ロンドン映画観賞旅行記

 以下は、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を観るために、私が2005年4月30日から5月4日にかけて決行した、ロンドン3泊5日の旅の記録である(2008年に決行した、『銀河ヒッチハイク・ガイド』とはあまり関係ないがまったくないとも言い切れぬ、ロンドン6泊8日の旅の記録についてはこちらへ、また、2023年のロンドン7泊9日の旅の記録についてはこちらへ)。

 4月30日 土曜日
 5月1日 日曜日
 5月2日 月曜日
 5月3日 火曜日
 後日談 


4月30日 土曜日

 ヒースロー空港から移動して、ホテルの部屋に無事到着したのが午後5時前だった。
 8Fにある部屋の窓からは、ケンジントン・ガーデンズが見える。ケンジントン・ガーデンズ越しに、ロイヤル・アルバート・ホールの丸い屋根が見える。本当にロンドンに来たんだ、と思った。

印象的な丸屋根は、見間違いようがない。

 よく晴れていて、陽もまだ高い。で、早速出かけることにする。
 約12時間のフライトにもかかわらず、全然疲れていないしちっとも眠くない。が、興奮やら緊張やらで神経が立っているからそう感じるだけで、本当はどろどろに疲れているはずだと分かっている。だから、いつもなら明日以降のことを考えて初日からバタバタ動き回ったりしないのだけれど、今回に限ってはそんな悠長なことを言っていられない。
 何たって、ロンドン3泊5日である。3日目は、午前9時半くらいにホテルを出て午後1時にはヒースロー空港から離陸するため、実質的に動き回れるのは5月1日と5月2日の2日間だけだ。それでも、旅行代理店で申し込み手続きをした時は、今度の旅の目的はとにかく映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を観ることと、関連グッズや書籍等の買い物だけだから、日曜日の5月1日に映画を観て、月曜日の2日に買い物に専念すればいいと考えていた。万が一、日曜日の映画館が大混雑でチケットが買えなかったとしても、その場合は月曜日に観ればいい。いくら何でも平日昼間の映画館が満席になる程のことにはならないはず。
 その考えが甘かったことに気づいたのは、日本を出発する前々日のことだった。

 4月28日の夜。出発前の最後の確認のつもりで、インターネットで映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を上映する映画館を検索し、上映時間をチェックしてみた。するとなぜか5月2日の月曜日だけ、『銀河ヒッチハイク・ガイド』は上映されないことになっている。そして、「『スター・ウォーズ・サーガ』特別上映のチケットはすべて売り切れました」とか何とかいう説明が出ている。え、ってことは、月曜日に『銀河ヒッチハイク・ガイド』が上映すらされないなら、何が何でも日曜日に観なくちゃいけないということ?
 また、そうなると日曜はいつも以上に混雑する可能性が高いということにもなる。日曜日に確実に映画を観たいなら、今見ているこの映画館のサイトからチケットをネットで予約購入したほうがマシかもしれない。そりゃ、ロンドンには今私がチェックしている UCI Empire 以外にも『銀河ヒッチハイク・ガイド』を上映している映画館はあるし、そこでは当然月曜日もやっているだろうけれど、せっかくロンドンくんだりまで行って観るからには、『銀河ヒッチハイク・ガイド』のワールド・プレミアが行われたこの映画館に行きたいじゃないか。だとしたら、1ポンドの予約代金がもったいないなんてセコいことを考えている場合じゃない。それに、今とっとと予約してしまえば席が確定されるから、チケットを買うために早めに映画館に行く必要もなくなり、現地での時間の節約にもなる、とか何とか素早くソロバンを弾いて、5月1日午後3時10分からの回の予約を入れた。
 予約自体はあっけなく完了した。英語を読めても聞けない、話せないという典型的日本人英語学習者の私に、ネット文化は本当に有難い。が、予約が終わってから気が付いた。この映画館、指定席スタイルじゃない。予約完了を告げる文章をよく読むと、「必ず上映開始20分前までにお越しください」と書いてある……。
 この時点で、現地での時間節約のメリットは消えた。チケットは確約されたが、その代わり現地での行動スケジュールの自由度も減った。でもまあ、映画を観る日はどうせ日曜日だし、お店もお休みが多いだろうし、とにかくこの日は映画観賞だけに専念すればいいや、と気を取り直した後で、ふと一つの疑念が浮かんだ。
 どうして平日昼間の1日だけ、『スター・ウォーズ・サーガ』の特別上映なんかやるんだろう?
 ものすごくイヤな予感がした。恐る恐るガイドブックを開いて、祝日・記念日カレンダーを見た。5月2日(月)――「メーデー・バンク・ホリデー」って何!?
 さらにイヤな予感がした。ガイドブックのショッピング情報ページを開いた。最近のロンドンの店は日曜日も(営業時間が短いとは言え)開いているところが多くて助かる、と思っていたけれど、そういう店ですら「祝日は休み」とあるではないか。
 先にも書いた通り、今回の旅行で私が自由に動けるのは丸2日。が、1日目は日曜で、お店は一応開いているが、日曜の営業はたいてい午後12時から午後6時だ。かつ、午後3時からは映画の予約が入っている。2日目は祝日で、お店はことごとく閉まっている。つまり、私がロンドンで買い物ができる時間は、日曜日の午後12時からの2時間半だけってこと?
 ついでに、美術館・博物館の類も、日曜は開いていても祝日は閉まっているらしい。
 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 今さら日程が変更できるはずない。いや、たとえ5月2日が祝日だと前から分かっていたとしても、仕事の関係上、どのみち他の日程にする訳にはいかなかったから仕方がない。とりあえず、今の時点で気づいただけでも良かったじゃないか。
 とか何とか、再度どうにか気を取り直し、ネット検索を続けた。4月30日、ロンドンに到着したその日に、ホテルから歩いていける範囲内にある店を探して。徒歩圏なら、たとえどんなに疲れていても多分何とかなるはずだ……。

 という訳で、4月30日午後5時20分、私はベイズウォーター・ロードをノッティング・ヒル方向に向かって歩いていた。目指すは、ノッティング・ヒル・ゲート駅近くにある食料品店のマークス・アンド・スペンサーと、書店のウォーターストーンズ。
 買いたいものは決まっている。だから、店内をさくさくと歩き回って、買えるものは買ってとっととホテルに戻る。
 この日の収穫は以下の通り。

<ノッティング・ヒル・ゲートのマークス・アンド・スペンサーにて>

 ・アールグレイのティーパック
 ・リッチ・ティー・ビスケット

<ノッティング・ヒル・ゲートのウォーターストーンズにて>

 ・The Making of the Hithchiker's Guide to the Galaxy
 ・The Hithchiker's Guide to the Galaxy: Film Tie-In Edition
 ・The Hithchiker's Guide to the Galaxy: Special Collector's Limited Edition

 とにかく今回の旅で絶対に買って帰りたかった、マークス・アンド・スペンサー製アールグレイのティーパックと、ロビー・スタンプの解説付き『銀河ヒッチハイク・ガイド』のペーパーバックを初日に首尾よくゲットできて、ちょっと安心した。


