ロンドン旅行記2008

 以下は、私が2008年12月11日から18日にかけて決行した、『銀河ヒッチハイク・ガイド』とはあまり関係ないがまったくないとも言い切れぬ、ロンドン6泊8日の旅の記録である(2005年5月の映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』鑑賞記についてはこちらへ


 2005年ゴールデンウィークのロンドン3泊5日が、純粋に映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を観るためだったのに対し、2008年12月の6泊8日のモットーは、「『銀河ヒッチハイク・ガイド』は追いかけず、今回は美術館/博物館鑑賞に徹するぞ」だった。故に、このホームページで報告できるようなことはないはずなのだが、それでもこの私がロンドンで6泊もしたからには何かしら出てくる。
 という訳で――

 機内映画
 科学博物館
 自然史博物館
 マークス・アンド・スペンサー
 テレビ・ドラマ
 フォービドゥン・プラネット
 ピカデリー・サーカスのウォーターストーンズ書店
 DVD
 ヒースロー空港ターミナル3


機内映画

 今回も前回同様にヴァージン・アトランティック航空を利用した。特にこの航空会社にこだわりがある訳でもマイルを溜めている訳でもなく、フライト時間が私に好都合だったにすぎない。
 2005年5月7日付の更新履歴・裏ヴァージョンにも書いた通り、3年半前は忘れもしない、往路のフライトでエンターテインメントシステムが壊れて使用不可の憂き目に遭ったが、さすがに今回は問題なかった。というか、完全オンデマンド・システムで、映画だけでも50本とか、この他にテレビ・ドラマもあるとか、音楽ならレディオヘッドとかコールドプレイとかの新譜アルバムだって丸ごと聴けるとか、プログラム内容のあまりの充実ぶりに、「これ、本当にエコノミークラス用?」と首を傾げたくらいだ。
 席に着いてから離陸するまでの間、座席前の荷物入れネットに入っていたプログラムガイドをそれこそ舐めるようにチェック。そして、英語オンリー日本語吹き替えなしの映画作品の中に、他でもないガース・ジェニングス監督作品 Son of Rambow を見つけて狂喜する。嗚呼、今回もヴァージン・アトランティック航空にして本当に良かった!
 離陸から30分くらい経った頃、私の座席にもようやくヘッドフォンが配布され、待ってましたとばかりに Son of Rambow を観る。敬虔な家庭の育ちで周りから浮いているオタク少年と、荒廃家庭の育ちで周りから浮いている不良少年が、ひょんなことから出会い、二人で自主映画製作に乗り出すという、ありがちと言えばありがちなお話なのだが、ありがちなおかげで英語の台詞の大半が聞き取れなくても話を見失わずに済んだ上、ストーリーの展開にしてもラストシーンにしても、全編とても心優しくてほっとする。最近日本で公開されたイギリス映画『BOY A』(2007年)の、究極のポジティヴ版、とでも言おうか。
 さらに、折々に挿入される特殊映像がこれまた本当にかわいらしい。今回は子供が主人公の映画だから、というより『銀河ヒッチハイク・ガイド』の時もそうだったから、多分こういうテイストがガース・ジェニングスの好みなんだろう。いやほんと、日本の映画館で日本語字幕付きで上映してくれたら、「機内で観たからもういいや」と言わず、私は喜んでまた観に行くのに。
 Son of Rambow が終わった後も、食事とトイレの時間以外はひたすら機内エンターテインメント用画面とにらめっこ。ロンドンまでのフライト時間は約12時間で、座ったままの足はむくみ、膝も腰もたいがい痛かったけれど、それでも着陸30分前になってヘッドフォンを取り上げられた時、「せめてあと2時間あれば」とか思ってた私って、一体。
 


科学博物館

 展示物そのものに興味はないが、ここはかつて『銀河ヒッチハイク・ガイド』の企画展が開催された場所である。どんな場所かだけでも確認してみよう、と、中に入ってはみたけれど、この時の企画展のテーマはよりにもよって「日本車」。何が悲しくて英語で日本車の説明を読まされなくちゃならんのだ、ということでとっとと退散する。
 それでも、かつての『銀河ヒッチハイク・ガイド』の企画展の名残りの一つもありはしないかと、未練がましく博物館のショップを一巡したものの、そんな都合の良いものは発見できなかった。ちぇっ。


