1993年7月、アダムスは Weidenfeld and Nicholson という出版社の編集者、エマ・ウェイに会い、ビジュアル・ブック版『銀河ヒッチハイク・ガイド』という企画を持ちかけられた。
CG技術で人物や小道具や背景といった実写画像を加工し組み合わせて、未だかつてない豪華本を作る。実はこの時期、アメリカではコミックス版『銀河ヒッチハイク・ガイド』が製作されている真っ最中だったのだが、アダムスの気持ちはこの新しい企画へと向かうことになった。
アダムスはこの作品のコンセプト・アート・ディレクターに、テレビ・ドラマ版『銀河ヒッチハイク・ガイド』のメイキングを監督したケヴィン・デイヴィスを推す。まず、試験的に一枚の画像が作られ、1993年のフランクフルトでのブック・フェアで展示された。アーサーが自宅を守るためにブルトーザーの前のぬかるみに寝転がっている場面。アーサーのそばには『銀河ヒッチハイク・ガイド』を手に持つフォードが立ち、空にはヴォゴン人の宇宙船が浮かんでいる。この写真は実際に製作された本には採用されなかったが、後に
SFX magazine に掲載されたとか。この画像がフランクフルトでなかなか好評だったことから、本格的な製作が始まった。
アダムスとしては、単純に物語の主な出来事を視覚化していくのではなく、逆になるべくそれらを排したいと考えていた。「ちょっとした文章のあちこちに、もっとおもしろい話が見つかると思ったんだ」(Hitchhiker,
p. 275)――とは言え、『銀河ヒッチハイク・ガイド』の中でも最大の鍵である「42」だけは外せないことは、アダムスも分かっていた。
ビジュアル版『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくる42個の球体は、アダムス自身が製作したものである。アダムスいわく、「みんな、僕の書いた文章に秘められた意味だの謎だの重要性だのを探し出そうとする。だったら逆に僕が本当にパズルを作って、何人がそれを解けるか試してやろうと思ったんだ。勿論、誰も注目してくれなかったんだけれど」(同,
p. 275)。縦6個横7個の配列と、色彩のヴァリエーションに一体どういう意味があるのか、このパズルの正解は残念ながら明かされていない。
42のパズルのみならず、アダムスはキャストとしてもこの本に参加している。物語のラストに登場するふたりの警官のうち、シューティをアダムスが、バン・バンをアダムスのエージェントのエド・ヴィクターが務めた。また、ケヴィン・デイヴィスも冒頭のブルトーザーの運転手役でカメオ出演している。
1994年9月2日、ビジュアル版『銀河ヒッチハイク・ガイド』は出版された。批評家からもファンからも高い評価を得たにもかかわらず、評価にも増して販売価格が高すぎる(イギリスでは25ポンド、アメリカでは42ドル)こと、大きすぎて扱いにくいことも手伝って本は売れなかった。たちまち残本販売の安売り書店へと回され、そこで大幅値引き価格で販売された後、それでも売れない分についてはアダムスが自分で買い取ることになり、発売から半年後には残部がアダムスのオフィスに山積みされた。そして、今度はアダムスのホームページにて、アダムスのサイン入りでネット販売された。(写真はこちらへ)
ちなみに当初は、ビジュアル版『宇宙の果てのレストラン』の製作も予定されていたが、勿論取りやめになった。
なお、ビジュアル版『銀河ヒッチハイク・ガイド』のキャストは以下の通り(トリリアン役の女性以外は全員役者)
アーサー・デント Jonathan Lermit
フォード・プリーフェクト Tom Finnis
ザフォド・ビーブルブロックス Francis Johnson
トリリアン Tali
スラーティバートファースト Janos Kuruz
プロッサー氏 Michael Cule