テレビ・ドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』


 最初にテレビ・ドラマ化の話が持ち上がったのは、1979年末のことである。小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』が出版されたのが1979年10月だから、ほとんど間髪置かず企画されたと言えよう。
 当時、ジョン・ロイドはラジオからテレビの仕事に移行していて、『ノット・ザ・9オクロック・ニュース』というコメディ番組のディレクターを務めていた。後にこの番組が大ヒットすることなど知る由もなかったロイドは次の新しい企画を探していて、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の映像化に目を付ける。最初は気乗り薄だったアダムスも、BBCの別のSFシリーズ『ドクター・フー』の脚本を手掛けるうちに、映像の特殊効果の可能性に魅せられて気を変えた。
 そこでロイドは、BBCの軽演劇部門の上司にこの企画をたきつけた。その上司は、アダムスが書き上げたテレビ・ドラマ用の脚本に目を通し、今まで読んだテレビ・ドラマの脚本の中でも最高の出来だと言ってロイドを有頂天にさせる。
 が、『ノット・ザ・9オクロック・ニュース』のシリーズ第2弾の製作が決定し、時間的にロイドが『銀河ヒッチハイク・ガイド』を監督することは不可能になってしまった。アシスタント・プロデューサーという名目ばかりの肩書きは残ったものの、結局テレビ・ドラマ製作の全権はプロデューサー兼ディレクターとして抜擢されたアラン・J・W・ベルが担うことになる。
 アダムスとしては、ジョン・ロイドがプロデューサーとなり、ジェフリー・パーキンスにも何らかの形で参加してもらうことを望んでいた。なのにフタを空けてみれば二人とも揃って企画から外されていて、新たにやってきたアラン・J・W・ベルはアダムスには何の馴染みもないテレビ畑の人間だった。
 アラン・J・W・ベルは、当時から既にベテラン格のプロデューサー/ディレクターだった。ジェフリー・パーキンスいわく、テレビ畑の人間はラジオ畑の人間に対して「何も分かっていない」とつい軽視しがちだという(Gaiman, p. 80)。アラン・J・W・ベルにどの程度そういう気持ちがあったかは分からないが、ラジオ・ドラマ製作の現場ではアダムスが思いつきやアイディアをいつでもパーキンスに言えたのに比べて、ベルがアダムスの意見にいちいち聞く耳を持たなかったことは容易に想像がつく。雲行きは最初から怪しかった。
 キャスティングに関しても、ラジオ・ドラマのメンバーをそのまま採用したがったアダムスに対して、ベルは新しい役者を望んだ。結果として、アーサーとザフォドはそのまま、フォードとトリリアンは新顔となる。
 撮影は、1980年3月26日から始まった。サセックスやコーンウォールのロケにもアダムスは同行し、パブのシーン等、何カ所かでカメオ出演している。また、撮影が終わった後は何人かを引きつれて地元のレストランに行き、楽しい時間を過ごしたりしていたらしい。が、その一方で、アダムスは自分の意見を聞こうともしないアラン・J・W・ベルに不満を募らせ、何度となく喧嘩をした。「僕にはこれまでテレビでやったことのないような、いろんなアイディアが山のようにあった。なのにプロデューサーは一向に関心を示さない。不当な扱いだとも思ったし、実際のところ6話目の撮影の終わり頃には少しばかり蚊帳の外に置かれていたんだ」(Simpson, p. 168)。
 もっとも、これはあくまでアダムス側の一方的な言い分であって、ベルにはベルの言い分もあるだろう。また、アダムスのアイディアが本当に良いものだったかどうかも怪しい。却下されたアダムスのアイディアとして分かっているものに、ネズミとマーヴィンの衣装がある。アダムスの希望は、どちらも人間の役者に演じさせ、ネズミ役にはネズミのコスチュームを、マーヴィンには黄金のレオタードを着せるというものだった(Simpson, p. 169)。
 二人は、テレビのコメディではお約束の「笑い声」を入れるかどうかでも揉めた。勿論アダムスは不要派である。が、ラジオ・ドラマではそれで了承されたのにテレビでは通らず、ナショナル・フィルム・シアターにSFファンを集めて特別上映し、その時の笑い声を入れることになった。が、アダムスにとっては幸いなことに、期待されたような笑い声は録ることができなかったため、エジンバラのテレビ・フェスティバルで笑い声入りが上映された後は、ベルも削除することに同意する(Webb, p. 213)。
 「蚊帳の外」と自嘲しながらも、それでもアダムスはその後のスタジオでの録音にも律儀に顔を出した。そして1985年1月5日の第1話放映時には仲間を自宅に呼んで自宅で鑑賞会を行っている。
 しかし、テレビ・ドラマの続編製作の話が持ち上がった際には、アダムスはプロデューサーの変更を絶対条件としたため、企画は頓挫してしまった。後に、アメリカで新たにテレビ・シリーズを製作するという企画が持ち上がったこともあったらしいが、予算がかかりすぎるということで立ち消えになったとか。

