小説 Doctor Who: Shada


 2012年3月15日、アダムスが残した脚本を元にしたノベライズ版 'Shada' が発売された。著者のギャレス・ロバーツは、2005年から始まった『ドクター・フー』新シリーズの脚本家の一人だが、それ以前の1990年代頃から『ドクター・フー』のスピンオフ小説やオーディオドラマの脚本を手掛けている。
 基本的にアダムスが残した脚本に忠実に小説化されていて、脚本が計6話だったように、小説の方も6部構成になっている。ただし、小説版 'Shada' につけられたロバーツ自身によるあとがきを読むと、「アダムスが残した脚本」と言っても、初稿段階のものから撮影用のものまで複数残っており、それらを精査した上で執筆は進められたようだ(ロバーツが書いたあとがきの全文はこちら)。
 その一方で、ロバーツはオリジナルの素材を忠実に小説化するだけで良しともしなかった。アダムスが 'Shada' の脚本を書き上げた時には(諸事情あって)かなり締め切りに追われていたこと、またアダムス自身が脚本の出来に満足していなかったことも考慮して、「アダムスにもっと時間があれば、きっとこう書いたにちがいない」と、脚本上の不備や欠陥などに補修を施したり情報を補填したりもしている。
 こういった補修や補填はとても巧みに行われて、どこがオリジナルの脚本のままで、どこがロバーツによって新しく書き加えられたのか、小説を一読しただけでは分からない。とは言っても、いくつかの例外はあって、1979年に書かれたアダムスの脚本が1970年代が「同時代」になっているのに対し、21世紀になって書かれた小説では「あの時代」として描かれている。また、小説版『銀河ヒッチハイク・ガイド』に対するオマージュも出てくるが、これがロバーツによって新しく付け加えられた箇所であることは言うまでもない(ちなみに、アダムスが 'Shada' の脚本を脱稿したのは、小説版『銀河ヒッチハイク・ガイド』が発売される直前である)。
 'Shada' は、クロノティス教授が故郷の惑星で厳重に保管されている一冊の本をこっそり持ち出したことに端を発する物語だ。が、いくら人の出入りの少ないほこりだらけの書庫だとしても、その本が入っていたディスプレイ用のケースが空っぽだったら、すぐに誰かに気付かれてしまう。そこで教授は、同じようなサイズの別の本を代わりに中に入れておくことにした。

'What book, Professor?' demanded the Doctor.
'An Earth classic, by one of the greatest writers int that planet's history,' said the Professor. 'Terribly funny, terribly thoughtful, wish I could remember the name of it, something about thumbing a lift, and there were towels in it, I remember that, yes, let me think - oh yes, of course, it's called The Hitch--'
He was interrupted - not by the Doctor, for once, - but by a now very familiar wheezing, groaning sound. (p. 392)

 この小説でいうところの「ドクター」とは、4代目トム・ベイカーを指す。2003年に 'Shada' がオーディオドラマ化された時は、当時ドクター役をしていた8代目ポール・マッギャンに合わせて内容の一部が書き直されていたが、この小説内ではすべて元に戻され、あのオーディオドラマは「なかったこと」扱いとなっている。こればかりは致し方ない。
 なお、小説の発売と同時に朗読CDも発売された。朗読を担当しているのは、オーディオドラマにも出演していた、ララ・ウォードジョン・リーソンである。

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