5月1日 日曜日

 緊張やら興奮やらで熟睡できないまま、朝を迎える。それでも、緊張やら興奮やらで全然眠くない。
 普段の私は、ストレスで食欲が落ちることはあっても眠れなくなることは滅多にない。その滅多にないことが起こっているのだから、言い換えれば相当神経が立っているのだろう。本当に、何て小心者なんだか。
 カーテンを開けると、外はとても良い天気だった。とりあえず、ほっとする。
 それから、たいして食欲はないものの、ホテルの料金に含まれているからと朝食の出るレストランへ行った。出されたクロワッサンのあまりの不味さに一口で降参し、グレープフルーツをつつきながら紅茶を飲む。紅茶の味は、悪くなかった。
 早々にレストランを退出しようとして、入った時には目に入らなかったが、出入り口付近のテーブルに「ご自由にお取りください」と言わんばかりにその日の新聞が並べられているのに気が付いた。日曜日用の、ものすごく分厚い、イギリスの新聞。それも、「オブザーバー」と「サンデー・エクスプレス」の2種類。こ、これは、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』の批評が載っているかもしれん、と思い、2種類ともごっそりいただいて部屋に戻った。この時点で、私の中ではさっき食べたばかりのクロワッサンの不味さはすっかり帳消しになっている。
 部屋で早速新聞を広げてみると、思った通り、イギリスの日曜の新聞には映画や本の批評コーナーがたっぷり入っていた。そして当然のように、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』もカラー写真入りで大きく取り上げられている……が、見出しをちらっと眺めただけで、不吉な予感がして、それ以上読むのは止めた。読むのは映画を観た後でいい、これ以上余計な先入観を仕入れることはない。という訳で、シワにならないよう、それから部屋の掃除係に「読み終わった不要な新聞」と勘違いされて捨てられないよう、丁寧にスーツケースに片づける。
 午前9時半、ホテルを出た。地下鉄に乗って、トッテナム・コート・ロード駅へ。今回の旅の目的の中で唯一ダグラス・アダムスと関係のない、大英博物館へと向かう。
 午前中はショッピングしたくても書店もCD屋も開いていないから博物館へ行った、というのは半分正しくて半分間違っている。まず、トッテナム・コート・ロード駅を出て私がきょろきょろと探し回ったのは大英博物館への道ではなく、駅のすぐそばにあるはずのSF専門店、「フォービドゥン・プラネット」。アダムスが小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』が出た時にサイン会をしたという店である。日曜の営業時間が午後12時からなのはネットで既にチェック済みだが、それでも午前10時に店を探したのは、たとえ閉まっていたとしても店の外観を写真に撮れると思ったのと、あらかじめ店の場所をきっちり確認しておけば、いざとなったら映画が終わった後に駆け込むこともできると踏んだから。
 が、店が見つからない。以前自分がアダムス関連のロンドン地図を作った時に、店の住所をもとに詳細に「London A-Z」で確認してこの辺りと見当をつけたはずなのに、それらしきものはまったくない。4月28日の夜に営業時間を確認した際に、念のため店の住所を手帳に書き写しておいたので、そのストリート名でガイドブックから引きちぎってカバンに入れておいたロンドンの地図と照らし合わせてみると、私が思っていたところと、場所が微妙に違う。おかしい、私が地図を作った後に店は移転したのか、それとも単に私が間違えていたのか。ともあれ、住所から判断するとトッテナム・コート・ロード駅前というよりも、大英博物館とレスター・スクエアの中間地点に近い。
 ならば、まずは大英博物館に行くべし、と地図をカバンに片づける。大英博物館への最寄りの地下鉄はトッテナム・コート・ロード駅のはずだが、実際、大英博物館への道を指し示す標識も出ているが、人通りはとても少ない。他に行くところのない観光客で、さぞごった返しているだろうと思ったのに。
 が、博物館の入り口の門をくぐった途端、そこは世界中から集まった観光客がわさわさ歩いていた。そうか、大半の観光客は地下鉄ではなく観光バスでここまで来るのか。
 勿論、日本人もたくさん来ていた。あちこちで日本語が聞こえた。しかし、ここで私はまた他の大半の観光客と異なる行動を取ることになる。
 実は今回私が大英博物館へ来た目的は、博物館本体ではなく博物館手前のグレートコートにこそあった。そう、旧大英図書館の閲覧室。ミイラにもましてロゼッタストーンにもまして、私はこれが観たかったのだ。

 ミイラなら、初めてロンドンに来たときに観た。でも、その時は新しい大英図書館が建築される前だったから、研究者でもない一般観光客がここに入ることは許されていなかった。
 もともと私は、本がたくさんある場所が好きだ。たとえ読めない言語で書かれた本ばかりだとしても、巨大な書店や壮大な図書館を歩いているだけで幸せな気分になれる。ましてやそこが、かつて多くのイギリスの作家・思想家が実際に佇んだ大英図書館の閲覧室となれば、憧れは募る一方である。おまけに資格のある研究者以外は入れませんと言われた日には、ますます入りたくなるのが人情というものだ。
 だから、どんなに短い滞在期間であろうとここだけは外したくなかった。残念ながら、私のような観光客が手をのばせば届くようなところにある本棚の本は、最近刊行された博物学系の書籍がほとんどで、そういう意味ではいささか風情に欠けていたものの、ほとんどの観光客が入り口で写真を撮ったらそのまま引き返していく中で、私は一人、ぐるりと閲覧室を一回りしてみた。勿論、座席や机は撫でてみた。やっぱり来て良かった、と思った。
 博物館のショップでグレートコートの絵はがきとお土産用のTシャツを買ったら、踵を返してさっさと出る。少なくとも今の私には、大英博物館にもう未練はない。さて、次だ、次。
 大英博物館からレスター・スクエア方向へ、シャフツベリー・アヴェニューを進む。相変わらず人通りはまばら。私の手帳によれば、さっき発見し損ねたSF専門店「フォービドゥン・プラネット」はこの通りの179番地にあるらしいが……あった!

