1年前の第15回はオンライン限定だったが、2022年5月26日開催の第16回ダグラス・アダムス記念講演は、ロンドンの王立地理学協会で開催された。ただし、時勢を踏まえて現地だけでなくオンラインでリアルタイム配信されたほか、数日後にはオンデマンド視聴も可能になった。残念ながら配信映像では、現地で展示されていたアダムスのアーカイヴや写真は見られなかったが。
司会役は、前回に引き続き、ロンドン在住のコメディアン、レイチェル・ウィーレイ。
最初に登壇したのは、作家でコメディアンのアンガス・ドゥニカン(Angus Dunican)。『銀河ヒッチハイク・ガイド』をもじって冒頭のスピーチを行う。
続いて、司会役のレイチェル・ウィーレイが登壇し、「Save the Rhino」の保護活動家、ジョン・テイラーを紹介。ジョン・テイラーの挨拶の後、レイチェル・ウィーレイがこの日の一連の流れを説明する。そして、最初の講演者、フェイ・クラーク博士を紹介する。
フェイ・クラーク博士は動物学者で、特に野生動物の認知科学を専門としている。イルカの認知を研究した博士論文では、冒頭に『銀河ヒッチハイク・ガイド』の一節を載せたとのことで、今回の講演では主にイルカの認知とその研究方法について語られたが、イルカだけでなくゴリラ等の類人猿の研究も行っている。
ここで20分の休憩時間が入る。
休憩時間が終わると、コメディアンのジョン・ヘンリー・ファレ(John Henry Falle)が「The Story Beast」と名乗って登壇。アダムスのアーカイヴに残されていた未発表の詩作等を朗読する。
再び、レイチェル・ウィーレイが登壇し、今回のメイン講演者E・J・ミルナー=ガランドを紹介。
E・J・ミルナー=ガランドの演題は、「Finding optimism in a time of biodiversity crisis」。環境保護活動の現実は厳しいが、楽天的であり続けることこそが現実の厳しさを前に燃え尽きないための秘訣だと説く。
彼女の一番のお気に入りであり、保護活動の対象である中央アジア生息のウシ科の動物サイガは、ソビエト連邦崩壊後に密猟が急増し、個体数が激減したが、生息地域の各国が協力することで数を増やすことができた。次世代に向けて、サイガ保護の教育や啓蒙も進んでいる。とはいえ、常に順調だったわけではなく、2015年に20万頭のサイガが大量死した(感染症による病死の可能性が高いとのこと)し、アラル海の大半が干上がったりもした。が、あくまで「過去にあったもの」ではなく「今残っているもの」に目を向けて声を上げ続けることが肝要とのこと。怒りも大事だが、ネガティヴなメッセージだけでは他の人に届かないので、そういう意味でも保護活動家は楽天家であるべきだという。
E・J・ミルナー=ガランドの講演の後、レイチェル・ウィーレイの進行で、E・J・ミルナー=ガランドとフェイ・クラーク博士に向けてのQ&Aが行われた。