アダムスがテレビドラマ『ドクター・フー』に脚本編集者として携わっていた頃、映画版の企画として 'Doctor Who and the Krikkitmen' というシノプシスを提案したが、実現しないままに終わる。が、そのシノプシスそのものは、後にニール・ゲイマンが執筆したアダムスの伝記 Don't Panic: Douglas Adams & The Hitchhiker's Guide to the Galaxy の巻末に収録された。
以下は、そのシノプシスの抄訳である。ただし、訳したのが素人の私なので、少なからぬ誤訳を含んでいる可能性が高い。そのため、この訳はあくまで参考程度にとどめて、全貌をきちんと知りたい方は、必ずオリジナルにあたってくださるようお願いする。
Dr Who and the Krikkitmen
ローズ・クリケット場――決勝戦の最終日。イングランドがオーストラリアに勝利するためには、あともう少し得点する必要がある。
ターディスが、会員専用のエリアに着陸する。ひどいマナー違反だ。会員たちは、(サラ・ジェーン・スミスと一緒に)出てきたドクターがとりあえずネクタイを着用していることと、会員証を振り回しているのを見て、ほんの少しだけ気を鎮める。
あと3点とらなければならない。打者が6点を叩き出し、観衆が喝采する。
クリケット場の中で、イングランドのキャプテンに「灰」が手渡される。ゆっくりと歩み寄ったドクターが、銀河の未来のために重要なものだからそれを渡してもらえませんかね、と尋ねたので、観客がどよめく。困惑が場を支配し、驚きと憤りが続くが、いずれもイギリス人が取り扱いを苦手とするものばかりだ。
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす男たちに、ドクターができるだけ明るく現状について話し合おうと試みていると、はるかにものすごいことが起こる。
グラウンドの中央で、小さなクリケット・パビリオンが実体化する。ドアが開き、白いユニフォームを着て帽子をかぶり、膝当てをつけてバットまで持った、どうみてもクリケットの選手の格好をしているとしか思えない11体のロボットがグラウンドに出てくる。
驚きが恐怖に変わる。これらのロボットが、厳しく訓練され無表情のままチーム一団となって動き、バットで近くにいる人を殴りながら灰が入った壺を強奪し、パビリオンに持ち去ろうとしたからだ。
飛び去る前に、二体のロボットがバットを光線銃のように群衆に向け、威嚇射撃としてショック光線を撃つ。別のロボットが赤いボールのようなものを空中に放り投げると、破滅的な音を立ててお茶のテントを直撃し、テントは間をおかず爆発する。
ロボットたちを回収したパビリオンのドアが閉じ、再び消え去る。
しばし呆然としていたドクターが、気を取り戻す。
「何てこった」彼はあえぐ。「つまり彼らは戻ってきたんだ」
「こんなのバカげている……ありえない!」人々が叫ぶ。
「バカげていないし、ありえなくもない」ドクターは宣告する。「私の全人生を通じて一番恐れていことだ。クリキットマンのことは耳にしていた。子供の頃に彼らの話を聞かされて震え上がったものだ。だが今まで実際に見たことはなかった。200万年も前に絶滅させられたと思われていたからな」
「でもどうして」人々は問いただす。「クリケット・チームの格好をしているんです? アホらしい」
ドクターはぞんざいな調子で説明する。長い年月の霧に包まれて失われたように見えても、真に重要な情報は人々の精神の中でイメージとして生き続け、それらのイメージがクリケットというイギリスのゲームを生み出したのだ、と。銀河全体のありとあらゆる種族の中で、恐らくイギリス人だけが、宇宙を分断したもっとも恐ろしい星間戦争の記憶をよみがえらせ、一般的にとてつもなく退屈で無意味なゲームと思われているものへと作り変えた。それ故、地球は、他の銀河の者たちから常に少しばかり不信の目で見られてきた。迂闊だっただけだとしても、あまりにグロテスクで悪趣味すぎて有罪、ということだ」
ドクターはしばし笑顔になり、おもしろい試合だった、記念にボールをもらえないかな、と言う。
