このエピソードでドクターと一緒に旅するコンパニオンは、前回までと同じロマーナである。が、もともとロマーナ役を演じていたマリー・タムが 'The Armageddon Factor' を最後に降板することになり、このエピソードでアストラ姫(Princess Astra)役を務めていたララ・ウォードがロマーナ役を引き継ぐことになる。
ロマーナはドクターと同じ種族なので、身体を「再生」することができる。なので、一つの役柄を違った役者が演じることは可能だが、ララ・ウォードの場合、前回の 'The Armageddon Factor' でまったく別のキャラクターを演じていたのだから、単純な俳優交替で済ませられない。
そこで、脚本編集者のアダムスは一計を案じた。'Destiny of the Daleks' の冒頭、ターディスでK9を改良中のドクターがロマーナを呼ぶと、これまでのマリー・タムではなく、ララ・ウォードが登場する。当然、ドクターは彼女のことをアストラ姫だと思うが、アストラ姫に姿を変えたロマーナだった。
突然の変身について、ロマーナはこう説明する。「この見かけのほうがいいかと思って、アストラ姫の姿を借りた("I thought it looked very nice on the Princess.")」と。ドクターに別の姿になってくれと言われたロマーナは、別室へと去り、ドクターの意に添えるように次から次へと違う姿で登場する――が、どれもぱっとしないということで、結局は元の、アストラ姫そっくりの姿に戻る。
確かにこれで、ロマーナとアストラ姫が同じ顔をしていることへの説明はついた。が、今度は別の問題が浮上した。『ドクター・フー』において、ドクターが属する種族は「再生」という形で新しい身体を手に入れることができるけれど、「再生」は全部で12回しかできないとされている。また、「再生」した後にどんな身体になるか、自分の意志で選ぶことはできない、ということにもなっている。故に、'Destiny of the Daleks' の冒頭で行われたロマーナの「再生」は、『ドクター・フー』の約束事を大きく破っていることになり、多くの番組ファンを怒らせる結果となった。
'Destiny of the Daleks' が番組ファンの逆鱗に触れたのは、ロマーナの「再生」の件だけではない。『ドクター・フー』シリーズ最大の悪役であるダーレクが、このエピソードでは恐ろしいどころか徹底的に茶化されていることも問題視された。
'Destiny of the Daleks' で、ロープを使って天井から脱出したドクターは、後を負ってきたダーレクに向かってこう叫ぶ。「宇宙一優秀な種族だというなら、僕らを追いかけて上がって来いよ("If you're supposed to be the superior race of the universe, why don't you try climbing after us?")」。
ダーレクは、自分たち以外の種族を滅ぼすことしか頭にない宇宙で一番危険な種族とされているが、その形体からして床を水平に進むことしかできない――当時の撮影では中に人が入って動かしているのだからなおさらである(※)。そのこと自体はファンの間でもお決まりのジョークだったかもしれないが、ドラマの本編で持ち出されるとなると話は別だ。
かくして'Destiny of the Daleks' は、オーストラリア・ドクター・フー・ファン・クラブでの投票でのワースト1位を始め、ファンの間で行われる数々のワースト投票にしょっちゅう名前が上がるエピソードとなった。
'Destiny of the Daleks' の脚本を書いたのは、ベテラン脚本家のテリー・ネイション。ダーレクという敵役を作り出した本人でもある。が、ロマーナが再生を繰り返したり、ドクターがダーレクをからかったりするシーンは、脚本編集者のアダムスが加筆したもので、ネイション本人は気に入らなかったようだ。結果として、'Destiny of the Daleks' は、ネイションが脚本を書いた最後の『ドクター・フー』作品となった(Chapman, p. 130)。
'Destiny of the Daleks' におけるアダムスの影響はもう一つある。このエピソードで、ドクターは、『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくる有名な哲学者ウーロン・コルフィドの本を読む。分かる人には分かる、『銀河ヒッチハイク・ガイド』への目配せだ。
全4話の第1話目で、倒壊したコンクリートにはさまれて動けなくなったドクターは、懐からThe Origins of the Universe というタイトルの本を取り出し、読み始める。が、すぐに笑い出し、「1行目から間違ってる ("He got it wrong on the first line")」とつぶやく。カメラのアングルからタイトルは分かるが、本の著者名の姓はコルフィド(Colluphid)だと分かるが、ファーストネームまでは分からない。
ドクターを救助するため、ロマーナはK9を呼びにターディスに戻るが、地面に仕掛けられた爆発物の余波で崖が崩れ、ターディスに近づけない。ロマーナの帰りを待つドクターは、"The conditions existing on the planet Magla/make it incapable of supporting any life form."と読んで再び笑い声をあげ、"He obviously realise the planet Magla is an 8,000-mile-wide amoeba that's grown a crusty shell. He does know."とつぶやいたところで、何者かに包囲される。ロマーナが戻ると、ドクターは何者かに連れ去られた後だったが、ロマーナは床に落ちていた本を拾い上げる。この時、著者のファーストネーム、ウーロン(Oolon)をかろうじて確認することができる。