遠目にはシックな色遣いの店舗に見えないこともない

 観光スポットでもなければ風光明媚でもない場所で、一人でカメラのシャッターを切るのはちょっと勇気が要る。撮りたい対象が見るからにマニアックなカルトショップとあっては、なおさらである。人がほとんど歩いていない、日曜の午前中で却って良かった。

近づいてディスプレイを覗いてみると、紛れもなくカルトショップ

 店の扉に貼られた営業時間の貼り紙によれば、「日曜は12時から、メーデー・バンク・ホリデーは午前11時から開始」と書いてある。さすがはマニア御用達の店、祝日も開けてくれるとは! その営業努力に感謝し、必ず明日はここで買い物ィしようと誓う。
 ミュージカル『白衣の女』を上演しているパレス・シアターを横目に、チャリング・クロス・ロードを南下し、レスター・スクエアに着く。どこまでも小心者の私は、チケットを予約した映画館 UCI Empire の場所を事前に確認しておきたかったのだが、どんなバカでも気づくようなデカい看板が出ていて迷うまでもなかった。

 ほんの数日前にワールド・プレミアが行われたその場所に、今、私は立っている。そう思うと、頬が緩む。涙腺まで緩みかける。危ない危ない。
 慌てて視線を下に向けると、そこにはスターの手形が。へええ、ロンドンにもこういうのがあるとは知らなかった。

 ケイト・ウィンスレット、主演映画はたくさんあるのに、よりにもよって『ホーリー・スモーク』ですか。どの作品になるかは、本人が決めるというよりもその時のタイミングの問題なんだろうが気の毒に、などと勝手なことを考えながらピカデリー・サーカス方面に進む。
 時刻は午前11時半過ぎ、まだ大半の店は閉まっている。で、日曜でも午前中から開いている勤勉な店、ロンドン三越に入って、フォートナム・アンド・メイソンの紅茶を一缶買った。フォートナム・アンド・メイソンなら本店がすぐそばにあるのだから、わざわざ三越で買わなくても、などと言うなかれ。どこもかしこも閉まっている日曜の午前中に、清潔なトイレを無料で利用させていただいたからには、この程度のお返しはしなくてはいけない。
 そして12時になるとほぼ同時に、ピカデリー・サーカスにある「ヨーロッパ最大規模」の呼び声も高いウォーターストーンズ書店に入る。明日が祝日でさえなければ、ゆっくり見て回るところなのに、と嘆いていても始まらない。昨日ノッティング・ヒル・ゲートの店舗では手に入らなかった、出版されたばかりの『銀河ヒッチハイク・ガイド』のアンソロジーはどこよ?!
 ノッティング・ヒル・ゲートの店でも思ったことだが、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』の公開に合わせて出版されたばかりのロビー・スタンプの解説つきペーパーバックや映画のメイキング本は、小説はSF小説コーナー、映画メイキング本は映画コーナーと、それぞれ別の場所に置かれている。『銀河ヒッチハイク・ガイド』コーナー、という感じで関連書籍をまとめてディスプレイする、という発想はないらしい。自伝やら解説本やら朗読CDやら、さまざまな関連本を一箇所にまとめておけば、客は「へえ、こういうのも出ているんだ」と1冊でも余計に買ってくれそうなものなのに、まったく何て商売下手な、などとぼやきながら階段を駆け上がる(エレベーターは修理中だった)。が、アンソロジー本はアンソロジー・コーナーのどこにもない。あれってひょっとしてアメリカの本だったか、イギリスでは発売されていないのか? 
 あきらめて今度は朗読CDコーナーへ、さらに階段を駆け上がる。ああ、それにしてもCDコーナーなんてたいして広くもないのに、どうしてアダムス関連CDはあちらこちらにバラバラと置かれているのだろう。それでも、ようやく私が探していた、4月上旬に発売されたばかりのスティーヴン・フライ朗読版CDを見つけることができた。

 が、しかし、CD本体にも売り場の棚にも販売価格が書かれていない。ま、たとえ値段がいくらだろうと、コレクションの一環として私はどうせ買うんだから構うもんか、と開き直ってレジに行く。
 レジの女性は、私に差し出されたCDを受け取って、しばらくこねくりまわした挙げ句、やおら私に向かって口を開いた。
 「これの値段、いくらか知っている?」――多分、こういう意味のことを言ったのだと思う。私の英語力は、それほど怪しい。
 脊髄反射的に、私はこう答えていた。「I don't know」
 口にこそ出さなかったものの、レジの女性の目はこう語っていた。「っていうか、値段もわからないのに買うんだ?」
 ごもっとも。でも、その事情をあなたに釈明できるくらいの英語力が私にあるなら、そもそも会計の前にあなたにCDの値段を訊いていたよ。
 幸い、このとき別の係員が近くを通りかかり、価格を調べてくれたので事なきを得る。やれやれ、助かった。
 気を取り直して、次はウォーターストーンズから数軒離れたところにあるフォートナム・アンド・メイソン本店へ。入り口の貼り紙にメーデー・バンク・ホリデーの営業時間が書いてあるのに気づく。え、何、明日もやっているの? だったら明日、また来ればいいや。
 ピカデリー・サーカスそばの店でテイクアウトのサンドイッチを買ってから、いったんホテルに戻る。これは、今回の旅で私が立てていた計画の一環だった。時間のロスは考慮しても、買い物袋をいっぱいぶら下げた状態で映画館に行くのは避けたかったから。

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 慌ただしくサンドイッチを頬張った後、再びホテルを出たのが午後2時。地下鉄でピカデリー・サーカス駅へ行く。どうしてレスター・スクエア駅じゃないのかって? 映画館のある場所は、ピカデリー・サーカスとレスター・スクエアの中間地点にあるのでどちらから行ってもほとんど同じだし、また、ピカデリー・サーカス駅から映画館までの道すがらにちょうどHMVがあって、映画館に入るまでの時間調整がてらここで映画のサントラCDを買おうと思ったのだ。CD1枚くらいならカバンにも入る、たいして荷物にもならないはず。
 が、HMV店内に入った途端、その考えが甘かったことに気が付いた。店の入り口に、いきなり『銀河ヒッチハイク・ガイド』コーナーが出来ていて、2軒のウォーターストーンズにも置いていなかった本が並んでいる……。

 泣く泣く買う。何せ翌日の5月2日は「メーデー・バンク・ホリデー」、そういう意味で私に「また明日」という選択肢はないのだ。見つけたらその場で買うしかない。しかし、M・J・シンプソンの解説本の改訂版は5月中旬の発売じゃなかったのか? どうしてもう販売しているはずのアンソロジーはないのに、まだ発売していないはずの本が見つかったりするのだろう。
 ついでにヤケクソで、ロンドン版ぴあ、TimeOut もここで買う。どこででも売っているだろうと思っていたが意外に見つからなかったし、それにここでなら何冊か置かれている中で比較的きれいなものを選んで買える。