自然史博物館

 美術館/博物館巡りが目的の今回の旅行の中でも、自然史博物館については「ま、時間が余ったら行ってもいいかな」くらいの思い入れしかなかった。が、軽い気持ちで入ってみたら、これが「超」がつく程の大当たり。明るくも壮麗な玄関ホールだけでも、細部の細部までモロに「私の趣味」で一気にテンションが上がったのだが、何も考えず適当に館内を歩き回っているうち、コモドオオトカゲアマゾンマナティの剥製を見つけてハッとする。そうか、ここはアダムスの『最後の光景』を追体験できる場所でもあったんだ。おまけに鳥類のコーナーでは、同じ一つのケースの中にカカポとドードーが並んでいる……。
   


マークス・アンド・スペンサー

 自然史博物館からナイツブリッジ駅に向かう途中で、食品だけを扱う小さい店舗のマークス・アンド・スペンサーを見つけて入る。目当ては、3年半前に買ったのと同じ、ダグラス・アダムスご推奨のアールグレイのティーバッグリッチ・ティー・ビスケット。せっかくイギリスに来たからには、これだけは絶対買って帰らないと。
 が、リッチ・ティー・ビスケットはあれど、アールグレイのティーバッグがない。どんなに探しても見つからない。3年半前は、同じくらい狭いノッティング・ヒルの店舗で簡単に大量に買えたのに、ナイツブリッジではただの1個も売っていないってどういうこと、まさかアールグレイはもう製造中止になったとかいうんじゃないでしょうね?!
 で、翌日は朝一番にオックスフォード・ストリート沿いにあるマークス・アンド・スペンサーの一番大きい店舗に駆け込んで、無事アールグレイのティーバッグを発見、しこたま購入する。ああ良かった、というか、「ったく余計な手間を取らせおって」。


テレビ・ドラマ

 12月14日(日)は、午後5時前にはホテルに戻っていた。日曜日はどこも夕方6時には店じまいするから、ということもあるけれど、この日は午後5時半からBBC1でテレビ・ドラマ『リトル・ドリット』の最終回を放送するというので、ホテル近くの高級スーパーで買い込んだ総菜類を食べながら観ようと思ったのだ。ディケンズの原作小説は前に読んだことがあって、その割にはどんな話だったか全然憶えていないのだが、でも観ていればそのうち何となく思い出せるだろう、と。
 木曜日の夕方にロンドンに着いてから3日ばかり経ったこの頃、私の頭の中で「英語を聴く」ことに対して変化が起こりつつあった。と言っても、リスニング能力が向上したのではない。むしろ逆。地下鉄やスーパー、あるいはテレビから否応無しに聞こえてくる英語の意味が分からなくても、全然気にならなくなってきたのだ。つまり私の脳が、いちいち神経を尖らせて英語を理解しようというけなげな努力を放棄した、ということ。その結果、「何を言っているのかさっぱり分からない英語のテレビ・ドラマを、何の苦もなくだらだらと見続けることができるようになった」。
 真面目に英語力を高めたい人にとってはこういう脳の働き方は大問題だろうが、向上心の薄い私としては悪くない。観ていて頭が疲れないし、英語が聞き取れない代わりに場の空気を読むのには長けてくる。それでも『リトル・ドリット』の場合は、ディケンズ作品だけのことはあって会話のテンポが遅くて台詞回しがはっきりしているから、英語もそこそこ聞き取りやすい上、個々のキャラクターがやたらはっきりしていて、善人か悪人か利口かバカか、あるいは秘密を抱えた謎の人物か、観ていて迷いようがない。1時間半のドラマが終わり、これなら日本語字幕なんかなくても楽勝かも、と妙に強気になったところで「本日午後9時から、ケネス・ブラナー主演のミステリー・ドラマ Wallander を放送します」との宣伝文句が入り、せっかくだからこれも観なくちゃ、と思う。
 で、その2時間後、『リトル・ドリット』で得た自信はあっさりゆらぐことに。やっぱり現代ドラマとなると、会話も聞き取りにくいし、キャラクターの心理は格段にデリケートになる。まずい、やっぱり日本語字幕なしは無謀かも、と思いながらそれでも強引に見続けていくうちに、再び「英語が分からないことが苦でなくなる」瞬間がやってきて、2時間のミステリー・ドラマを最後までそこそこ楽しく見届けることができた。クライマックス・シーンは、それこぞ英語力とは関係なく確実に盛り上がれたし。
 とは言え、この日はこれで計3時間半も英語のドラマを観た訳で、さすがに頭も疲れてきた、そろそろ寝るとしようか、と思ったところで、「午後11時から、Spooks を放送します。シリーズ最終回、驚愕のラストをお見逃しなく」。
 観ましたよ、観ましたとも。シリーズ最終回で驚愕のラスト、とまで言われた日には、観ないで寝るなんてありえない。たとえこのスパイ・ドラマが、2008年10月18日付の更新履歴・裏ヴァージョンにも書いた通り、日本で日本語字幕付きで観ていた時でさえうっかりすると話を見失いかねないくらい、展開が早くてややこしいとしても、だ。
 そして、約1時間後。おいおいおい、ロシアの sleeper が activate されて portable nuclear weapon を持って Bond Street Station まで来ちゃったよ、Bond Street Station と言えば明日私が行くつもりの駅じゃないか、頼むよ何とかしてくれよ――と、手に汗を握って画面に釘付けになった挙げ句、あまりと言えばあまりの「驚愕のラスト」に、思わず「そ、そんなーーーーー!」とテレビに向かって叫んでいる自分がいた。
 我ながら、本当にお気楽な脳みそだと思う。
 


