'The Pirate Planet' は、当時のプロデューサー、グレアム・ウィリアムズから『ドクター・フー』の脚本執筆を正式に依頼され、アダムスが書いた最初の脚本である。これは、『ドクター・フー』の中でも、'The Key to Time'という計6作からなるシリーズの中の2作目として書かれたものだが、 'The Pirate Planet' だけを観ても理解できる作りになっている。それどころか、ラッセル・T・デイヴィスの言葉を借りれば、「小さな一つの世界として完結しているように見える」(Doctor Who: The Shooting Scripts, p. 49)。
1977年8月にアウトラインを提出した後、同年11月1日にアダムスは第1話の脚本がウィリアムズに送り、第2話を1978年1月23日に送る。が、それらを読んだウィリアムズは、必要となる特撮や大道具の多さに頭を抱えたという。実際、番組の総責任者だったグレアム・マクドナルドは、アダムスの脚本を没にしようと考えたらしいが、アンソニー・リードとディレクターのペナント・ロバーツに説得され、製作に踏み切った(Hitchhiker, p. 103)。
アダムスいわく、最初に書いた'The Pirate Planet' の脚本は長くなりすぎ、4話に収めるべく強引にカットせざるを得なかったとのこと。そのため、せっかく完璧に作り上げたプロットが穴だらけに、エンディングも唐突な感じになってしまったという。
'The Pirate Planet' の脚本の難点は、他にもあった。アダムスの提出した第1稿はコメディ色が強すぎ、ふざけているとの指摘を受け、笑いの要素を減らして書き直すよう求められたのだ。勿論、アダムスはふざけるどころか大真面目だったのだが、ジョークを入れるとドラマとしての話の流れが止まってしまうという点には、アダムスも納得せざるをえなかった。「『ドクター・フー』は基本的にドラマであって、笑いの要素はその次なんだ」(Haining, p. 160)。
かくして完成した'The Pirate Planet' は、古くからのドクター・フー・ファンにもおおむね好評だった。長く続いてきた番組だけに、『ドクター・フー』には作品内ルールがいくつもあって、『ドクター・フー』をよく知らない人間が脚本を書く場合、気付かないうちにこのルールに抵触してしまい、ファンからのブーイングを浴びることがあるらしい。が、アダムスは子供の頃から番組を観ていただけのことはあって作品内ルールを熟知しており、またそれをきちんと守ることにもこだわっていた。ただし、一部のマニアの間ではアダムスの脚本は「笑いに走り過ぎ」という声も挙がったそうだが(Webb, p. 113)。この作品は、2017年、ジェイムズ・ゴスによってノベライズされた。このノベライズに添えられた、アダムスによる最初の原案は、こちら。
解説 孫娘のロマーナと共に、ドクターは2個目の'The Key to Time'を探すためにカルフラックスという惑星に向かう。が、時間的にも空間的にも惑星カルフラックスがあるはずの場所に行ったにもかかわらず、そこにあったのはまったく別のザナックという惑星だった。身体の半分が機械化された「キャプテン」がザナックを支配し、稀少な鉱石を大量に発掘している。鉱石が尽きると、一回り小さい別の惑星へと瞬間移動する――惑星ザナックの内部は巨大な空洞になっていて、新しい惑星をその空洞の中に囲い込み、必要な資源を吸い上げるのだ。独裁者じみた「キャプテン」の背後には真の支配者がいたのだが、ともあれ彼らが惑星カルフラックスの次に目をつけたのは、他でもない地球だった。
'City of Death' とは異なり、アダムスは 'The Pirate Planet' のアイディアを後で別の作品に転用することはなかった。ただし、部下に怒鳴って命令するキャプテンの姿は『銀河ヒッチハイク・ガイド』のヴォゴン・イェルツとよく似ているし、そのキャプテンの肩に止まっている機械仕掛けのオウムは、後にはるかに優雅な形でコンピュータ・ゲーム『宇宙船タイタニック』に登場する。また、大きな惑星の内側に小さい惑星がすっぽり納まっているという構図は、『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくる惑星マグラシアに相通じるものがあるかもしれない。さらに、敵に捕まって縛り上げられたドクターが、一緒に捕まったもう一人の仲間に向かって "Don't Panic" と声をかける場面があるが、この台詞を書いた時にアダムスが『銀河ヒッチハイク・ガイド』を意識していたかどうかは不明。
第1回放送日 1 1978.9.30
2 1978.10.7
3 1978.10.14
4 1978.10.21
キャスト一覧