 せっかく映画公開第1週目にロンドンに来たのだから、いわゆる映画雑誌のようなものは片端から漁ってやろうと思っていたけれど、日本と違って欧米の書店では「雑誌」は店頭に並んでいないことが多い。雑誌は本ではなく、キオスクのようなスタンドやドラッグストアのような店で買うものとされているらしい。が、ミネラルウォーター等を買うのにコンビニのような店に入っても、そこにあるのは新聞や女性誌やポルノ雑誌くらいで肩すかしもいいところだった。かくなる上はせめてロンドン版「ぴあ」こと TimeOut だけは確保しておかねば。
 が、そのコーナーには何故か一番肝心の映画のサントラCDは置いていない。書籍とCDは何が何でも分けたいのか、でもレジは一箇所だぞ、分けて置く意味なんてないぞ、やっぱり単なる商売下手なんじゃないかと頭の中でぶつぶつ文句を言いながら、サントラコーナーへ向かうも、そこにも『銀河ヒッチハイク・ガイド』のサントラCDはなかった。
 まさか売り切れ?
 念のため、売り上げランキング順にCDがディスプレイされているコーナーにも行ってみる。当たり前だが『銀河ヒッチハイク・ガイド』は影も形もない。売り切れじゃなくて、本当に単に売っていないだけのようだ。ロンドンでワールド・プレミアをしたくせに、その映画館からもっとも近い大手CDショップでサントラCDすら売ってないってどういうことよ?!
 種々の憤りを噛み殺しつつ、レジでカード払いをする。目当てのものは手に入らなかったのに、手渡されたショッピングバッグはそれなりにずしりと重い。何のために、時間のロスを覚悟でいったんホテルに戻ったんだかわかりゃしない。
 HMVを出て、5月初旬のロンドンとは思えない強い日差しに怯む。東京よりずっと暑い。にわか雨よけのつもりで羽織っていた薄手のコートを脱ぎ、手に持つ。そして、映画館手前の土産物屋でミネラルウォーターのペットボトルを買う。日本のコンビニで見かけるような、350ミリリットル入り、なんてかわいらしい代物は望むべくもない。500ミリリットルでも、どうせ夜までには飲むのだから構わないのだけれど、カバン一つで身軽に映画館、という当初の計画はどこへやら、気が付けば重くてかさばる手荷物によろめいている。
 映画上映開始の30分前、午後2時40分に映画館に入る。チケット売り場には、ただの一人も並んでいない。哀しいくらい、がらんとしている。精一杯の作り笑いと共に「Hello」と言い、チケット予約確認のメールをプリントアウトした紙とクレジットカードを出す。1ポンドも余計に支払ってネット予約した客なんて私一人くらいしかいないんじゃないの、と思いながら。

 奥に進んで1番の劇場で云々、と説明されながら、チケットを受け取る。劇場入り口に切符もぎの係員がいて、私の半券を切りながら、奥に進んで1番の劇場で云々、と説明をする。分かったような分からないような、でもあまり気にしない。映画館に入ってしまえば、そこは私にはお馴染みの場所だから。
 UCI Empire には、3つのスクリーンがある。1つは、これから『銀河ヒッチハイク・ガイド』が上映される客席数1330席の大ホール、残る2つは353席、77席の小さいホールで、劇場入り口そばにおまけのようにくっついている。3つのホールに対して、ロビーは1箇所。スナックやドリンクを売る売店はあるが、関連グッズやパンフレットのようなものは一切売っていない。ひょっとしたらここでサントラCD等が買えるかも、と思って敢えて現金を残していたのだが、商売下手はいずこも同じだった。
 私が入った時、ロビーの客はまばらで、座って待てるソファ席も空いていた。迷わずどっかと腰を下ろす。そして、ソファ後部の棚に、宣伝チラシのような冊子が置いてあるのに気づいた。

 こ、これは、無料なんですよね、今ロビーにいる人たちは手に取ろうとしていないけれど、勝手に貰っていっていいものなんですよね?!
 心の中で大音量でそう叫んでから、ゲットする。中を覗いてみるとさすがはイギリス、無料の宣伝チラシなのに書かれている内容の濃さときたら、ヘタな日本のパンフレットの比ではない。作品紹介やキャスト・スタッフへのインタビューにとどまらず、アダムスに関するトリビアには、私が知らないことまで書いてある。あああ、思いもかけずこんなものが手に入っただけでも、ロンドンくんだりまで飛行機に乗ってやって来た甲斐があったというものよ。
 私が一人で陶然としている間にも、少しずつロビーに人は集まり始めていた。年齢層は意外に高い。「SFアクションコメディ」という触れ込みの映画に対して一番に想定されるであろう客層は10代から20代だと思うのだけれど、ここにいるのはほとんどが30代か40代。私と同様、あらかじめ『銀河ヒッチハイク・ガイド』を知っている人たち、という訳だ。また、男女のカップルよりも同性の友人同士の姿のほうが目についた。
 それでも、1000席以上の劇場にしては客の数は少なすぎる。上映開始20分前になったら開けられるとおぼしき扉がある一番奥の入り口付近には、何となく人が集まり始めたけれど、私は敢えて快適なソファから立ち上がらなかった。この程度の混雑なら、慌てなくても十分良い席は確保できる。それより今は、重い手荷物を持って並ぶほうがイヤだ。
 ようようその扉が開いて、ぞろぞろと中に入る。劇場は、広くて明るくてキレイ。背の高い外人仕様なのか、劇場の後ろ半分は結構な急勾配でもある。座席は赤、ただし椅子の背もたれは肩胛骨あたりまで。まあ、私が日頃通い慣れているシネコンの、頭まですっぽり覆ってしまうような背もたれの椅子は、日本でも昔からある都心の映画館ではまだ主流ではないが。
 劇場内は、やはりガラガラ。公開第1週目の日曜日に、ロンドン中心部の映画館でこの有様ということは、興行的に大コケってことなんじゃないかと不安が募る。不安と共に、緊張も募る。興行的に失敗な上、作品としても最低だったらどうしよう。
 どうしようも何も、私は単なる部外者である。作家の身内でもなければ製作者でもなければ配給会社の社員でもなければ映画ライターですらない。興行収入がどうなろうと、作品の出来が悪かろうと、私が気を揉むいわれはない。それどころか、まるで我が事であるかのように神経を尖らせるほうが間違っている、あるいは病んでいる。と、頭では分かっている。でも、上映時間が近づくにつれて緊張感は高まるばかり、劇場内が暗くなる頃には半ば気分が悪くなっていた。
 イギリスの映画館でも、日本同様、映画上映の前にCMが流れる。まずはいわゆる企業のCM、これが意外に多くて長かった。みんなもそれに慣れているのか、このCMの時間中にどんどん人が入ってくる。上映前から席に着いている人より、上映時間が過ぎてから入ってくる人のほうが多いくらい。おかげで、劇場内はいつの間にか7割程度の入りになっており、少しほっとした。
 続いて、いわゆる普通の映画の予告CMが始まる。え、アードマンの新作って、え、え、え、あの『ウォレスとグルミット』の新作長編映画が2005年秋公開だって、うわあ全然知らなかった、嬉しいぞ、という気持ちに嘘偽りはないのだが、これから始まる『銀河ヒッチハイク・ガイド』のことで気が気じゃなくて、せっかくのCMなのに集中して観ることができなかった。今にして思えば、勿体ないことをしたものだ。
 『ウォレスとグルミット』の次は、『スター・ウォーズ エピソード3』と『宇宙戦争』。『銀河ヒッチハイク・ガイド』の前に、こんな大作感溢れる映像を流してくれなくてもいいのに、とちょっと思う。
 予告CMが終わると、予告と本編はきっちり分けて上映する、というスタンスの現れなのだろう、いったん劇場内の照明が戻って明るくなる。勿論、すぐさままた暗くなって、ついに本編の上映が始まった。

 ……映画の内容については、ネタバレを避けるために詳しいことを書くのは避ける。そもそも、日本語字幕なしで観た私が本当にきちんと理解できたかどうかも怪しいし。
 それでも、害のない程度に感想を書くと、