 このテレビ・ドラマは以前からビデオ化されていたので、インターネットで簡単に購入することができ、観ることができた。が、ついに2005年9月22日、ついに日本でもテレビ・ドラマ『銀河ヒッチハイク・ガイド』のDVDが発売される。発売元はジェネオン・エンターテインメント、2枚組DVDで価格は定価5880円(税込)。
 しかし、覚悟していただきたい。何と言っても今から20年近くも前の特殊効果である。しかも映画ではなくテレビである。かなり低く見積もって、たいしてどころかとことん期待しないで観て、それでもあまりの稚拙さと貧しさに度胆を抜かれる、それはそれはものすごい出来映えである。これでも当時としてはBBCのテレビ・ドラマとしては破格の予算を費やして撮影されたのだそうだが。
 一応アダムスの名誉?のために書き添えておくならば、アダムスとしてはこのテレビ・ドラマ作品の仕上がりがとても不本意だと公言していた。実際、肩に生首をのせて歩き回っている(としか思えない)ザフォド・ビーブルブロックスやダンボールハウスのような宇宙船を見れば、アダムスが不満に思ったのも当然だろう。
 とは言うものの、決してこのテレビ・ドラマは史上最低な評価を受けている訳ではない。それどころか、アダムスの伝記作家の二人、M・J・シンプソンもニック・ウェブも、アダムスが言う程悪い出来ではないとフォローしているし、また1987年に発売されたThe Best of Science Fiction TV という本では、テレビ評論家やらSF作家やらSFファンやらの投票をもとに独自に集計して、テレビのSFドラマのベスト15とワースト10が発表されているのだが、その中でテレビ・ドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』は見事ベスト4に輝いていた。ちなみに、ベスト5は1位から順に、『スター・トレック』、『トワイライト・ゾーン』、『アウター・リミッツ』、『銀河ヒッチハイク・ガイド』、そして『ドクター・フー』。
 さらに、2005年8月に発売されたイギリスの雑誌 SFX Collection: Best of British に掲載されたイギリス製SFテレビ番組のランキングでは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』は第1位の『ドクター・フー』、第2位の『宇宙船レッド・ドワーフ号』に続く第3位になっている。


第1回放送日

1 1981.1.5
2 1981.1.12
3 1981.1.19
4 1981.1.26
5 1981.2.2
6 1981.2.9


キャスト一覧

THE BOOK (VOICE) Peter Jones
ARTHUR DENT Simon Jones
FORD PREFECT David Dixon
TRILLIAN Sandra Dickinson
ZAPHOD BEEBLEBROX Mark Wing-Davey
NUMBER THREE Geoffrey Beevers
ZARQUON Colin Bennett
VOGON CAPTAIN Martin Benson
NEWSCASTER Rayner Bourton
LUNKWILL Antony Carrick
BARMAN Steve Conway
VOGON GUARD Michael Cule
FOOK Timothy Davies
DISH OF THE DAY Peter Davison
DEEP THOUGHT (VOICE) Valentine Dyall
MANAGEMENT CONSULTANT Jon Glover
MAX QUORDLEPLEEN Colin Jeavons
MARVIN THE PARANOID ANDROID David Learner
MAJIKTHISE David Leland
GARKBIT THE WAITER Jack May
VROOMFONDEL Charles McKeown
MR. PROSSER Joe Melia
MARVIN THE PARANOID ANDROID/THE WHALE/FRANKIE MOUSE (VOICE) Stephen Moore
B-ARK CAPTAIN Aubrey Morris
GAG HALFRUNT Gil Morris
ALIEN Andrew Mussell
NUMBER TWO David Neville
MARKETING GIRL Beth Porter
BODYGUARD (AS DAVE PROWSE) David Prowse
ALIEN Cleo Rocos
HAIRDRESSER David Rowlands
NUMBER ONE Matthew Scurfield
BANG BANG Marc Smith
MAGRATHEAN Eddie Sommer
VOICE OF EDDIE (VOICE) David Tate
SLARTIBARTFAST Richard Vernon
HOTBLACK DESIATO Barry Frank Warren
SHOOTY Matt Zimmerman
MAN IN PUB/MAN IN OCEAN (uncredited) Douglas Adams
MAN LISTENING TO RADIO (uncredited) Bill Barnsley
HANDMAIDEN (uncredited) Nicola Critcher
RICH MERCHANT (uncredited) John Dair
WORKMAN (uncredited) Terry Duran
JOGGER (uncredited) Laurie Goode
SANDWICH-BOARD MAN (uncredited) David Grahame
CO-PILOT (uncredited) Zoe Hendry
VL'HURG SOLDIER (uncredited) James Muir
HANDMAIDEN (uncredited) Lorraine Paul
HANDMAIDEN (uncredited) Susie Silvey
YOUNG CONSERVATIVE (uncredited) Adam Tandy
MAN IN PUB (uncredited) Steve Trainer

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