「ビッグ・イシュー」の記事

 以下は、2025年3月27日、ホームレスの自立支援のための雑誌「ビッグ・イシュー」の公式サイトに掲載された、イギリスのコメディアン、ロビン・インスのエッセイである。ただし、訳したのが素人の私なので、少なからぬ誤訳を含んでいる可能性が高い。そのため、この訳はあくまで参考程度にとどめて、全貌をきちんと知りたい方は、必ずオリジナルにあたってくださるようお願いする。


Douglas Adams loved much about life and the universe -- unlike today's billionaire space explorers Douglas Adams inspired the young Robin to look to the stars; Elon Musk's obsession with Mars has had the opposite effect

 私は一度、ヒッチハイクを試みたことがある。ブリストル近くの道路の待避所で、「ロンドン」と書いたボードを持って1時間ばかり立っていた――そしてあきらめてバスに乗り、前の夜のギグで稼いだ微々たるお金を使い果たした。今の私はお金があるので電車に乗れる。

 ヒッチハイクでM4道路を渡るテストには失敗したものの、かなりありえないことではあるが、私はりょうけん座を形成する渦巻銀河、M104ならどうにか旅することができるのではないかと思う。

 そもそも私がヒッチハイクしようと考えた最初のきっかけは、その他の多くのことと同様、サイエンス・フィクションから来たものだった。『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、で、疑問の余地なく私の人生にもっとも影響を与えた本であり、『ドクター・フー』のファンならそうなるのが当然だった。その著者は、私がわざわざ書くまでもないけどやっぱり書くが、ダグラス・アダムスであり、『ドクター・フー』の脚本編集者でもあった。『銀河ヒッチハイク・ガイド』は、私にとってはコメディとして『ザ・グッディーズ』と『若さでぶつかれ!』を、サイエンスとしてはアーサー・C・クラークの神秘的な世界とカール・セーガンの宇宙をつなぐ架け橋となった。

 中学生時代の科学の成績はたいしたことなかったが、宇宙の複雑さと奇妙さの魅力は深く心に刻まれ、宇宙学は、ブライアン・コックス教授との仕事を通して、私の生涯を関心事となった。無限について考える苦痛を打ち消すジョークを言う馬鹿者が私である。

 私が初めてアーサー・デント、フォード・プリーフェクト、ゼイフォード・ビーブルブロックス――この素晴らしきキャラクター名を一つ一つ楽しむ猶予を我に与えたまえ――について読んだとき、ここに出てくる物理学のアイディアの大半は熱烈なコメディマインドが産んだ狂気の産物なんだろうなと思った。不可能性とか、宇宙の終わりといった想像力ゆたかな多くのコンセプトが本当の科学的思考から生まれたものだと知ったのは、後のことである。

 イーロン・マスクはダグラス・アダムスは偉大な哲学者だと信じているが、『銀河ヒッチハイク・ガイド』への称賛が自分たちの希望通りに解釈をすることを許してしまう危険な領域に辿り着いたのではないかと気になっている。オーウェルや、ニーチェや、聖書のように。

 アダムスはこの生きている地球に大いなる関心を寄せていた。自身の最後のプロジェクトとなった、絶滅危惧種の動物についてのノンフィクション『これが見納め』を、もっとも重要な仕事だと考えていた。スペース・ファンタジーではなく地に足のついた現実、そして「代わりになる惑星B」はないことを痛烈に喚起するものだ。宇宙飛行士と話をしていると、宇宙から地球を見て生命の複雑な営みに彼らがどれほど感謝していたかを思い出す。

 マスクが愛しているのは人類が宇宙探検をするというアイディアで、ヴォゴン人の詩を夢見ているのではないかと私は危惧しているが、それだけでなく、進歩(といっても技術的な達成のことであって愛や幸せを増やすことではない)のためなら生きている惑星をも破壊してかまわないと考えているのではないかと恐れている。

 彼は火星旅行をし、今私たちが暮らしていてとっくに自然にテラフォーミングされている惑星をこのまま維持するより、火星をテラフォーミングすることのほうが大切だと思っているのではないか。彼には人類の可能性が見えるそうだが、個々の人間の生活には気付いてない。19世紀のエンジニアたちが素晴らしい技術革新を成した一方で、それが大勢の労働者たちが死に追いやられたのと同じように。進歩のコストを支払うのは貧しい人々であり、彼らが利益を被ることはないだろう。

 アダムスの作品が私の宇宙への関心に火をつけたように、マスクの仕事は私の人類の宇宙旅行やさらなる遠方への到達に関する興味をほとんどなきものにしてしまった。私たちには、ここでやるべきことがたくさんあるのだ。

 小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズで私が一番好きなのは、『さようなら、いままで魚をありがとう』である。他のどの作品よりも、愛、アーサーとフェンチャーチのロマンスが描かれている。これこそ、生きている惑星の奇妙さについての、一番大切なアイディアだと思う。

 ここでは、宇宙でもっとも稀なものを見つけることができる。それが愛だ。地球の外に生命はいるか? そこに愛はあるか? 私たちはどれだけ稀な存在なんだ?

 

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