ショートストーリー 『とあるクリスマスのお話'04』 街の中はどこもかしこも赤や緑の装飾で飾られ、木には電飾が光っている。 周りを見回すと街中はカップルで溢れている。 そう、今日は12月24日。 クリスマスイブだ。 私は夕方から買い物をしに街に出たが、そんな街の状況を見て買い物に来たことを後悔した。 必要な買い物だけをさっさと済ませて早々に家へと引き上げた。 こうして私は20回目のクリスマスも家で家族と迎えることになった。 プレゼントを楽しみにしていた幼少時代以来、クリスマスにはとんと縁のない生活を送っている。 食卓にあがるのがケンタッキーのクリスマスバーレルであること以外、いつもの夕食と何も変わらない。 「ごちそうさん」 チキンをたらふく平らげ私は自分の部屋に戻った。 「あー、最後の1本はやめとくべきだったかなー」 と口では言うものの、ほとんど後悔していないから困ったものである。 おもむろにパソコンのマウスを握り、お気に入りのサイトを巡回をする。 なんらいつもと変わらない生活だ。 「どいつもこいつもイブだっていうのに暇そうだなぁ」 そんな独り言を言っても、お前もだろと突っ込んでくれる人などもちろん居ない。 「あぁ、今日はMステのスペシャルの日だったか」 テレビを付けるとWの二人が歌っている姿が映し出された。 「なんでバックダンサーを呼ばないかなぁ」 ブツブツ文句を言いながらしばらくテレビを眺めていたが、チキンをお腹いっぱい食べたこともあって早くも眠気が襲ってきた。 眠い目をこすりながらリモコンでチャンネルを1周してみるも、面白そうな番組がみつからなかった私は、ちょっと早めだったが眠りにつくことにした。 やはり早く寝すぎたのだろうか。 夜更け過ぎにふと目が覚めた。 私は布団を掛けなおし、再び眠りにつこうとした。 しかしその時、窓の方から物音がすることに気がついた。 「クリスマスに泥棒か?」 目をこすりながら窓の方に目をやった私は、その光景に目を疑った。 「も、桃子?」 そこには赤いダボダボのサンタクロースの衣装を着た女の子が居た。 「うわっ。や、やばっ」 慌ててその場を立ち去ろうとする女の子。 「え、ホントに桃子? ちょ、ちょっと待って」 「わぁ!」 (ドデーン) 慌てたその子はダボダボのズボンにつまずいて思いっきりコケてしまった。 「イタタタタ。ったく、こんなダボダボのよこすから」 なにやらブツブツと文句を言っている。 「あのー、だいじょうぶですか?」 私は目の前で繰り広げられる光景に目を疑いながらもそう聞いた。 「あー、うん、大丈夫、大丈夫です。これだけはっきり見られちゃあしょうがないか」 そういうと観念したような顔で立ち上がった。 「えっとー、あのー、も、ももこ?」 「はいっ!」 サンタの衣装をピシッと直し、少し改まって返事をした。 その表情はいつもテレビで見せるあの桃子スマイルだった。 「で、なんで桃子がこんなところに?」 頭の中には色んな疑問が浮かび混乱していたので、そんな質問しか言葉が出てこなかった。 「こんな日にこんな衣装でやってきたんだから、大体分かるでしょ?」 そう言いながら背中から白い大きな袋を下ろした。 「もしかして、クリスマスプレゼント?」 「せいかーい」 桃子は嬉しそうにそう言うと、白い袋に手を突っ込んで中を探り始めた。 「あっれー? もう残ってないじゃん」 どうやら袋の中はすでにからっぽのようだ。 「おっかしいなー。えーっと、リストリスト」 ポケットから表が書かれた紙を取り出し、なにやら確認している。 私はその姿をただただポカーンと眺めていた。 「あれ? どっかに落としてきちゃったかなぁ。なんでだろー?」 桃子は困ったぞという表情で何度も袋の中をのぞきこんでいる。 とうとう諦めたのか申し訳なさそうな表情でこちらに向き直った。 「えっと、なんかすごく期待させちゃって申し訳ないんですけど、プレゼントを忘れてきちゃったみたいで、えっと、ホントにごめんなさい」 今にも泣き出しそうなその表情に慌てた私は必死に頭を巡らせ言った。 「僕なら桃子のそのかわいい衣装を見れただけで十分良いプレゼントなので」 とっさに考えた割には、我ながらうまいことを言ったなと思った。 「そ、そうですか?」 桃子は照れながらもどこかまだ申し訳なさそうな表情をしている。 「それに、桃子からのプレゼントなら今年1年でいっぱいもらってますから」 「えっ?」 桃子は不思議そうな顔をしていたが、その澄んだまなざしでこちらを見つめた。 その表情のかわいさにたじろぎながらも、私はさらに続けた。 「はっきり言葉にするのは難しいけど、元気とかいっぱいもらったし、えっと他にも」 私がそこまで言うと、桃子はニッコリと笑顔を見せ、ただ一言「ありがとう」と言った。 その言葉に戸惑った私もつい「こ、こちらこそ、ありがとう」と返した。 どこかその間が可笑しく感じて、思わず笑ってしまった私に、桃子もやさしく微笑んでくれた。 「あ、いけない。そろそろ戻らないと」 桃子はそう言うと、慌てて白い袋を手に持ち直し、窓の方へ向き直った。 そして、窓のところまで行くともう一度こちらを振り返って今迄で一番の笑顔を見せてこう言った。 「メリークリスマス」 その言葉とともに、私の目の前は一瞬にして白い光で包まれた。 その眩しい光で私は目を覚ました。 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。 「えっ? 今のって夢?」 あまりに鮮明に思い出されるさっきまでの光景に、今の出来事が夢なのかどうなのか分からなかった。 でも、今日もまた桃子からの元気をもらった。それだけは確かだった。 ※このストーリーはもちろんフィクションです。 |