フォービドゥン・プラネット

 かつてアダムスがサイン会をしたことのある、ロンドンのSF専門店。トッテナム・コート・ロードに出たついでに立ち寄ってみる。2005年の映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』公開時に訪れた際には、ここでアーサーとマーヴィンの小さなフィギュアを購入したのだが、3年半が経過した今では『銀河ヒッチハイク・ガイド』関連のグッズはどこにもなかった。
 その代わり、というのもなんだが、3年半前には気付かなかった、地下フロアへと降りる階段を発見。「早々に立ち去った私が気付かなかっただけで、書籍専門の別フロアがあったのか」と、2005年の旅行記に書いた通り、書籍専門の別フロアはちゃんと地下にあったのだ。マニアなご要望にも対応いたしますといった風情の、見るからに気合いの入った書籍フロアが。
 残念ながら私はSFそのもののマニアではないので、特に探したいものはない。ないがしかし、書店に入った時の習慣として『銀河ヒッチハイク・ガイド』が置いてあるかどうかは確認する。勿論、アダムスの作品は全部きちんと揃っていた。よしよし。
 と、Adams の棚のそばに、Aldiss の作品が並んでいるのに気付く。ブライアン・W・オールディスを英語で読む気はさらさらないが、その中にオールディスが編者となっているベストSF短編集のような本を見つけた。奥付をみると、2007年に出版されたものらしい。
 アダムスにケチをつけまくりのオールディスが、一体どんな短編を選んでいるのだろう。と、軽い好奇心で目次をざっと眺めてみるも、私が知っているような作家や作品はない。SFに詳しくない私にとってはそのこと自体は「やっぱり」なのだが、問題はこの本にオールディス自身がつけた序文にあった。  

Although SF short stories are far too often ignored, there are by way of contradiction resounding successes still for writers such as Iain Banks, Terry Pratchett with his Discworld series, Philip Pullman with his Dark Materials, and J. K. Rowling's Harry Potter series. Not to mention an earlier - and by now tiresome - success The Hitchhiker's Guide to the Galaxy.

 敢えて "tiresome"(うんざり)の一語を付け加えずにはいられない辺り、オールディスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』に対する嫌悪感の強さが伺えるというもの。読んで思わず笑ってしまった。