1・映画のオープニングにイルカが出てくることは知っていた。でも、まさかこういう形で、こういう音楽で来るとは想像だにしなかった。意表を突かれつつも、「よっしゃ、この監督は分かっている」と思った。

2・予想通り、キャスティングは完璧。全員、申し分なし。スティーヴン・フライのナレーションも、少なくとも私の耳には違和感はまったくなかった。

3・映像は全編とてもキュートでラブリー。特に、毛糸玉のシーンは反則なまでに可愛い。さすがにヴォゴン人だけはキュートでもラブリーでもなかったが、それでもシーンによってはラブリーに見えるから凄い。

4・ストーリーは、ラジオ・ドラマや小説の原型から少しばかりアレンジされている。このアレンジが、どの程度アダムス自身が手掛けたものなのか、アダムスの死後に付け加えられたものなのかは不明だけど、私はこれはこれで是とする。というのも、この変更は脚本家や監督が原作を手前勝手にいじくり回した結果というよりも、イルカをオープニングに配したのと同じ、別種の意図が感じられたから。

5・シャイノーラが手掛けたアニメーションは、シンプルだけど本当によく出来ている。映画が終わってエンドクレジットが始まってもまだお楽しみはまだ残っているので、席を立ってはいけません。

6・観客の反応は、爆笑というよりくすくす笑い。私と一緒にこの映画を観ていた人のほとんどは基本的なストーリーは知っていただろうから、今さら思いがけない展開に虚を突かれて爆笑することはないというのもあるだろうが、映画自体、コメディはコメディでも笑いを強要するようなどぎつさがない。その辺りも私は好感を持った。

 映画が終わって、外を出る。午後5時半。よく晴れていて、まだ日が高い。
 その瞬間、思い切ってロンドンに来て本当に良かった、と思った。
 今回の旅は、さんざん迷った末に決めた。3泊5日を強行して持病の腰痛で身動きがとれなくなったらとか、悪天候で体調を崩したらとか、トラブルが重なって結局映画が観られなかったらとか、あるいは観ないほうが良かったと思うような出来だったらとか、そもそもこんな旅をすること自体正気の沙汰じゃないのではとか、不安要因を挙げればキリがなかった。しないで後悔するよりはして後悔するほうがマシ、と何度自分に言い聞かせても、旅行代理店への支払い金額の高さにやっぱり心は怯んだ。
 が、今こうして、好天のロンドンで、映画を観終えて、出来映えにも心から満足して、レスター・スクエアに立っている。誰が何と言おうと、映画一本観るために大枚をはたいて12時間も飛行機に乗った甲斐はあった、と胸を張って言える喜び。単なる自己満足と言われればそれまでだが、この時こみ上げてきた幸福感は、少なくとも私にとっては他に代え難いものがある。
 ふわふわと宙を歩くような足取りで、まだ頭の中で繰り返し流れている映画のサントラ音楽のCDを探しに、ピカデリー・サーカス方面へ向かう。HMVにはなかったけれど、ヴァージン・メガストアにはあるかもしれない。私が買った2004年9月発売のガイドブックの地図によるとそこにはタワーレコードがあるはずなのだが、いつの間に替わったのやら。
 ともあれ、ピカデリー・サーカスのもっとも目立つ場所にあるヴァージン・レコードのサントラ・コーナーでは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』のCDは平積みにされていた。

 裏面の曲目リストをみると、30曲目が NEIL HANNON "SO LONG & THANKS FOR ALL THE FISH" となっている。さっき、映画のエンドクレジットを見た時に「おっ」と思ったんだが、やっぱりそうだったか。しかし、いつの間にかニール・ハノンという固有名詞にまで反応するように私って、確かにあんまりマトモじゃない(注・映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を担当したジョビー・タルボットは、ニール・ハノン率いるバンド、ディヴァイン・コメディの音楽に参加している)。
 CDの代金を払うと、ちょうど午後6時。日曜日のショッピング・タイムは終了、ということでホテルに戻るが、途中のコンビニでオレンジジュースと一緒に、まだ売れ残っていた新聞、The Sunday Times も買う。これにもきっと、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』評は出ているはず。実際に自分の目で映画を観てすっかり気に入ったからには、どんな辛口の批評が載せられていてももう怖くない――というのはウソ、やっぱり貶されていれば胸が痛む。でも、ここまで来たからには、手に入るものは手に入れねばなるまい。


5月2日 月曜日

 泥のように眠って、午前6時半に目が覚めた。
 カーテンを開けて窓の外を見れば、この日も晴れ。ただ、明け方に雨が降ったのか、アスファルトの地面は濡れている。
 前日までの緊張状態から打って変わって、すっかり気が抜けている。外国に一人でいることに慣れてきたというものあるし、今回の旅で是が非でも果たさねばと思っていたことはほとんど昨日で片がついたというのもある。それに今日はメーデー・バンク・ホリデー、慌てたところでどこもかしこも閉まっていてどうせ何もできはしない。
 とりあえず、テレビを付ける。BBCの朝のニュース番組。天気予報によれば、今日のロンドンの天気も良いらしい。それは結構、と思いながら見るともなしに見ていたら、突然生放送のゲストとしてサー・リドリー・スコットが出てきた。そうか、今週末から『キングダム・オブ・ヘブン』の公開が始まるからその宣伝か。
 何を言っているのかはよく分からないものの、せっかくだからとスコット監督の出番が終わるまでテレビを見続けた(最近の作品はあまり好みではないけれど、『ブレードランナー』は手放しに好き)後、美味しくないのは承知の上で、それでもホテルの料金に含まれているからと朝食の出るレストランへ行く。しかし、緊張が解けてようやく空腹らしい空腹を感じるようになったせいか、同じクロワッサンも昨日ほどには新鮮な不味さを感じなかった。それとも、単にイギリス的不味さに慣れただけか?
 レストランの出口には、この日も新聞の朝刊が並んでいた。今日の新聞に映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』の批評が掲載されている可能性は限りなくゼロだから本当は貰う必要はないのだが、テレビ欄をチェックしようと思い、「デイリー・エクスプレス」を1部取る。
 チェックインしてこのかた、ホテルの部屋にいる間は一応テレビを付けていた。が、日本と比べてただでさえ放送局が少ないのに、その少ない放送局もアメリカのテレビドラマの再放送とかビリヤードの試合中継みたいなもの(後にスヌーカーの世界選手権と判明)ばっかりやっている。で、しようがないからBBCのニュース番組を垂れ流していた。それでも、昨日まではテレビなんか観ている余裕はなかったからいいが、今日は午前11時過ぎに「フォービドュン・プラネット」に行くまでまだ時間がある。ひょっとしたら、祝日なんだから少しは興味深い番組を放送してくれるかもしれない、と、ホテルの部屋に戻って、軽い気持ちで新聞のテレビ欄を開く。開いて――目が飛び出した。