The Doctor | Tom Baker |
Romana | Mary Tamm |
Voice of K9 | John Leeson |
Balaton | Ralph Michael |
Captain | Bruce Purchase |
Citizen | Clive Bennett |
Guard | Adam Kurakin |
Kimus | David Warwick |
Mentiad | Bernard Finch |
Mr. Fibuli | Andrew Robertson |
Mula | Primi Townsend |
Nurse | Rosalind Lloyd |
Pralix | David Sibley |
スタッフ一覧
Director | Pennant Roberts |
Assistant Floor Manager | Ruth Mayorcas |
Costumes | L Rowland Warne |
Designer | John Pusey |
Film Cameraman | Elmer Cossey |
Film Editor | John Dunstan |
Incidental Music | Dudley Simpson |
MakeUp | Janis Gould |
Producer | Graham Williams |
Production Assistant | Michael Owen Morris |
Production Unit Manager | John Nathan-Turner |
Script Editor | Anthony Read |
Special Sounds | Dick Mills |
Studio Lighting | Mike Jefferies |
Studio Sound | Mike Jones |
Title Music | Ron Grainer and the BBC Radiophonic Workshop, arranged by Delia Derbyshire |
Visual Effects | Colin Mapson |
Writer | Douglas Adams |
DVD版 'The Pirate Planet' 'The Pirate Planet' のDVDは、アメリカでは単体でも販売されているが、イギリスでは 'The Key to Time' の6枚組ボックスセットで購入するしかない。特典映像の内容はどちらも同じ。ただし、2007年にイギリスで発売された 'The Key to Time' のスペシャルエディションには、この他に A Matter of Time と題されたドキュメンタリーが付いていた(アメリカでは2009年3月に発売)。
〈オーディオ・コメンタリー〉
1 トム・ベイカー(ドクター)/マリー・タム(ロマーナ)/アンソニー・リード(脚本編集者)
2 ブルース・パーチェイス(キャプテン)/ペナント・ロバーツ(監督)
〈特典映像〉Parrot Fashion
約30分の'The Pirate Planet' に関するドキュメンタリー、というかダグラス・アダムスへのトリビュート。'The Pirate Planet' のスタッフ(アンソニー・リード、ペナント・ロバーツ他)、キャスト(マリー・タム、ジョン・リーソン、ブルース・パーチェイス、ロザリンド・ロイド、プリミ・タウンゼンド)のみならず、アダムスの種違い弟のJames Thrift や、アダムスの伝記を執筆したニック・ウェブへのインタビューもある。
Film Inserts, Deleted Scenes & Outtakes
カットされたシーン。
Weird Science
サイエンス・フィクションの科学を検証する1970年代の教育番組、というふれこみのパロディで、実際に製作されたのは2007年。教授役のデイヴィッド・グレアムは俳優だが、助手役を務めたマット・アーヴィンはBBCで視覚効果を担当していた技術者で、アダムスが手掛けたテレビ番組『ハイパーランド』の製作にも携わっていた。
Continuity Compilation
'The Pirate Planet' がBBC1で実際に放送される時、放送の直前に入れられた番組宣伝。
Radio Times Billing
雑誌 Radio Times に掲載された記事のPDF版。
Produciton Subtitles
通常の英語字幕とは別に、キャストの紹介や番組製作の裏側などの情報が掲載された字幕。
Photo Gallery
番組内の映像からなるフォトギャラリー。
Coming Soon Trailer
まもなく発売される『ドクター・フー』旧シリーズのDVDの宣伝。