ピカデリー・サーカスのウォーターストーンズ書店

 2008年10月に発売された、ラジオ・ドラマ『銀河ヒッチハイク・ガイド』第1シリーズ特別版CDを買いに、ピカデリー・サーカスのウォーターストーンズ書店に行く。本当は、同時に発売された第2シリーズともども発売前に Amazon.co.uk に予約して1ポンド約220円のレートで購入していたのだが、いざ現物が届いてみると、第1シリーズのほうのCDケースがひどく破損していたため返品したのだ(英語でちゃんと手続きできるかちょっと心配だったけれど、至ってスムーズであった。さすが、大手のサイトだけのことはある)。
 3年半前にスティーヴン・フライ朗読による小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』のオーディオCDを買ったのと同じフロア、同じ区画で、難なく目当てのCDを見つける。嬉しいことに小さいながら書店員のお手製っぽいポップが貼られていて、「好きなオーディオブック投票で1位を獲得」とか何とか書いている。いやはや実にめでたい。
 すっかり気を良くしたところで、階段を上がって4階に行き、映画/テレビ関係のコーナーへ。残念ながらここにはもう映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキング本は置かれていなかった。まあ仕方がない。でも、今回のウォーターストーンズ行きで狙っていた『ドクター・フー』関連の本なら揃っていた。
 と言っても、本気で関連本を漁りたいと思う程に『ドクター・フー』のファンになった覚えは私にはない。が、私の側にはなくても、『ドクター・フー』新シリーズの脚本家兼エグゼクティブ・プロデューサーのラッセル・T・デイヴィスのほうが『銀河ヒッチハイク・ガイド』のファンで、作品内でたびたび『銀河ヒッチハイク・ガイド』に言及しているとなれば放置しておく訳にはいかない。
 新シリーズの中で、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の何がどう取り上げられているかについては、分かっている範囲で2008年2月16日付で「『ドクター・フー』とダグラス・アダムス」のページに加筆・更新した。が、この時に追加した情報のうち、自分自身できっちり確認が取れていたのは「クリスマスの侵略」という作品についてだけであり、残りはネットで得た情報に頼っただけ。ネットの情報が信用できないという訳ではないが、私だって自分のサイトに間違った情報を載せてしまったことはある。公式サイトの類でさえ、ミスや誤報と無縁ではいられない。だからこそ、私としてはできる限りネットの情報を鵜呑みにせず、活字その他の媒体で裏を取りたいと思うのだが、日本にいてはそれがなかなか難しい(それっぽい本を片端からアマゾンで発注すればいいじゃん、と言われてしまえばそれまでだけど、現実問題としてそこまでするのはさすがの私もちょっと……)。
 という訳で、いざ立ち読み開始。いちいち全部買う必要なんてない、ネットで知った情報を裏付けできればそれでいい。そういう意味では私としてはまさに「この機を逃してなるものか」だが、冷静に一歩引いて自分の姿を眺めたならば、「ピカデリー・サーカスまで来て、何やってんだか」である。でも、そういうことを考えてはいけない。
 最初に手に取ったのは、Inside the Tardis というタイトルのペーパーバック。いわゆる普通の解説本で、この手の本は後ろに索引がついているから話が早い。早速チェックしてみると、アダムスが書いた『ドクター・フー』の脚本についてだけでなく、『銀河ヒッチハイク・ガイド』を引用している他の脚本家のエピソードについてまで、そこそこのページ数を割いて解説している。この本で初めて目にしたネタまである。ううむ、ここまで書かれていると分かったからには購入するしかあるまい。値段は13ポンド。つくづくポンド安のご時世で良かった。
 その後は何冊か空振りが続き、逆にほっとする。全部にいちいち『銀河ヒッチハイク・ガイド』が言及されていたら、私としてはたまったもんじゃない。
 そして最後に残ったのが、2005年に出版された Doctor Who: The Shooting Scripts 。ハードカバーでフルカラー、512ページ。立ち読みするのも難儀なくらい重い本だが、これこそまさに私が一番立ち読みしたい本でもあった。何しろネットの情報によると、この本の中でラッセル・T・デイヴィスは、第1シーズンの2話目に当たる「地球最後の日」のアイディアが「宇宙の果てのレストラン」を下敷きにしているとか何とか書いているらしいのだ。今、この場で立ち読みして、肝心の箇所、"inspired" だか "based on" だか知らないが、せいぜい1行か2行くらいの文章を我が目で確認できればしめたもの。そして、かくも重くて高い本を買わずに済ませられるなら、こんなに有難いことはない。
 果たして、ネットの情報は正しかった。この本の中でデイヴィスは、「宇宙の果てのレストラン」を意識して「地球最後の日」の脚本を書いたことを認めていた。それどころか、このエピソード全体を「故ダグラス・アダムスに捧げる」とまで書いていた。しかも、1行か2行くらいの文章で片付けることなく、延々と数十行にも亘って。
 ……ええ、買いましたよ、買いましたとも。2005年の出版ということは、恐らくは丸3年以上もの間、在庫として本棚に置かれたままになっていたような、そこらの『ドクター・フー』のファンですら敢えて買わないような超マニアックな本を、19ポンドも払ってロンドンで買って、スーツケースに詰めて日本に持ち帰りましたとも。それでも、該当のページ以外はまず読まないと思うけど。ふん。
 