 ロンドンに着いてから既に何度目になるのか分からないが、やっぱり来て良かったと心から思った瞬間。
 3泊5日の強行スケジュールなのに、祝日だからという理由でどうにもすることがない今日のこの日のこの時間に、よりにもよって映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』の特番が放送してくれるなんて、チャンネル4の番組編成担当のみなさま、本当にどうもありがとう。また、たとえ放送されていたとしても、他のチャンネルでそんな番組を放送していることに全然気づかずにBBCのニュース番組をぼーーっと観ていた可能性だってあったのに、ロンドンに着いて初めて新聞のテレビ欄をチェックして気付くとは、私はどこまで幸運なんだろう。
 実際の番組は、ホスト役の若い男性がロンドンの街中でヒッチハイクしているところから始まった。段ボールに書かれた行き先は、勿論「Galaxy」。止まった車から出てきたのは、アーサー・デント役のマーティン・フリーマンだった。
 引き続き、宇宙船もどきなセットの中で、主要キャストや監督が順番に登場し、ホストのインタビューに答えていく。映画の映像も随所に挿入される。
 普段の私は、この手の宣伝番組で流れる映画のショットは、これから観ようと期待している映画であればある程、目をそむけて極力観ないようにしている。先にハイライト映像をさんざん見せられてしまうと、肝心の映画を観た時に何だか予告編映像の寄せ集めのように思えてしまうからだ。だからもしこの特番の放送が昨日で、昨日の朝にこの番組の存在に気付いたとしたら、それを無視して買い物に出かけることはできないし、かと言って午後から映画そのものを観るというのにその直前にハイライト映像をまじまじと観ることもできなくて、ものすごくストレスが溜まったに違いない。でも、既に昨日のうちに本編を観てしまった5月2日の私は、そうそうこんな場面もあったなあと振り返りながら舐めるように観ることができる。
 そしてこの番組が終わる頃には、私の心は決まっていた。今日の午後、もう一度映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を観に行ってやる。
 だがその前にまず、午前中の買い物を済ませなくてはいけない。
 という訳で、午前10時半、ホテルを出る。出て、まずはチャリング・クロスへ。「フォービドュン・プラネット」が開くまでの時間潰しがてら、セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ教会へ行く。

 言うまでもなく、2001年9月17日にアダムスの追悼式が開かれた教会である。そんなに有名な観光スポットではないと思っていたが、それでも入り口に日本語のガイドツアーが置かれていた。

 中に入ってみると、意外なくらいに壮麗な装飾が随所に施された、とても由緒ありそうな佇まいの教会だった。あ、いや、一観光客として眺めている分には結構な建築物だが、他ならぬこの場所で生前は無神論を標榜していたアダムスを追悼したのかと思うと、無神論に片足をつっこんだ異教徒には奇妙な感じがする。でもキリスト教のみなさまにとっては、こういうところが普段の普通の追悼場所だから、違和感はあまりないのだろう、きっと。
 などとくだらないことを考えながら、教会を出てチャリング・クロス・ロードを北上する。さすがはメーデー・バンク・ホリデー、カフェ以外の店は片端から全部閉まっていて、寄り道するところもない。既にすっかりお馴染みになった道のりをすたすた歩いて「フォービドュン・プラネット」に着いたのが、午前11時半だった。
 人が多い。この店の他はどこも閉まっているというのに、やけに人が集まっている。店はもう開いているというのに、店の入り口やらウィンドウ前やらに立っている人もいる。しかも、誰も彼もがこの店にふさわしい独特の雰囲気を漂わせている。
 店が閉まっていた昨日のうちに写真を撮っておいて良かった、と思いながら店内に入る。そんなに広くない店内に、『スター・ウォーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』や『マトリックス』といった映画のフィギュアが、作品ごとのコーナーに分かれて並んでいる。おかげで、『銀河ヒッチハイク・ガイド』関連グッズもすぐ見つかった。

 私の目当てはマーヴィンのみ。マーヴィン以外のフィギュアに用はないのだが、マーヴィンだけは何故か単品で販売されておらず、アーサーもしくはヴォゴン人と抱き合わせになっている。本当は、もう一回り大きいマーヴィンが単品で販売されているはずなのだが、それは店では売っていなかった。残念。
 店内は、至るところフィギュアだらけ。アダムスがサイン会をしたというくらいだから、フィギュアを扱っていたとしてもあくまでSF関連の書籍が中心なのかと思っていたが、若干のアメコミ雑誌と日本のマンガの英訳版を除けば、本らしい本はほとんどない。『銀河ヒッチハイク・ガイド』コーナーにロビー・スタンプのメイキング本は置いてあったが、せいぜいその程度である。営業方針が変わったのか、それとも早々に立ち去った私が気付かなかっただけで、書籍専門の別フロアがあったのか。
 店を出ると来た道を引き返して、昨日見た貼り紙によれば本日も営業しているはずのフォートナム・アンド・メイソンへ向かう。レスター・スクエアまで来ると、昨日の映画館 UCI Empire が見えてきた。映画館の建物の上部に、中世っぽい旗がはためいている。おや、昨日もあんな旗はあったっけ?  さらに近づくと、昨日はあんなに大きく掲げられていた『銀河ヒッチハイク・ガイド』の看板が跡形もないことに気が付く。代わりに、中世っぽい装飾の布が取り付けられようとしている。また、映画館前の歩道にはロープまで張られていて、そこには熱心なファンとおぼしき人々が席取りをしている。

 ああそうか、今日はこれからここで『キングダム・オブ・ヘブン』のワールド・プレミアが行われるのか。だから今日は朝っぱらから監督がテレビに生出演していたのか。ということは、まだ人もまばらな今からここで粘っていれば、至近距離で主演のオーランド・ブルームに会えるのか――と、5秒間だけ迷ってからその場を去る。大体、ワールド・プレミアが何時から始まるかも分からないし(あ、いや、多分朝のテレビ放送で言っていたんだろうけれど、プレミアをやるってことさえ聴き取れていなかったくらいだから、話にならん)。
 しかし、5月2日に UCI Empire で映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を上映しないのは、『スター・ウォーズ』シリーズ特別上映のせいではなかったのは確かだ。私は本当に情報の詰めが甘いよな。まあいいんだけど。
 気を取り直し、当初の目的場所、フォートナム・アンド・メイソンに到着する。当初の目的通り、紅茶やビスケットをドカ買いする。ついでに、こんなものも見つけて買った。

 美味しいのかな?
 買うだけ買ったら、ホテルに戻るべく地下鉄ピカデリー・サーカス駅へ。通りすがりにある書店のウォーターストーンズも祝日のくせに普通に営業していて思わず我が目を疑ったが、一応昨日一通り店内を駆け回ったことだし買い物袋も重いしで素通りした。