※ 2005年以降の新シリーズでは、CGで描かれたダーレクは空を飛ぶことができる。新シリーズで最初にダーレクが登場するエピソード「ダーレク 孤独な魂」では、ダーレクから逃げようとする登場人物たちが階段を駆け上がり、階段下で立ち止まっているダーレクを見て「ご立派な殺戮マシーンのくせに、段差もクリアできないのかよ!("Great big alien death machine. Defeated by a flight of stairs!")」と浮かれるシーンがある――そして、宙に浮かび上がったダーレクに大慌てするのだが、このシーンがどの程度 'Destiny of the Daleks' を意識して書かれたかは不明。ただ、「ダーレク 孤独な魂」の脚本を書いたロブ・シアマンは、2005年に発売された 'City of Death' の特典映像でインタビューに応じているくらいだから、'Destiny of the Daleks' を知らなかったとは考えにくい。
第1回放送日 1 1979.9.1
2 1979.9.8
3 1979.9.15
4 1979.9.22
キャスト一覧
The Doctor | Tom Baker |
Romana | Lalla Ward |
Agella | Suzanne Danielle |
Commander Sharrel | Peter Straker |
Dalek Operator | Cy Town |
Mike Mungarvan | |
Dalek Voice | Roy Skelton |
Jall | Penny Casdagli |
Lan | Tony Osoba |
Movellan Guard | Cassandra |
Tyssan | Tim Barlow |
Veldan | David Yip |
スタッフ一覧
Director | Ken Grieve |
Assistant Floor Manager | David Tilley |
Assistant Floor Manager | Anthony Root |
Costumes | June Hudson |
Designer | Ken Ledsham |
Film Cameraman | Philip Law |
Film Cameraman | Kevin Rowley |
Film Cameraman | Fred Hamilton |
Film Editor | Dick Allen |
Incidental Music | Dudley Simpson |
MakeUp | Cecile Hay-Arthur |
Producer | Graham Williams |
Production Assistant | Henry Foster |
Production Unit Manager | John Nathan-Turner |
Script Editor | Douglas Adams |
Special Sounds | Dick Mills |
Studio Lighting | John Dixon |
Studio Sound | Clive Gifford |
Title Music | Ron Grainer and the BBC Radiophonic Workshop, arranged by Delia Derbyshire |
Visual Effects | Peter Logan |
Writer | Terry Nation |
'Destiny of the Daleks' のDVDは、2007年11月にイギリスで発売された。
〈オーディオ・コメンタリー〉
ララ・ウォード(ロマーナ)/デイヴィッド・グッダーソン(ダヴロス)/ケン・グリーヴ(監督)
〈特典映像〉Terror Nation
ダーレクの生みの親であり、脚本家テリー・ネイションを紹介する約30分のドキュメンタリー。生前のネイションを知るプロデューサーたちに加え、ニコラス・ブリッグス(『ドクター・フー』の熱心なファンで、『ドクター・フー』オーディオドラマ製作に携わった他、2005年以降の新シリーズではダーレクの声を担当している)、が、ネイションの人となりと、彼が書いた『ドクター・フー』作品について語る。
Directing Who
'Destiny of the Daleks' の監督ケン・グリーヴが当時を振り返って語る。その中には、当然、アダムスの思い出も含まれている。約10分。
彼がこの仕事に取りかかった時、テリー・ネイションが書き上げていたのは第1話の脚本と第2話の簡単な下書き(rough draft)、それに残り2話分のアウトラインだけだった。そのため、グリーヴは、プロデューサーのグレアム・ウィリアムズと脚本編集者のアダムスの三人で、脚本を完成させることになる。
グリーヴはアダムスとすぐに親しい友人となり、その交友関係はアダムスが亡くなるまで続いた。アダムスが素晴らしいユーモアのセンスの持ち主であることは周知の通りだが、物事をまったく違う角度から見て考えることのできる("a wonderful oblique thinker")ので、話し合ってアイディアを形にしていくには理想的な相手だったこと、仕事に煮詰まって「じゃあ食事にしよう」という話になり、パリに行ったことがないというアダムスを連れてパリで食事をしたこと(グリーヴはこの時のことを"It was one of the great experiences of my life"と表現している)、またアダムスはトム・ベイカーととても相性が良く、三人でかなり親密な関係を築くことができた、とも。CGI Effects
ドラマの中の17シーンを、新しいCDIで作った映像に差し替えて観ることができる。
Trails and Continuity
'Destiny of the Daleks' の予告映像。そのうちの一つは、完全に作り込まれたコメディ仕立てだったが、誰が脚本を書いたのかは不明。
Prime Computer Adverts
オーストラリアの「プライム・コンピュータ」という会社のテレビコマーシャル。トム・ベイカーとララ・ウォードの二人が、ドクターとロマーナの役柄そのままに「プライム・コンピュータ」のCMに出演している。