ドクターとサラはターディスで去る。
続くいくつかのシーンでは、ドクターがサラに説明する、という形をとってクリキットマンの歴史背景とドクターとタイム・ロードたちとのやりとりを視聴者に伝える。フラッシュバックとか、ガリフレイの記録保管庫からの情報という形をとれるなら、なおよし。クリキットの歴史概略
惑星クリキットは、銀河のはずれの、隔絶された場所にある。
おまけに、巨大な不透明のチリ状の雲に覆われていたせいで他の銀河の目にとまることもなく、ますます隔絶されてしまった。
何百年もの歳月の間に、この惑星でもさまざまな分野の科学が磨かれていったが、天文学に関しては、当然のことながら、事実上まったく発達しなかった。
その歴史を通して、クリキットの人々は異星人の存在など一度たりとも想像しなかった。それ故に、難破した宇宙船がチリ状の雲を横切り彼らの住まいの近くに着陸した時は、クリキットの全住民が強烈なトラウマになるほどの衝撃を受けた。
まるで生命体の中にあった引き金がひかれたようだった。どこからともなく湧き出た、種の意識のもっとも根源的な何かが、彼らを一撃した。一夜にして彼らは、知的で洗練されていて明るい普通の人々から、知的で洗練されていて明るい偏執的よそ者恐怖症患者となった。
静かに、執念深く、クリキットの人々は新たな目的に身を投じた――その目的とは、自分たち以外のすべての生命体を根絶やしにすること。
一千年間をかけて、彼らは驚くべき速度で仕事をやり遂げた。巨大な星間戦争をやり抜くための技術を調査し、磨き上げ、作り出したのだ。
彼らは宇宙を瞬間移動する技術も身につけた。
そしてクリキットマンを作った。
クリキットマンは人間型のロボットだ。白いユニフォームを着て、レーザービーム内蔵のヘルメットをかぶり、手に持っているバットの形の武器は恐ろしい光線銃であり、かつ、接近戦の際は棍棒としても用いられる。足裏の滑り止めはロケットエンジンになっていて、空を飛べた。
独自のエコ設計により、彼らはバットで打つことによって、素晴らしく正確かつ強力に手榴弾を放つことができた。
これらの手榴弾は、小さくて赤い球体で、ちょっとした焼夷弾から核弾頭までさまざまな種類があったが、衝撃によって爆発する。安全ピンを抜いて、バットで打つわけだ。
ついにすべての準備が整うと、クリキット軍は何の警告もなしに銀河の全主要エリアに向けて壮絶な攻撃を開始した。
銀河は目を回した。この頃、銀河は大いなる調和と繁栄を楽しんでいた。そのシンボルとしてよく表されたのがウィケット・ゲート――垂直に立った三本の棒が短い二本の横棒を支えている。左の縦棒は鋼鉄製で強さと力を表し、右の縦棒は強化ガラス製で科学と理性を表し、中央の縦棒は木製で自然と精神を表している。それらが支える二本の横棒のうち、金製の横棒は繁栄を、銀製の横棒は平和を表している。
クリキットと、クリキット以外の全銀河との星間戦争は一千年間続き、既知宇宙全体に大惨事をもたらした。
千年間の戦争を経て、銀河軍は、手痛い当初の敗北にもめげず、クリキット人を打ち負かすことに成功した。そこで新たに持ち上がった問題というのが……大いなるジレンマ
クリキット人の外人恐怖症は決して揺るがず、またあまりに好戦的なので、他者との平和的共存は不可能だった。彼らは、自分たち以外のすべての生命体の根絶こそ聖なる目的だと信じ続けていたのだ。
しかし、彼らは根っからの悪というわけではなく、単に一連の奇妙な出来事の犠牲者であるにすぎない。それゆえ、単に彼らを皆殺しにすれば済むというものでもなかった。
じゃあ、どうすればいいんだろう?解決
惑星クリキットは、スロータイムの膜の中に未来永劫包み込まれることになった。この中では、生命はほとんど無限なくらいゆっくりと時を過ごすことになる。すべての光は膜の中で屈折させられるため、膜の外側の宇宙を見ることも通り抜けることもできない。外側から開けない限り、幕を破るのは不可能だ。
エントロピーの働きにより、いつの日か全宇宙が動きを止め、そしてとてつもなく遠い将来において、まずは生命が、次に物体が、存在することをやめる時が来るだろう。その時、スロータイムの膜から惑星クリキットとその太陽が出てきて、宇宙の黄昏の中で孤独に存在することになるだろう。