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 午後2時半過ぎ、ホテルを出る。
 目指すは、ホテルから徒歩で行けるショッピング・センターの中にあるシネコン、UCI Whiteleys。昨日の映画館、UCI Empire と同じUCI 系列である。Whiteleys がショッピング・センターの名前なのは言わずもがなだ。UCI Empire が繁華街の大劇場だったから、今度はこういうところで観ると客層や雰囲気が違っておもしろいかもしれないと考えてそこに決めた。
 とは言え、実はこのシネコンのことは、ロンドンに出発する前にチェックしていた。万が一、ロンドンに着いてから地下鉄に乗る元気もないほどに体調が悪かったとしても、地図で見る限りここならホテルから10分かそこらで歩いて行けると踏んだのだ。ショッピング・センターも比較的最近になって出来たところのようだから、中に入っているこの映画館もそれなりの設備を整えているだろうし。
 ベイズウォーター・ロードからクイーンズ・ウェイに入る。このエリアには近年さまざまな国からの移民が暮らしており、エスニック料理の店が軒を連ねている云々とガイドブックで読んではいたが、人種も何もとにかく人通りの多さに驚いた。歩道を行き交う人の波は日曜祝日の横浜中華街と変わらない混雑ぶりで、私がこれまで何となく抱いていた、「店はどこも閉まっていて道行く人も少ない閑散としたヨーロッパの祝日」のイメージがガラガラと崩れていく。

 当然、ショッピング・センターの中も人・人・人。祝日だったら、映画館以外のショッピング・センター部分は閉まっているのではと一瞬でも恐れた私がバカだった。白状すると、ロンドン出発前の4月28日の夜、今日5月2日がメーデー・バンク・ホリデーの祝日と知った時は、駅構内のキオスクにでも行かなければミネラルウォーター1本買えないんじゃないかとまで思い詰めたというのに。
 ショッピング・センター内をぐるりと回った後、3Fにあるシネコンの受付へ。ショッピング・センターの中も外もあんなに人で一杯なのに、ここだけは閑散としている。

  

 チケットは、勿論、難なく買えた。こちらもやはり指定席システムではないらしい。
 イギリスでは、上映する作品が同じでも映画館ごとに自由にチケットの価格が設定される。また、同じ映画館でも上映時間や日にちによって値段の差があったりする。それにしても、UCI Whiteleys のチケットカウンターで5ポンド75セントと言われた時は私の聞き間違えかと思った。何と、昨日の約半額とは。今日もれっきとした祝日なのに。
 ちなみに、UCI Whiteleys は計8スクリーンのシネコンで、2フロア構造になっている。その中で、『銀河ヒッチハイク・ガイド』を上映しているスクリーン1はチケットカウンターを入って奥の階段を上がった2階エリアにあった。
 スクリーン1は、8スクリーンの中でもっとも座席数の多い333席。が、そのスクリーン1そばのロビーも、やはり閑散としている。また、昨日 UCI Empire で見つけた宣伝チラシの類は置かれていない。ここらへんのサービスの違いが、チケット代の差なのか? 
 上映時間が近づいて、何となくスクリーン1に入っていく人の流れに混ざって私も入る。中は、たいして広くないしスクリーンもそんなに大きくない。300席強だからそれも当然なのだけれど、私が日頃愛用している地元のシネコンにある300席程度のホールと比べても、何と言うか「劇場」っぽさに欠けるのだ。つくづく、たとえ予約代金1ポンドを余分に支払っても、昨日 UCI Empire に行っておいて良かったと思った。
 その一方で、ショッピング・センター内のシネコンは予想通りレスター・スクエアの大劇場とは客層がまるで違っていて興味深かった。昨日の年齢層の高さに比べて、こちらは小・中学生の子供を連れたお父さんの姿が目立つ。ティーンエイジャーの若者も多い。なるほど、別に映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』が30代以上にしかアピールしない作品という訳ではなくて、ティーンエイジャーや家族連れだったら5ポンド余計に払ってまでお高い大劇場に行ったりしないというだけのことだったのか。
 ただ、客の半数近くは劇場内が暗くなって予告CMをやっている時間になってからぞろぞろ入ってくるという点だけは昨日と同じだった。が、長々と続く企業CMがようやく終わって、さて、昨日は緊張しすぎてじっくり観られなかった『ウォレスとグルミット』の新作長編映画の予告映像を今日こそは堪能させてもらうぞ、と思ったのに、『ウォレスとグルミット』どころか『スター・ウォーズ エピソード3』も『宇宙戦争』もなく、代わりに私にとってはどうでもいいドタバタコメディもどきの予告ばかりが流れるのには閉口した。同じ系列の映画館で、同じ映画の前に流す予告がどうしてこんなに違うんだ、ジェニファー・ロペスの『ウェディング宣言』なんかどうでもいいから『ウォレスとグルミット』を出せ!という私の心の叫びも空しく、やがて『銀河ヒッチハイク・ガイド』の本編が始まった。

 映画の感想については既に書いた通りで、2回観ても特に違いはないのだが、初めて観た時にはどうしても違和感のあったマーヴィンの声も、2度目となるとだいぶ慣れて、慣れてしまえばさすがはアラン・リックマン、やっぱり巧いと思った。
 それから、初めて観た時に比べれば少しは聴き取れる台詞が増えて嬉しかった。それでも依然としてストーリー展開で把握し損ねているところは残っているので、細部はこの秋、日本語字幕付きを観て確認させてもらおう。
 UCI Whiteleys での客席の反応は昨日と似たりよったりだったが、私が座っている席から2つの空席をおいて隣に座っていた子供連れの父親だけは一人でやたらと爆笑していた。あまりに楽しそうに笑っていたので、エンドクレジットが始まって、もし彼が最後まで見届けずにさっさと私の前を通って劇場を出ていこうとしたら、その時は「シャイノーラのアニメーションがまだ残っているから出ないほうがいいよ」と声をかけてあげたほうが親切なのか、それとも単なる不審者扱いされるのがオチだから止めておいたほうがいいのか――とぐずぐず悩んでいるうちに、ふと気が付くと彼ら親子は私が座っているのと反対側から外に出てしまっていた。あーあ、もったいないことを。
 エンドクレジットが終わって劇場内が明るくなった時、まだ席に着いていたのは私を含めてほんの数人だった。そりゃ日本でも席を立つ人はいるけれど、ロンドンではエンドクレジットと同時に外に出るほうが普通なんだろうか、いや、普通なんだと思いたい、映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』だけがこの有様だとしたら哀しすぎる。
 もっとも、だからと言ってそれを確認するためだけに引き続き別の映画も観るほどの根性はないので、おとなしく映画館を後にした。が、チケットを買った時には気付かなかったが、出る時になってチケットカウンターのそばに広告用ポストカードが並んでいるのに気が付いた。

 ラッキー!
 ほくほく気分でホテルに戻ると、時刻は午後6時半。まだ日は高い。ホテルの部屋の窓から見下すケンジントン・ガーデンズではまだまだ多くの人たちが行き交い、芝生に寝転がっている。
 その光景を見るともなしに見ていてふと思った。私のロンドンの旅はこれでもう終わったも同然だが、こんなに公園近くのホテルに宿泊していて、しかもこんなに良い天気続きだったのに、私はただの1歩もケンジントン・ガーデンズに足を踏み入れていない。寸暇を惜しんで歩き回ったようでいて、ロンドンのごくごく狭いエリアをうろうろしていただけ、考えてみれば今回の旅ではテムズ川さえ目にしていない。
 テムズ川はともかくとして、せっかくだからケンジントン・ガーデンズくらい散歩しておこうと思い立った。何たってホテルの目の前にあるんだから、最後の旅の思い出に20分ばかり歩くのも悪くない。この私とて、『銀河ヒッチハイク・ガイド』以外のロンドンにも関心はあるのだ(あまり説得力がないけれど)。

