ドクター・フー 'The Perfect Planet'


 アダムスが最初に脚本を担当した『ドクター・フー』のエピソード 'The Pirate Planet' は、2017年、ジェイムズ・ゴスによってノベライズされた。
 小説化するにあたって、ジェイムズ・ゴスがケンブリッジ大学で保管されているダグラス・アダムスのアーカイヴを漁ったところ、'The Pirate Planet' ならぬ 'The Perfect Planet' なるシノプシスが見つかった。どうやらこれが、脚本執筆を依頼されたアダムスが最初に抱いていた作品の構想らしい……?
 以下は、ジェイムズ・ゴスによる小説版 Doctor Who: The Pirate Planet に添えられた、'Doctor Who and The Perfect Planet' のシノプシスである。ただし、訳したのが素人の私なので、少なからぬ誤訳を含んでいる可能性が高い。そのため、この訳はあくまで参考程度にとどめて、全貌をきちんと知りたい方は、必ずオリジナルにあたってくださるようお願いする。

 


Doctor Who and The Perfect World
Original Treatment by Douglas Adams

 ドクター。
 タイム・ロードの見習い。ここでは仮にコムナーと呼ぶことにする。
 コムナーは見るからに頭がとても良さそうで、ドクターの教えを切望している。が、彼はタイム・ロードに関するすべての事柄をひどく真剣に受け止めているため、ドクターの軽薄さとか、タイム・ロードのしきたりをバカにして自分流を貫くことに対し、しばしば怒りを感じる。コムナーはタイム・ロードになる気満々なので、タイム・ロードの権力とか特権を強めるために自分ができると思われるすべてに関心がある。おおむね彼らはそれなりにうまくやっているが、時としてお互い過剰反応しすぎる傾向もある。
 コムナーは、今回のミッションは単純明快なものだと思っている。単に鍵を集めるだけだ、と。彼はドクターの常軌を逸した好奇心には批判的で、要点に集中し、他のことは放っておくべきだと思っている。
 ターディスがジェトラルという惑星に着陸する。この惑星は、はるか昔、タイム・ロードがターディスを作る際に使うクリスタルの主要な産地だった。ドクターは、昔の星図に載っているよりも多くの月が空に浮かんでいるように見えることに興味を抱く。それゆえ、自分たちが探しているものが本当は何なのか、コムナーに説明するのを先送りにする。
 その惑星は、ほとんど信じられないくらい平和で快適で、人々の親切さや丁寧さときたら、もはや不条理と言ってもいいくらいだ。人に無礼な振る舞いをして楽しむこともあるドクターとしては居心地が悪く、絶対に腹を立てない人たちとの付き合いに苦労する。
 訪問者を祝して宴が開かれる。ドクターはかなり意図的に不躾なふるまいをし、コムナーを怒らせる。締めの乾杯の際には、美しい装飾のついた杯ではなく、道端に落ちていたのを拾った古い銅のマグを使いたがった挙句、何の根拠もない侮辱をぶちまけて去る。深く考えこみながら歩き回る。
 その日の夜遅く、コムナーはドクターが月を見上げて一人で座っているのに気づく。「ここには、ものすごく間違っている何かがある」と、ドクターは言う。まだ怒っていたコムナーは、ドクターは単に良いものを目にしても理解できないだけだと言う。どうしようもないお節介焼きで、この惑星にタイム・ロードがもたらした良い影響を認められないだけだ、と。
 「影響だって?」ドクターは問いただす。
 コムナーは、街の大きな広場に連れて行かれて、そこでタイム・ロードのトーテム・ポールっぽい巨大な像を目にしたと説明する。恐らく、この惑星の信仰の中心なのだろう、と。
