ダグラス・アダムスが世界各地の絶滅寸前の稀少動物に会いに行く。1985年にオブザーバーの依頼でマダガスカル島に生息するキツネザルの一種で絶滅危惧種のアイアイを探しに行くことになったアダムスは、記事の執筆とは別に、ラジオのドキュメンタリーも製作した。
このドキュメンタリーは、「Natural Selection: In Search of the Aye-Aye」というタイトルで、1985年11月1日にBBCラジオ4で放送された。ナレーションはアダムス本人。マダガスカルが独自の生物進化を育んだ理由について、稀少なキツネザルの中でも特に稀少なアイアイの特殊性について、約10分間に亘って彼自身の言葉で説明している。この企画を機に、旅で同行した動物学者のマーク・カーワディンとも意気投合し、アダムスはBBCのラジオ4に番組のシリーズ化をもちかけた。
こうして製作されたラジオ番組は、Last Chance to See と題して1989年10月4日から11月8日までの6週間にわたりBBCのラジオ4で放送される。1985年の「Natural Selection: In Search of the Aye-Aye」がアダムスの一人語りだったのに対し、シリーズ化された Last Chance to See ではピーター・ジョーンズがナレーターを務めており、また状況説明の多くをマーク・カーワディンが担っている。放送終了後、このラジオ番組を実際に聴くことは事実上不可能だった。せいぜい、2004年9月6日に発売された3枚組CDセット Douglas Adams at the BBC に収録された、番組のほんの一部分を聴くのが関の山だったが、2020年からようやくAudible等の配信サービスですべてをまとめて聴けるようになった。
タイトル 対象の動物 放送時間 第1話 Ralph, The Fragrant Parrot of Codfish Island カカポ 28分59秒 飛べない鳥カカポに会うためニュージーランドに行った時の話。『これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』では、「夜の鼓動」の章で描かれている。
第2話 Gone Fishing! ヨウスコウカワイルカ 29分5秒 揚子江に生息するヨウスコウカワイルカに会うために中国・安徽省の銅陵に行った時の話。『これが見納め 絶滅危惧の生きものたち、最後の光景』では、「盲目的恐怖」の章で描かれている。ラジオでは、本に書かれていた北京滞在のくだりはなく、上海から始まる。逆に、本には出てこない上海の散髪屋でのハードなマッサージ体験の様子と、武漢の水生生物学研究所見学の様子が入っている。
第3話 Animal, Vegetable or Mineral? アマゾンマナティー 29分2秒 アマゾンに生息するアマゾンマナティーに会うためにブラジルの熱帯雨林に行きアマゾン川を数日に亘って遡った時の話。現地ガイドの案内で、最初のうちは箱に入ったアナコンダや箱に入ったナマケモノなどを見せられて閉口するも、先に進むにつれさまざまな野生の生き物に出会う。高い木の枝にいるナマケモノを見つけ、枝を揺すってナマケモノを川に落とし、泳いで逃げようとするのをカヌーで追いかけて拾い上げて捕獲するシーンもある(一通り観察した後に解放)。が、肝心のアマゾンマナティーは、水位が高すぎて発見が困難だったこともあって、はっきりと視認することはできななかった。
アマゾンマナティーのくだりは本では割愛されたが、2009年にスティーヴン・フライとマーク・カーワディンによるテレビ版の続編が製作された時には再び取り上げられている。第4話 The Answer is Blowing in the Wind ロドリゲスオオコウモリ 29分29秒 ロドリゲス島に生息するロドリゲスオオコウモリに会うためにモーリシャスまで行ったところ、ロドリゲスオオコウモリには簡単に会えるとわかったため、より会うのが困難な動植物を見にラウンド島へと向かう。なぜ会うのが困難かと言えば、そもそもラウンド島に上陸すること自体が非常に困難だから。本でも書かれていた、命からがらでどうにか上陸した時の様子を、当時のリアル音声で聴くことができる。ロドリゲスオオコウモリも稀少だが、ロドリゲスオオコウモリよりはるかに稀少で絶滅寸前のモーリシャスチョウゲンボウの繁殖について、カール・ジョーンズやリチャード・ルイスが語っている。ようやくたどり着いたロドリゲス島では、地元の人に案内してもらって滑りやすい森の中を大量の蚊に襲われながら進み、野生のロドリゲスオオコウモリが飛び交う様を目撃する(そして翌日、専門家にもっと簡単にコウモリを見られる場所に連れて行ってもらう)。
第5話 A Man-Eating, Evil-Smelling Dragon コモドオオトカゲ 26分31秒 ドラゴン伝承の元になったとも言われるコモドオオトカゲに会うために、インドネシアのコモド島に行った時の話。ラジオ版では、バリのデンパサール空港でのチケットトラブルの様子をリアル音声で聴くことができる。複数のコモドオオトカゲがヤギを食らうショーの話も出てくるが、さすがに現場のリアル音声は流れない。コモドオオトカゲのショーは確かにすさまじく悪趣味だが、それでも観光客がヘリコプターでやってきてこのショーを見たがる限り、島民たちはコモドオオトカゲとの共存を受け入れるだろう。アフリカのマウンテンゴリラやインドのトラのように、観光収入と動物保護は切っても切り離せない関係にある。
第6話 The Sultan of Juan Fernandez フェルナンデスオットセイ 29分44秒 チリ沖合のファン・フェルナンデス諸島に生息するフェルナンデスオットセイに会うために、ロビンソン・クルーソー島に行った時の話。ファン・フェルナンデス諸島の中の最大の島のにロビンソン・クルーソーの名前がついたのは、18世紀初頭にこの島で4年間をたった一人で生き延びて救助されたアレハンドロ・セルカークの話をもとにダニエル・デフォーが『ロビンソン・クルーソー』を書いたから(ただし、小説ではロビンソンが取り残されるのはチリ沖ではなくカリブ海の島という設定になっている。)。実際にセルカークが4年間を過ごした島は、彼自身の名前をとってセルカーク島と呼ばれている。セルカークがいた当時、浜辺はものすごい数のオットセイで埋め尽くされていたという。が、その後の乱獲により姿を消した。一時は学者たちに絶滅したと考えられていたが、地元の漁師たちはその意見に与せず、後に漁師たちの主張通り200頭ほどのオットセイが再発見された。その後は、保護活動の成果で少しずつ頭数を増やしている。