 最後に観光客らしいスポットへ。

 しかし、疲れすぎない20分程度の散歩でとどめるつもりが、つい「せっかくここまで来たんだから、サーペンタイン池を見てから帰ろう」と思ったのが間違いのもと、結局1時間半以上も公園内を歩く羽目になり、ようようホテルにたどり着いた頃にはくたびれ果てていた。


5月3日 火曜日

 この日は飛行機に乗って日本に帰っただけ。だから書くことはほとんどないのだが――

 ヒースロー空港に着き、ヴァージン・アトランティック航空用カウンターで搭乗手続きをしていた時のこと。
 空港内はガラガラで、普通の搭乗カウンターではなく、「DIY」つまり 'Do It Yourself' という、自分で搭乗手続きをするタイプのカウンターしか開いていない。でもやり方が全然わからない私は、その場にいた係員に航空券とパスポートを渡して最初から最後まで全部やってもらったのだが、私の隣では見知らぬ外国人が正しく「DIY」で手続きをしていた。
 本来はああやって自力でやるものなんだろうなあ、と思いながら横目で見ている完全係員任せの私を尻目に、一足先に手続きを終えた彼は、床に置いていた自分の手荷物を持ち上げた。と、その手荷物の下から、見間違いようもない、アーサー・デントとマーヴィンの写真が表紙になっている Sight & Sound とかいう雑誌が現れた!
 う、うわあああああ、その雑誌、一体どこで買ったんですかっ、もう既にかなりよれよれになってますけど読み終わったらそのままゴミ箱につっこむおつもりなんですかっ、捨てるくらいならどうか私にくださいよおおーーーーーーー、という私の心の叫びが相手に届くはずもなく、手続きを終えた彼は雑誌を拾い上げて去っていき、私は私のために搭乗手続きを代行してくれている係員の横でおとなしく立っているしかなかった。
 この旅の唯一の心残りは、新聞は手に入ったけれど映画雑誌の類がまるで買えなかったこと。それでも、あの Sight & Sound さえ目の当たりにしなければ、「イギリスにそういう雑誌は存在しなかったのだ」と勝手に思い込むことだってできたのに、見てしまった今となってはそれも不可能、かくなる上は最後のチャンス、空港内の書店を目を皿のようにしてチェックしてやる、とにわかに鼻息を荒くする。
 が、やっぱりない。空港内の雑誌スタンドというスタンドを血眼になって探し回っても、ないったらない。唯一見つかった映画雑誌らしい雑誌 Empire は「1冊まるごと『スター・ウォーズ』特集!」と銘打たれている有様。どうにもならん。
 最後の最後の土壇場になってものすごく後ろ髪を引かれる気分のまま、午後1時、私を乗せた飛行機は離陸した。せめてもの気分転換に、機内の小さなスクリーンでジェイ・ローチ監督の新作『ミート・ザ・フォッカーズ』を観てみたら、これがとてつもなくつまらないわ下品だわで、アメリカではこんなのが3億ドル以上の興行収入を上げる大ヒットになったそうだけれど、つくづく彼が映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』を監督しないでくれて良かったと思った、というのはここだけの話。


後日談 

 日本に戻ってから気が付いた、あるいは見付けたことについて。

1・ロンドンに着いた日にノッティング・ヒル・ゲートのウォーターストーンズ書店で買った、小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』コレクターズ・エディションのペーパーバック。表紙に堂々と「SPECEAL COLLECTOR'S LIMITED EDITION」と書かれているような本だから、もとより読む気はまったくないが、日本に戻って何気なく開いてみると、中にこんな栞が。

 顧客からかかってきたとおぼしき電話応対をしながらレジ打ちをしていた会計のお兄さんは、一体いつの間に挟んでくれたのだろう。あの店で買って本当に良かった。

2・雑誌 TimeOut。裏表紙はこうなっていた。嬉しすぎ。

3・ピカデリー・サーカスのHMVで見付けた、M・J・シンプソンの改訂版解説本 The Pocket Essential Hitchhiker's Guide。映画『銀河ヒッチハイク・ガイド』については例によって辛辣な言葉を並べているが、それはさておきこの本の中の「The Hitchhiker's Guide to the Galaxy on the Web」と題された章の中に、こんな一文があった。

All these sites are in English, but there are also excellent sites run by fans in Japan (home.u08.itscom.net/hedgehog), Poland (www.nie-panikuj.w.pl) and Brazil (www.milliways-brasil.net).

 こんなふうに自分のサイトが活字で紹介されるのは、ウェブのリンク集に入れてもらうのとはまた別の、ちょっとした感慨がある。Special thanks, Mr. Simpson!!!

4・5月3日にヒースロー空港で目撃した雑誌 Sight & Sound。もしやと思って探しに行った渋谷の書店であっさり発見する。

 手に入ったのは嬉しいけれど、現地価格が4.5ポンドなのに対して日本での販売価格は1680円。まあね、この程度の差額で買えるならおとなしく買いますけどね、しかし問題は発見できた雑誌の類がこの1冊だけではなかったことだ。
 日本に戻ってから今日まで神保町・三省堂本店や新宿・紀伊国屋書店などを回って買い集めた洋雑誌は、現時点で計12冊に上る。雑誌の中のほんの数頁の記事のためだけに、総額いくら費やしたことか。しかも表紙が『銀河ヒッチハイク・ガイド』なのはあの「Sight & Sound」だけで、他はたいてい『スター・ウォーズ エピソード3』か『バットマン・ビギンス』、渋谷・ブックファーストの店員は私のことをきっとスター・ウォーズ・マニアだと思ったにちがいない。

5・これまたロンドンで探して見つからなかった『銀河ヒッチハイク・ガイド』のアンソロジーは、やはりアメリカで出版された本だった。アマゾン・コム・ジャパンで注文して、1週間ほどで我が家に届いた。

 こういう本はイギリスのファンだって読みたいだろうに。少なくとも英語に四苦八苦している私よりは、ずっと気楽に手に取って読めるだろうに。

6・マークス・アンド・スペンサー製アールグレイのティーバックは、味も価格も素晴らしい。さすが、ダグラス・アダムスが推薦するだけのことはある。ティーリーフはともかく、ティーパックに限ってはフォートナム・アンド・メイソン製品より格段にお値打ち品(4ポンド50の値段で50袋も入っている、しかもパッケージは驚くほどコンパクト)なので、実益本意の土産品としては最高。イギリスに行かれた際には、是非お買い求めあれ。

7・フォートナム・アンド・メイソン製ファッジは……一度でたくさん、二度と買わない。


 それから約3年半後、私はまたしてもロンドンを旅行した。2008年12月の、『銀河ヒッチハイク・ガイド』とはあまり関係ないがまったくないとも言い切れぬ、6泊8日の旅の記録についてはこちらへ

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