 ドクターはひどく興奮し、そこに連れていくよう命じる。
 非常に印象的な像である。力のようなものを放射しているように見える。明らかに惑星の住民から多大なる献身と畏敬をもって取り扱われており、像の力を人々の穏やかさには何かしらの関係がありそうだ。そのことを、コムナーは誇らしく思い、ドクターは不安に思う。
 コムナーは、ここに取りにきた「鍵」とは何なのか、教えてほしいと詰め寄る。
 ドクターは、像を見つめながら、「円筒形で、金属製で、高さ40メートルくらいかな」と答える。
 コムナーは震え上がった。この完璧な惑星の人々から、どうやってこれを取り上げるというのか。
 ドクターはターディスのコンピュータで銀河の記録にあたり、何百年も前、タイム・ロードたちがこの惑星で発掘を行っていた頃、住民たちは頭がよく、興奮しやすく、感情的で、政治的に揉めてばかりだったことを発見する。タイム・ロードたちはこの点で常に頭を悩まされ、ある時には全面核戦争の勃発を阻止したほどだった。そこで、彼らは一時的な措置としてタイム・ロードのトーテムを崇める新しい宗教をこの惑星に導入することにした。トーテムは、本当に催眠作用のある放射線を発生し、人々から怒りとか憎しみとか悪意といったものと同時に、人々の知性にかかわる大切な要素もすべて吸い取った。後にクリスタルを人工製造する方法が確立すると、催眠作用のある放射線を止めるため、一人のタイム・ロードがこの惑星に派遣された。彼は戻ってこなかったが、タイム・ロードたちは次第にこの惑星への関心をなくし、事後の観察を怠った。ドクターは、行方不明のタイム・ロードの身に何が起こったのか、ひどく気がかりになる。
 突然、ターディスを通じて恐ろしげな声が聞こえてくる。「つまりタイム・ロードどもはようやく私を探しにきたんだな? あまりに遅い。遅すぎる! 遅すぎて話にならん!」
 ドクターとコムナーは、今こそ像を調査すべき時だと決断する。秘密の入り口を見つけて中に入るや否や、謎めいた姿の者たちに捕まり、地下の通路を歩かされる。どうにかして逃げ出した二人がある部屋に入ると、そこには大昔にタイム・ロードが動かしていた掘削装置がある。その装置がまだ稼働中であることに気づいてドクターはたじろぐ。装置が故障していないことも驚きだが、それより何より一つの惑星を何百万年も掘削し続けることは可能なのか……? 何も残っていないだろうに……。
 彼らは再び捕らえられ、連れて行かれた先には……行方不明のタイム・ロード、マルキオスがいた!
 彼は、筆舌に尽くしがたいほどに悪辣なタイム・ロードのまがいものであり、悪の権化。ぶくぶくと煮えたつ黄色い泥のプールの真ん中に座り、あんぐりと口を開けて二人を眺める。怖ろしげな調子で、彼はこれまでのことを話す。
 惑星ジェトラルに到着し、催眠放射線を出す装置を止めようとした。が、作業の途中で失敗し、偶然、彼自身がその装置に繋がれてしまい、その結果、惑星の全住民から吸い上げた怒りや悪意といったものすべてが、彼自身の心に流れ込んだ。完全に囚われの身となったまま何世紀もの歳月が過ぎるうち、彼はますます悪賢くなっていった――何百万、何十億もの、人為的に満足させられた人々の、ダークサイドの分身となったのだ。彼の悪の精神力が強まるにつれ、物理的に身体を動かせない代わりに超能力を身につけ、この力でタイム・ロードたちに対する大いなる復讐計画を作り上げた。
 彼はクリスタルのために惑星の発掘作業を続けた。もうクリスタルは残っていないとわかっても、とにかく発掘を続けた。
 でも、一体何のために? ドクターが訊く。それに、何百万年も同じペースで掘り続けたというのなら、掘り出した岩や土はどうしたのだ?
 突然、彼は理解した……月だ! 宇宙に浮かんだ巨大な産業廃棄物の塊! でも、一体、どうして???