膜を破るための鍵は、膜の軌道をゆっくりと周回する惑星に置かれている。
鍵は、全銀河の結束のシンボルだった――鋼鉄と木と強化ガラスと金と銀。
膜に鍵をかけられた直後、逃げ出していたクリキットマンの一団が鍵を盗もうとし、その過程で鍵は爆発してバラバラになり、時空渦のどこかに放出されてしまった。それぞれの部品がどこへ飛ばされたか、タイム・ロードたちは監視していた。
逃げ出したクリキット人の一団を乗せた宇宙船もまた、空中から吹き飛ばされた。
その他の何百万ものクリキットマンも破壊された。
ドクターとサラは答えを求めてガリフレイに行く。
ドクターは、タイム・ロードたちのお役所仕事的な無能っぷりに激怒する。時空渦から出現したウィケットの最後の部品は木製の縦棒で、1882年、オーストラリアのメルボルンで実体化したが、翌年焼けて灰になってしまい、トロフィーとしてイギリスのクリケット・チームに渡された。
それから100年経ち、ようやくタイム・ロードたちは、ウィケットのすべての部品がこの世界に出回っていて、どうにか安全に回収して保管しなくてはいけないことに気づいたのだった。
最初のうち、タイム・ロードたちはクリキットマンたちが木製の縦棒の「灰」を盗んだというドクターの話を信じなかった。すべてのクリキットマンの所在は把握されており、安全だというのだ。
「安全だって!」ドクターは叫ぶ。「200万年前にすべて破壊されたと思ってたがね!」
「破壊された、というのはちょっと違うかもな……」タイム・ロードの一人が口を開き、思いがけない話が出てくる。
クリキットマンは、単なるロボットというより、知覚のあるアンドロイドに近いように思われた。戦時において、その違いは決定的だった。ロボットは、どんなに複雑で、無限に近い反応パターンがあるせいで知的な思考をしているように見えたとしても、プログラムされた戦闘マシンにすぎない。
その一方、知覚のあるアンドロイドは、プログラムされたというより教育されていて、自ら積極的かつ創造的に思考することができ、そのせいで能率とか従順さの面では少しばかり劣る――つまり、彼らは人造人間であり、銀河のジュネーヴ協定で保護される対象なのだ。それゆえ、クリキットマンを破壊することは許されず、代わりに時空渦の一角、深い時間(ディープ・タイム)の奥に特別に構築された時間停止部屋に彼らを収容し、タイム・ロードたちが完全管理することになった。以来、そこを出たクリキットマンはいないという。
突然、風防ガラス製の縦棒が隠し場所から消えたとのニュースが届く。タイム・ロードたちはドクターの話が本当だった可能性を認めざるを得なくなり、彼にウィケット・ゲートの残りの部品の隠し場所を教える。
ドクターとサラは、残りの部品の隠し場所へと急ぐ。
まずは鋼鉄性の縦棒。遅かった。既になくなっていた。
次に金の横棒。これも手遅れ。
その次が銀の横棒。まだ残っている! 彼らがこれを回収すれば鍵は使いものにならず、宇宙は無事だ。
銀の横棒は、惑星ベスセラミンでは聖遺物として崇められていた。ドクターとサラが崇拝の間に出現し、銀の横棒を持ち去ろうとすると、案の定、惑星ベスセラミンの人々は少しばかり動揺した。ドクターにはちゃんと説明する時間がなかったので、崇拝の間を去る前にせめて彼ら全員に向かって別れの挨拶しようと軽く頭を下げたその瞬間、ドアが開き、クリキットマンのバットがドクターに向かって振られる。
彼らが到着したのだ。
その場で戦闘が起こり、ベスセラミン人はドクターの側につくことを余儀なくされる。
ドクターはクリキットマンのパビリオンへの入り口を見つけ、決死の覚悟で中に入る。死んでもおかしくないような一撃をくらい、意識朦朧としながらドクターがレバーを引くと、クリキットマンはがくんとうなだれて静止した。
ドクターは、気づかぬうちに彼らのスイッチを切っていたのだ。戦闘は終わる。
ドクターは我が目を疑った。こんなに簡単にスイッチが切れるなら、知覚のあるアンドロイドとはとても言えない、単なるロボットにちがいない――だとしたら、タイム・ロードたちの話は何だったんだ? どうしてクリキットマンは破壊されなかったんだ?