DVD

 2005年に映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のサントラCDを買った、ピカデリー・サーカスのヴァージン・メガストアは、いつの間にか Zavvi という名前に変わっていた。CDやDVDを扱う大型店舗であることに変わりはないが、何となくヴァージンだった頃と比べてディスカウント・ストアっぽさが増した気がする。ピカデリー・サーカスという場所柄もあるのだろうけれど、とにかく人が多いのに加え、床や階段のそこかしこにアメリカのドラマのDVD-BOXが山のように積み上げられているため、店内をゆっくり歩き回ってDVDやCDを吟味する気分にはなれない。
 という訳で、同じくピカデリー・サーカス近辺にあるHMVに移動。2005年には、ここでM・J・シンプソンの解説本やら Time Out やらを買った、というよりも、ここで映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』のCDを買おうと目論んで果たせなかった、という意味で忘れ難い店である。こちらのHMVにも人はそこそこ入っていたけれど、それでも Zavvi の大混雑に比べればずっと静かでおとなしかったので、気を良くして店内を散策する。
 しかし、そもそも観光旅行中の会話もままならないような英語力の人間が、音楽CDならともかく、映画やドラマのDVDのコーナーをうろうろして一体何が楽しいのかと真顔で訊かれると、さて説明に困る。そりゃ日本にいてもネットで調べられないことはないけれど、日本未公開のままになっているスティーヴン・フライ監督の映画 Bright Young Things のDVDのジャケット裏をしげしげ読んだり、「キャサリン・テイト・ショウ」のDVDに印刷された "Producer: Geoffrey Perkins" の文字を見入ってしみじみしたり、あるいは Richard Dawkins Collection とかいうDVD-BOXを見つけて思わずのけぞったり(イギリスじゃテレビに出まくってるんですね、この方。知らなかったなあ)、そういうのがいちいち楽しいんです、と言ったところで、果たしてどれだけの人が納得してくれるだろうか。が、世間に納得してもらえようともらえなかろうと、私としては楽しいんだから仕方ない、ないったらない!
 で、店内をさんざんうろつき回った挙げ句、日本未公開の『ドクター・フー』第3・第4シリーズのDVD-BOX(私がチェックしたいのは '42''Voyage of the Damned' という2話だけなのに、前者は第3シリーズ、後者は第4シリーズ扱いだったのだ。嗚呼)に加え、やはりラッセル・T・デイヴィス脚本のテレビ・ドラマ、Second Coming のDVDまで買う。日本語字幕なしの Spooks まで観られたんだから、こんなのきっと楽勝さ、いざとなったら英語字幕は付いているんだし――と、買った当座はかなり強気だったのだが、無論、この時点の私は肝心なことを一つ見落としている。「何を言っているのかさっぱり分からない英語のテレビ・ドラマを、何の苦もなくだらだらと見続けることができる」のは、英語オンリーのロンドンにいるからこそであり、そんな特殊能力は日本語が通じる成田空港に到着した途端、跡形もなく霧散してしまうことを。
 また、私は全く気付いていなかった。何とも有難迷惑なことに、日本で発売された『ドクター・フー』のDVD−BOXと違って、本家イギリスのDVDには主演俳優や脚本家によるオーディオ・コメンタリーが付いていることを。そして、実際のドラマの台詞に比べてはるかにはるかに聞き取りにくいこのオーディオ・コメンタリーのための字幕までは、用意されていないことを……。
 


ヒースロー空港ターミナル3

 出国審査を終え、搭乗手続きが始まるまでの間に、まずは空港内の書店をチェックする。こういう場所でもいちいち『銀河ヒッチハイク・ガイド』が売られているかどうかを確認せずにいられないというのは、自分でももはや趣味とか習慣の枠を越えて強迫観念の域に近いような気もするがそれはさておき、2008年12月のヒースロー空港ターミナル3内の書店のSFコーナーでも、『銀河ヒッチハイク・ガイド』は無事見つかった。さすがはヒースロー空港、素晴らしい。
 おまけに、たまたまアルファベット順でそうなっただけにせよ、『銀河ヒッチハイク・ガイド』のペーパーバックのすぐ隣には、よりにもよってブライアン・W・オールディスによる例のSF短編アンソロジーが置かれていた。多分誰も気付いていないだろうけど、皮肉だ。

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