 またしても彼はどうにか逃げ出し、廊下を駆け戻って掘削装置の管理室に入り、いくつかの数字を読み取る。追っ手の気配を察し、再び部屋を出て別の通路を走りながら頭の中で素早く計算する。この惑星の正確なサイズと、これまでの年月で掘削された量、そして巨大な月の数。捕まえようと追ってくる足音を耳にしながら、彼は床に大きな金属の蓋があるのを見つけ、どうにかこじ開けようとする。蓋と格闘しながら、彼は自分の計算結果が深刻な意味を持っていたことに不意に気付く。惑星内部の四分の三が既に削り取られ、月という形で惑星の周囲を回っている。この惑星は、ほとんど空洞なのだ! ついに蓋を持ち上げ、覗き込んだドクターは、何十億マイルも続く何もない空間を目にする。
 廊下のほうから、マルキオスの哄笑が聞こえてくる。
 「その通り、ドクター、完璧な空洞だ!」
 ドクターは、追ってきた謎めいた姿の者たちから逃れようと身をよじり、そのはずみでまっさかさまに穴に落ちる……無の空間に。
 ドクターは、何もない空間を延々と落下し続ける――惑星の重力の中心地点まで、落下を止めることはできないだろう。
 コムナーは、ドクターの身に起こったことを聞きつけ、どうにか脱出を図り、外の世界に出てターディスを見つける。彼はこれまでターディスを動かしたことはないが、一通りの原理原則は分かっている。それに、彼がドクターを救う唯一の方法はターディスをドクターの周りで実体化するしかないということも分かっている。
 驚くべきことに、彼は見事にやってのけ、ドクターは救出される。彼らは地表に戻る。ドクターは首をかしげる。この惑星の中心から取り除いた物質の総量を計算したが、その数字に何だか馴染みがあるのだ。だが、この時点ではドクターはまだマルキオスの本当の企みが分かっておらず、そのため二人はもう一度彼に会いに行く。
 像の下にある迷宮に再び足を踏み入れ、影の軍団に捕まり、マルキオスの許に連行される。彼は浮かれ気分で、自分を何百年も地下に閉じ込められたままにしていたタイム・ロードたちに対する恐ろしい復讐計画について熱狂的に話す。
 復讐の時は、すぐそこまで来ている。
 ドクターは、何がするつもりなのかと訊く。
 「分からないのか?」マルキオスが叫ぶ。「ならば、ヒントをやろう」
 ドアが持ち上がり、すごい最新鋭の装置がずらりと並んだ部屋が見える。ドクターの目にはひどく馴染みがあるように思えるが、なぜそう思うのかが分からない。さらに別のドアが持ち上がり、次の部屋には大量のタイム・クリスタルがある。
 ドクターは唖然とする。ひとかけらのクリスタルがあれば、ターディスは動かせる。が、ここにあるのは数千トンにも及ぶ量のクリスタルだ。これだけあれば惑星ごと空間をジャンプできる……。
 「その通りだ」と、マルキオスが言う。
 でも、なぜ空っぽの惑星を? なぜ、惑星の中心をくりぬいて巨大なサイズの穴を……惑星ガリフレイのサイズの穴……!
 ドクターは、恐れおののきながら、ついにマルキオスの計画の全貌を理解する。惑星ジェトラルをターディスよろしく空間移動させ、ガリフレイの周りで実体化させるつもりなのだ。
 惑星ガリフレイを丸ごと飲み込んで、ジャトラルの地下に生き埋めにするつもりなのだ!
