなあ。
こういうことができるのも、このテレビドラマにコミックス版を監修しているアルヴィンド・イーサン・デイヴィッドがエグゼクティブ・プロデューサーの一人として参加している強みだろうか。ともあれ、来年もまだまだダーク・ジェントリーのブームは終わりそうにない。
さてさて、今年の更新も今回が最後。次回は約2ヶ月後の2017年2月4日に更新する予定だが、その時にはどうかテレビドラマ Dirk Gently's Holistic Detective Agency の感想をアップすることができますように。