ベスセラミン人は気を取り戻しつつある。サラは、半ばぼうっとした様子で、動かなくなったクリキットマンの顔を眺めている。じきに、彼女も正気に戻る。視聴者に(ドクターは気づいていないが)彼女が催眠にかけられた可能性があることを示唆させる。
ドクターは、内部を調べるために一体のクリキットマンを解体する。上手にアンドロイドっぽく見せかけているが根本的な造りは完全にロボットであり、ちょっとした検査で誰でもすぐにわかるはずだった。もちろん、きちんと調べることを望まなかった場合は別だ……。
ドクターとサラはターディスに戻る。次にやるべきことは明白だ。クリキットマンがただのロボットだとわかったからには、ただちに破壊されるべきだ――ディープ・タイムに向かうべし。
サラは、クリキットマンとパビリオンを惑星ベスセラミンに放置するのではなく、ガリフレイに運んで安全に保管するか破壊するべきだと指摘する。
ドクターは、両方を同時にやることはできないと文句を言う。
サラが頭のいい提案をする。ドクターがパビリオンの設定をすべて初期化したので今やクリキットマンは完全に無害だと保証されているなら、自分が彼らをガリフレイに連れて行き、そこでドクターの帰りを待つ、と。
筋は通っている、と、ドクターは言い、同意する。ドクターは、彼が背を向けていたほんの短い時間にサラが素早く静かにターディスのスイッチをいくつか操作したこと、その時の彼女の目に奇妙で知的な光がまたたいていたことには気づいていない。
二人がターディスを出た時、サラは明かりを隠すようにこっそりとパネルの上に帽子を置く。
ドクターはパビリオンを初期化し、どちらかというと不承不承な様子でサラに託す。
サラは一人になるや否や直ちにパビリオンを元の設定に戻し、非物体化する。
ドクターはパビリオンが去るのを見守った後、ターディスに戻る。
ターディスのコントロールを設定しようとして、一つか二つ、間違った位置にあることに気付く。一瞬、眉をひそめてから再設定し、ターディスを非物体化する。
ディープ・タイムへの道のりはとんでもなくややこしく、ガリフレイのタイム・ロードたちの手を借りる必要があるということが明らかになる。
どうにかこうにかターディスは生命維持装置でいっぱいの大きな部屋に実体化する。似たような部屋が、他にもたくさんあるらしい。
彼はターディスを出る。サラの帽子の脇を通るが、帽子の下で警告ライトが点滅していることに気付かない。
彼が去った後、何者かの手が帽子を取り除ける。帽子の下のパネルに書かれた警告は、「バリアが破損、ターディス内に侵入者あり」。
サラの手だった。見つからないよう気をつけながら、彼女はドクターに続いてターディスを出る。
ドクターは次の部屋に向かおうとしている。サラはその部屋の壁にセットされた巨大なコントロールパネルに近付き、注意深く、静かに、スイッチを動かす。
クリキットマンたちがターディスから出てくる。
ドクターは生命維持装置を開け、中に入っていたクリキットマンの内部仕様をチェックしている。
彼のすぐ後ろで、別の生命維持装置が開こうとしている……。
ドクターは自分の作業に集中している。このクリキットマンも、間違いなくただのロボットだ。
「こんにちは、ドクター」という声が聞こえる。彼が目をあげる。そこにいたのはサラ・ジェーンだ。彼らの周りを、機能を回復したたくさんのクリキットマンたちが取り囲んでいる。すべての生命維持装置が開いている。
バットが空を切り、ドクターの後頭部を直撃する。彼は倒れる。
意識を取り戻すと、ターディスに寝かされていて、サラとクリキットマンたちに取り囲まれている。