 マルキオスは勝利の雄叫びをあげる。タイム・ロードたちを永遠に生き埋めにする一方、ガリフレイの力を使って全宇宙を支配してやる、そしてドクターにできることは何もない、と。
 が、突然ドクターはターディスから持ち出したものを使ってある装置を作り上げ、それを自分の頭の周りに固定する。さきほどドクターとコムナーを捕まえた謎めいだ姿の存在は、マルキオスの思考の投影にすぎないことに彼は気付いたのだ。この装置は精神のシールドで、ドクターをマルキオスの投影から守ってくれる。彼は駆け出し、通路に戻る。影の軍団はもはやドクターには無効だが、マルキオスには別の切り札があった。彼は念動力で物を持ち上げ、ドクターに向けて飛ばす。あちこち曲がりながら、ドクターは通路の端までたどり着く。お馴染みの音が聞こえてくる――ターディスのエンジンが作動している音だ。彼は再び惑星の表面に戻る。円筒形のタイム・ロードの像が、ターディスの中心にある円柱のように上下している――惑星全体が非物質化されようとしている。彼は自分のターディスに戻ろうと駆け出すが、その間も地元民たちが彼にフルーツバスケットを手渡そうとしたり奇妙な歌を合唱したりするのを押しのけなければならない。
 ターディスに入ると、ドクターはガリフレイに向けてセットする。ジェトラルと同じタイミングで同じ場所に実体化し、その結果、お互いがお互いを邪魔して両方とも物質化に失敗することに望みをかけている。
 強烈な衝撃波がターディスとジェトラルを襲う。ある惑星の夜空が姿を消し、別の夜空が現れようとしたところにターディスが割って入り、二つの夜空が揺れ動く――惑星は実体化に失敗する。
 マルキオスは惑星の実体化しようと完全に気を取られており、コムナーは自分が誰からも監視されていないことに気付く。空間ジャンプのコントロール室への入り口を見つけるも、装置の止め方が分からない。どのコントローラーで何ができるか見当がつかなくて激しく迷う。やがて、彼は大きな装置を手に取り、コントロール・パネルのほうに撥ね上げる。大爆発が起こったが、機械の動きはゆっくりになり、作動音が消え、惑星は元の場所で再び実体化する。
 マルキオスは怒声をあげ、影の軍団を送って無防備なコムナーを捕らえようとする。
 マルキオスが彼を殺そうとした瞬間、ドクターが飛び込んできて、催眠放射線から吸い上げてマルキオスに超能力を与えていた生命線を断ち切る。マルキオスは恐ろしい金切り声をあげ、しぼんで消えた。
 ドクターは催眠放射線のメカニズムの無効化に取り掛かり、それから彼とコムナーが地表に引き返すと、彼らの背後でくぐもった爆発音が連続して起こる。
 彼らは地表に戻る。コムナーはドクターに、「鍵」、すなわちタイム・ロードの像を持ち帰らなきゃと言う。ドクターが、ああそうだそのことはすっかり忘れていた、と言った瞬間、像が爆発する。像の周りに集まり穏やかに崇めていた人々は、突然正気を取り戻したようになり、よくも自分たちの大切な像を壊してくれたな、とばかりに、怒りの表情でドクターとコムナーのところに駆け出してくる。二人はやっとのことでターディスに逃げ戻る。
 離陸の準備をしながら、コムナーは、せっかく見つけた「鍵」を置き忘れてきたどころか完全に破壊してしまったことに愕然とする。コムナーが驚いたことに、ドクターは、大丈夫、「鍵」はちゃんと一緒にもってきた、と言い、道端で拾った胴のマグカップを取り出す。コムナーは、どうして鍵は像だと言ったのかと問いただす。
 「そんなことは言ってない」と、ドクターは主張する。「謎かけをしただけだ。円筒形で、金属製で、高さ40メートルくらい、だったっけ?」
 「でもそのマグは高さ40メートルもない」コムナーは言い募る。
 「確かに」ドクターは言う。「でも、君は頭がいいから、簡単すぎてもバカにしていると受け取られかねない。40メートルというのは嘘だった」。ドクターは、あの惑星が何かおかしいことには気づいていたし、像が関係しているだろうとも思っていたが、コムナーはタイム・ロードに関することに干渉するのを嫌がるだろうから、そうさせないためにミスリードしたのだと説明した。
 「でも、気にするな。結果として君がガリフレイを救ったんだから。その努力に免じて最低でも10点満点の3点をあげるよ」

 

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