「ガリフレイにいるはずだったのに」彼は彼女に言う。「どうしてここに? パビリオンはターディスと違うから、ディープ・タイムまでたどり着くことはできないのに」
その時、サラの帽子で隠されていたパネルの点滅が目に入り、合点がいく。彼は必死で立ち上がろうとして、ボタンを押す。壁が消え、壁の後ろにあったパビリオンが姿を現す。それもターディスの中だ。
「だからスイッチを切ったのか。ターディスの防御フィールドを弱めておいて、パビリオンのコントロールをリセットし、ガリフレイに向かう代わりにターディスの中で実体化したんだな。要するに、私はディープ・タイムまでタダ乗りさせてやったんだな」と、ドクター。
クリキットマンが、全くリキット軍の復活を宣言する。500万ものクリキットマンがディープ・タイムの時間停止部屋から通常空間へと移動した今こそ、惑星クリキットの支配者たちの解放に向かわなければいけない。
クリキットマンはドクターに、ターディスで鍵が置かれている小惑星に移動するよう命じる。
「拒否したら?」ドクターが尋ねる。
「私が自殺する」催眠術にかかったままのサラ・ジェーンが、ナイフを自分の喉につきつける。
ドクターは応じる。
ターディスがその小惑星に実体化するや否や、サラ・ジェーンはくずおれる。クリキットマンにとって、彼女はもう不要だ。意識を取り戻した彼女は、惑星ベスセラミンでの闘いの後のことは何も憶えていない。
クリキットマンたちは、灰を元の棒の形に作り直し、ウィケット・キーも作り直す。
彼らはそれを捧げ持って小惑星の地表に降り立つ。
ドクターはサラに、今のところ全く何も見えないけれど、彼らの前にはたった一つ、惑星クリキットがあるのだと説明する。200万年もの間、外の世界の目にとまることもなく隔絶されていたが、5年しか経っていないように思われている。別の見方をすると、彼らは他の宇宙と隔てている巨大なチリ状の雲を目にしていることになる。
小惑星の地表に巨大な聖壇風の建造物が出てくる。一人のクリキットマンが上り、レバーをひく。聖壇から風防ガラス製の箱が出てくる。深い溝が彫られていて、ウィケットをまっすぐに支えるためのものだとわかるデザインになっている。ウィケットが差し込まれる。光り輝く。起動音が聞こえる。キューブリック監督が子供のように泣き出しかねない美しさで、彼らの前にゆっくりと星が出現する。遠くて小さいが、視認できる。
全クリキットマンがその厳かな光景に顔を向け、一斉に詠唱する。「クリキット! クリキット! クリキット!」
破壊の瞬間、ドクターはサラの腕を掴み、ターディスに向かって駆け出す。小惑星にいるクリキットマンの小グループを放置して、彼らは逃げ出す。
ドクターは、既に宇宙に拡散したロボットたちと戦うのは無意味だと説明する。こうなった以上、彼らに残された唯一のチャンスは、すべての中心であるクリキットに戻ることだ。ドクターは明らかに恐怖でこわばっている。惑星クリキットは、クリキット人以外の者にとっては、どこよりも恐ろしいところだ。そんな場所に向かい、彼らの気持ちを変えなくてはならないとは……。
彼らは惑星に降り立つ。
街の裏通りを抜け、注意深く道を選びながら歩いていたが、不意に思いがけず中央広場に出て、大勢の人々と出くわしてしまう。
全員の顔に、驚きの表情が浮かぶ……。
両者ともに数秒ばかり固まった後、群衆の間からわめき声が上がる――純粋でケダモノじみた恐怖と憎しみの声だ。ドクターとサラは、追ってくる群衆から死に物狂いで逃げる。
彼らは裏道で隠れる――先回りされていたことに気づく。倒されて気を失う……。